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062_階段つき落としイベント自作自演の話

「チャナさん、スカーレット、ルイス、ジョエルまで、中庭で何かあったのかしら?」

中庭に面する回廊をヨウキに付き添われながら通りかかった皇女が、雑然とした雰囲気の騒ぎに気づき近づこうとするのをヨウキが止めた。


「デイジー様はこちらでお待ちください。

足が汚れます。」

ヨウキは取り巻き令息の三人に指示して、中庭にいるスカーレットたちを呼びに行かせた。


「デイジー様、お加減はもうよろしいのですか?」

生徒たちに一通り事情を聴き終わったスカーレットは、皇女が呼んでいると伝えられると、満面の笑みで皇女の待つ回廊の側まで駆け寄ってきた。

「ええ、大丈夫よ、それよりどうしたの?

園芸部の花壇のこの惨状は、ジョエルは大丈夫?」

ジョエルを含む園芸部のメンバーが熱心に中庭の植物の世話をしていることを知っている皇女は、ジョエルの心情を慮っている。

ルイスとチャナと一緒にいるジョエルは見るからに立腹している。

「それが、、、、」

スカーレットは、生徒たちに事情を聴いた内容を伝え、最初にチャナが疑われていたが実は女子生徒たちの見間違いで、恐らく学園に住みついている鳥や動物たちが荒らしたのではないかという見解に至ったことを話した。


ヨウキが花壇の方を見ると、確かに野良の補助キャラがちらほら見える。

が、それよりも、その補助キャラたちを見てジョエルが不服そうな顔で口を動かしているのをみて、呆れた。

「そっちもか。」


スカーレットから一通りの話を聞いた皇女は、力強く頷くとヨウキを振り返った。

「ヨウキ様、さすがに植物までは元に戻せませんが、私が花壇を元に戻します。

ですので、他の生徒たちに中庭から出るように伝えて頂けますか?」


「デイジー様、勿論です。」

「私も、伝えてきます。」

ヨウキとスカーレットがすぐに中庭の生徒たちに声をかけると、興味本位に見ていた生徒たちは、中庭から回廊にあがり、そして教室に戻って行った。

スカーレットに連れられて、チャナとルイス、ジョエルも皇女のいる回廊に避難してくると、皇女がさっそく土属性と光属性を融合させた魔法を使い始めた。


「では、戻しますね。」

花壇を形作っていた壊れた煉瓦が粘土状に戻り新しいレンガが構成され、まき散らされていた土が、花壇の中に戻り混ぜられ、小石交じりの土、湿った土、フワフワの土と層を作って奇麗な花壇に戻っていった。


「すごい!きれい。」

瞳を綺羅つかせながら、この世界の皇女の魔法に魅入られているチャナ。

土と光の粒が混ざりながら、土の乾き具合を調整していく皇女の手腕は見事なものだった。


「すごいよな、この世界もキャラクターも、これをオフィスメンバーが協力して作り上げている。」

皇女の後ろから、その姿と、色づき輝くこの世界の魔法を満足気に見ているヨウキを見上げたチャナは、小さく口を開いた。


「オフィスメンバーもすごいですけど、その人たちみんなを助けて回るヨウキさんもすごいです。」

金髪碧眼で高校生の姿のヨウキではないヨウキ向けて言ったチャナの小さな声は、スカーレットの大きな声にかき消される。

「ほんとにすごいです!

デイジー様の魔法は、ほら、無理だと言っていた植物も!」

チャナの隣にいたスカーレットが、根っこごと抜かれてしまった植物が花壇の周りに並べられるのを指しながら興奮していた。

植え直しに耐えられそうな植物を花壇に戻すと、皇女は魔法を放っていた両手を降ろした。


「これで精一杯だわ。

やっぱり、植物を完全に元に戻すのは難しいわね。」

皇女は、眉を下げてジョエルの方を見ると、ジョエルは首を振った。


「いいえ、デイジー様、有難うございます!

ここまで復活するなんて、さすがデイジー様です。

次は私が水をやります。」

ジョエルが深々と頭を下げると、水属性の魔法を使い花壇に雨というよりは、霧状の噴射で丁寧に水を撒きだした。

そこに、園芸部の道具小屋の屋根にいた野良の補助キャラのひよこがやってきて、霧の雨を浴びて喜んでいる。


「まったく、暢気なものだ、花壇を荒らしておいて。」

無邪気に遊ぶひよこたちに引き寄せられて、チャナのオウムたちまで霧雨の中に混じって遊び出したのを、困ったように嘆いたスカーレットの発言にジョエルの顔が強張った。


「アメアメサイコー」

「ココイベントイガイデアメフラナイ」

「ソウソウ」


「スカーレット様、ひよこたちに罪はなくってよ。

それより、他の生徒たちはもう下校し始めているわ。」

ルイスがスカーレットからジョエルを隠すように前に出て辺りを見る仕草をすると、スカーレットも釣られて首を動かした。

そこには回廊先の階段を登って教室に移動する生徒の他、多くの生徒が校舎の玄関に向かっていた。


「そうだった、午後の最後の授業も、ホームルームも終わってるのを、この騒ぎで忘れてた。

それに今日は、野外パーティがある日だ。」

スカーレットが両手を叩くとポンっと抜けた音がしたため、金糸の髪を揺らした皇女から笑いがこぼれた。

「ふふ、そうね、野外パーティにも向かわないとね。

でも、とりあえず、教務室に行って騒ぎの報告をしておかないといけないわ。」


「デイジー様が行かれるのなら、勿論私もいっしょに行きます。」

ヨウキが手を差し伸べると、皇女はその手を取って歩き出し、その後ろにスカーレットが、さらにその後ろに取り巻きの三人の令息たちがついて歩き出した。


「い、いつの間に、何あのすごくいい雰囲気!

もしかして、デイジー様とスカーレット様の好感度はヨウキさんの方がすごく上になってる?」

今更ながらに気がついたチャナは呆然と3階の教務室にいく6人を見送ってしまったが、姿が見えなくなってすぐに正気をとりもどし、慌てて追いかけた。


それを見送ったルイスが、周りに誰もいないことを確かめて、補助キャラのひよことオウムたち、それに寄ってきた他の野良の補助キャラたちの水遊びに付き合っているジョエルに声をかけた。

「まだオカンムリ?

スカーレット様は率直な性格だから、しかたないのだけど。」

それにジョエルは、俯いて小さく答えた。

「コノコタチハアラスナンテコトシナイノニ」


皇女たちを追いかけたチャナは、教務室のある3階へ登る階段の途中にある踊り場まで来たときにやっと、ヨウキの後ろ姿を目に入れることができた。


皇女とスカーレットが先に教務室に向かっており、階段上にヨウキの取り巻きである三人の令息たちが、最後尾に階段を登るヨウキがいた。


チャナが数段階段を登ったところで、追いついてくる事を予想していたヨウキが、数段下にいるチャナを振り向くと、その間に白いカードが浮かび上がった。


突然ヨウキと自分の中間に浮き出てきたカードには、階段で逆さまに横たわる白い服を着た天使の絵が徐々に浮かんできており、それを見たチャナは動揺してワナワナと震え出した。

「そんな、そんなつもりなかったのに、、、階段つき落としイベント!」


ヨウキには想定内のことだったので、動揺するチャナに追い打ちの説明を始めた。

「時間は放課後、踊り場のある階段で階段の上に悪役令息、階段の途中に男ヒロイン、そして一人以上の目撃者と攻略対象者が近くにいる。

だから、階段つき落としイベントの発生条件が、今、クリアされてる状態なんだよね。

俺が手を伸ばすだけで、つき落とせそうだけど、心の準備は良い?」

ヨウキの言葉にチャナは頭の中が真っ白になり、叫ぶ以外のことができなかった。

「えー?」

動揺のあまり、ヨウキの手がチャナを押す前に、チャナは足を滑らせて下に落ちてしまった。


階段を数段登っただけの高さでも、背中から落ちた衝撃があり、痛みはまったく感じなかったチャナだが、気持ち的にはとても痛かったので叫ばずにはいられなかった。

「痛い、いたたたあ!ひどい!

ヨウキさん、あんまりです!」


「大きな音がしましたが、どうしたの?」

廊下を先に行っていた皇女とスカーレットが、チャナが階段から落ちた音を聞きつけて戻ってきた。


「チャナさんは、自分が足を滑らせて階段から落ちたんです。

それをヨウキ様のせいにしてるんです。」

「ヨウキ様は、手を差し伸べて、助けようとされていたんです!」

「確かに俺にもそう見えました。

だけどチャナさんは、ヨウキ様に「ひどい」ということを言っていて。」

取り巻きの三人の令息は、自分たちが見て感じたままのことを、皇女とスカーレットに早口で説明した。


実際には落ちるところを見ていない皇女だが、三人の令息たちの発言を無視することはできない。

「チャナさん、どうしてそんなことを、、、」

「うそだろ?自分で落ちて人のせいにするなんて。」


階段つき落としイベントカードが天井から剥がれ落ち、ひらひらと揺れながらヨウキに吸い込まれていった。


ヨウキとチャナ、二人の前にそれぞれ薄白いパネルが浮かび上がった。

<階段つき落としイベントカード終了>

<断罪イベントカードが解放されました>


「うー、階段つき落としイベント、自作自演を印象付けての好感度マイナスなんて、あんまりです。」

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