061_4つ目の個人イベントカード発生と発動の話
「あ、消えちゃった。
嫌がらせイベント終了って、一体いつの間に、何がどうなったのか全然わからない。」
頭を抱えて戸惑うチャナの頭上では、5羽のオウムが飛び回って、何かを伝えようとしているのだがチャナはそれどころではなかった。
「ダメダナ、コレハ」
「キキカンリ、ゼロ」
「ゼロダナ」
「オレタチムリョク」
「ソウソウ」
「カードも全然見つけられないし、ストーリーだけ進んで行って、そうだ、カードを見つけなきゃ。」
チャナの前をポニーテールを揺らしながら困った顔をしているスカーレットとそんなスカーレットからグイグイと話を引き出すルイスが歩いているが、その二人を押しのけてチャナは辺りをキョロキョロと見まわしながら早足で進み始めた。
玄関前の広いスペースまで戻ってきたときに、中庭に続く回廊の方から、ジョエルが現れた。
ジョエルは三人を見つけると、淑女らしく歩いてはいるのだが、走っているのではないかと思わせるほどのスピードで近づいてきた。
「スカーレット様、ルイス様、チャナさん、大変なことが起こっています。
午後の授業が終わったので、園芸部の花壇のお世話をしようと中庭に行ったら。
とにかく中庭に来てもらえますか?」
水色のおかっぱの髪を揺らして、大変と言いながら無邪気な笑顔で話すジョエル。
ジョエルに案内された中庭では、園芸部が世話をしていた花壇の一つが、根ごと掘り返されたり、花びらをむしられたりとかなり荒らされていた。
その場にいた生徒たちが皆、中庭にやってきたチャナたちに非難の目を向けたことに、スカーレットがいち早く気づいた。
「どういうことだ、何故みんなあんな目を向ける?」
「あんな目?」
チャナが中庭を見まわすと、園芸部の道具小屋の上に野良の補助キャラのひよこが数羽、他にも校舎の端、花壇の隅だったりで姿を隠そうとする補助キャラたちがいたが、それとは逆に生徒たちは皆が皆、それとわかるように非難めいた目でチャナを見ていた。
戸惑っているスカーレットたちに、ジョエルは、声を潜めて状況を説明した。
「ピンクのショートカットの髪型の男子生徒が花壇を荒らしているのを見たという証言が複数あるんです。
いま、この学園にピンクの髪の男子生徒に相当するのは、一人だけなので、皆チャナさんが犯人だと思っているようです。」
「バカな!少なくともチャナは私たち生徒会メンバーの1人とは必ず一緒に行動している。
こんなに花壇を荒らせるわけがない!」
激怒したスカーレットが、チャナに避難の目を向ける生徒たちを一括するように、大きく叫ぶと、大抵の生徒は驚いているが、数人の生徒が気まずく下を向いたり目を逸らしたりしていた。
スカーレットの声に驚いた生徒たちの数人から、転校生犯人説に疑問の声が上がった。
「えっ?じゃあ、犯人は転校生じゃないんじゃないか?」
「スカーレット様たちが嘘をつくとは思えない。」
チャナたちを中庭に案内したジョエルは生徒たちの声を後押しするように、チャナの手を握った。
「そうですよね。
チャナさんは犯人ではありません。
私はチャナさんを信じます。」
ジョエルの奇麗な瞳が真っ直ぐにチャナを捉えると、その頭上に薄白いカードが現れ、徐々にジョエルの個人イベントカードの絵が浮かび上がってきた。
澄んだ青空を背景に水色の薔薇の花びらが舞い踊る、甘い笑顔ショット。
「あ、個人イベントカード、発動しちゃった。
イベントの発動条件は、確か、園芸部の花壇付近にジョエルがいる。
うん、いる。
荒らされた花壇があって、それにその犯人が近くにいる。
え、この中の誰かが犯人?」
チャナが花壇の周りに集まっている生徒たちを確認するが、十数人の生徒の誰が犯人かは検討もつかない。
「さすがに、あの中からすぐには犯人は分からないから置いといて、あと一つの条件は、好感度の低いプレイヤーが花壇あらしの汚名を被る。
んっ?私、今好感度低いの?ヨウキさんよりも!?
なんで?いつのまに?」
好感度の高さを維持していると思っていたチャナは、自分の好感度がヨウキより低いことに愕然としてしまった。
先ほどヨウキに言われた言葉、「もうそろそろ、好感度を逆転させてもらうよ。」が頭の中にコダマしていく。
「ええーい。
今はそんなこと考えている場合じゃない!」
頭を思いっきり振り回すと、こぶしを握って気合いを入れ、チャナは、花壇の周りにいる生徒たちを指して叫んだ。
「あの中に犯人がいる!」
2次元漫画的に言うなら、フラッシュバック、または集中線が背景に入っているだろうくらい、チャナはビシッと決めたつもりだった。
「なんだって?」
「このタイミングで言うかしら?」
突然のチャナの「犯人がいる」宣言に、スカーレットもルイスも驚きを隠せない。
チャナが指した方向にいた生徒たちは驚きと共に、チャナに更に非難の目を向けた。
「何を根拠に、証拠はあるのですか!」
「犯人がいるのなら証拠を見せてください!」
決めたつもりの場面で、証拠の提示を求められ動揺するチャナ。
「証拠?えっと。
そっちこそ、誰かが言っているってだけで証拠は無いじゃない。
こっちは個人イベントカードが発動して、発動条件満たしてるんだから、絶対この中に犯人がいる!」
「落ち着いてチャナ。
これじゃ、話が平行線で何もわからない。
チャナのアリバイは私たちが証明できるんだから、それより目撃した生徒たちに話を聞こう。」
スカーレットが意気込むチャナを落ち着かせるために、自分の両手でチャナの両肩を抑えこむと冷静に指摘した。
チャナの頭上で回りながら飛んでいた補助キャラのオウムたちが、羽を大きく羽ばたかせると、花壇前で騒いでいた女子生徒たちの頭上に移動した。
「コイツラダ」
「サッキ、ナニカノツミヲナスリツケルトイッテタ」
「な、なんですのこの鳥たちは。」
「しっしっ、向こうに行きなさい!」
いきなり頭上を回り出して何かを喋る鳥たちに驚いた女子生徒たちは、焦りながらオウムたちに向かって両手を振り回した。
「コイツラハンニン」
「ピンクノナニカモッテル」
「ソウソウ」
「失礼な鳥たちですわ。
仮に私たちが何かを話していたからと言って、それを実行した証拠でもありますの?」
オウムにハンニンと言われた数人の令嬢たちは、オウムの指摘に反論しながらも後ずさり始めた。
「あ、待って、逃がさないで、捕まえて!」
犯人という証拠もない令嬢たちを捕まえるのはさすがにまずく、オウムを追い払う女子生徒たちに近寄ろうとしたチャナを、スカーレットはチャナの肩に置いた手に力を込めて抑え込んだ。
「チャナ、ダメだよ。
オウムたちが言ってるだけでは証拠にならない。
それこそあの令嬢たちの「ピンクの髪の男子生徒を見た」という、ただの目撃証人より信憑性が薄い。」
スカーレットに窘められると、チャナは「でも、あの、」と言いながら、次の言葉が出てこなかった。
「チャナさん、大丈夫よ。
私たちはチャナさんの見方だから。
でも、たとえ本当だったとしても、何の証拠もなく人を犯人呼ばわりしてはいけないわ。」
ルイスが残念な生き物を見るような目でチャナを見つめて、優しく諭した。
ジョエルは、首を横に振った後、チャナの頭上のオウムたちを見た。
「あの、オウムたちも現場を見ていたわけじゃないから、仕方ないと思います。」
悲しいと言いたげな瞳のジョエルの頭の上に現れていた、個人イベントカード、澄んだ青空を背景に水色の薔薇の花びらが舞い踊る、甘い笑顔ショット、が、徐々に色をなくしていき、完全に絵が消えると、ひびが入り壊れていった。
「ジョエル様の個人イベントカードが壊れた?
まさか、ゲームオーバー?」
チャナは顔を青ざめさせた。
「チャナさん、顔が真っ青になっているわ。
ほら、スカーレット様がちゃんとここにいる皆さんにお話しを聞き始めてるわ。
何て言ったってアリバイがあるんですもの、大丈夫よ。」
チャナの顔色が変わったのは、ゲームオーバーだとまた最初からやり直さなければいけないからだが、薄透明のパネルは今回は出なかった。
「個人イベントカードが取得できなくても、ゲームオーバーじゃないんだ。
どっちにしろ好感度は上がってないってことだと思うけど。」
ルイスの心配を他所にチャナは一人でぶつぶつ言っていたが、その間にもスカーレットは聞き込みを行っていた。
スカーレットが、中庭にいる生徒たちに順番に事情を聴いて行くと、ピンクのショートカットの髪の男子生徒を見たと証言した生徒たちはさすがにウソがばれると思ったのか、あれは動物だったのかもと証言を翻しはじめた。
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後10話前後の予定です。