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054_2つ目の個人イベントカード発生と発動の話

「問題は、誰がチャナさんの教科書をあんなふうにしたかですわ。」

皇女は笑顔を崩さず決して怒りを表情に出しているわけではない、が、前髪にanger symbol が見ている。

anger symbol 要するに怒りのマークだ。


「教科書が破られていたのにはショックを受けましたけど、気にしていません。

そういえば私、男ヒロインという自覚がありませんでした。」


図書館の窓際でまったりとしていたチャナのオウムたちは首を横にコクリと曲げて欠伸がてら話しをしている。

「ショウガナイ」

「ナレテナイカラ」

「ダイジョウブ」

「ココデハドンナジブンデモ」

「ソウソウ」


教科書が破られてしまった後、お昼休みを挟んで午後の授業を終えたチャナたちは、放課後、ルイスと約束した図書館に来ていた。

図書館の一番奥の分厚い本棚の間にある6人席の机にチャナと皇女が向かい合わせで座り、午前中に教科書を破られた時のことを話しているのを聞いていたスカーレットは、本棚に背中を預けて立ったままイライラと腕を組んでいる。


「ルイス、遅いな。

自分から誘っといて、待たせるなんて。」

勉強が苦手なスカーレットだったが、皇女もチャナと一緒に図書館に行くというので、護衛兼任の自分が行かない訳にはいかず、しぶしぶついてきている為、皇女とはまた別の理由で不機嫌さが増している。


「ごめんなさい。

ルイスさんがジョエルさんを呼びに行ったのは、私がせっかくだからジョエルさんも誘えたらと言ったせいなので。」

チャナが自分の後ろでさらに体まで揺らし始めたスカーレットを振り向いて、申し訳なく思い頭を下げた。

スカーレットは本棚に寄りかかっていた背筋を伸ばすとチャナに向かって両手を横に振って「違う、違う」と慌てて声をあげた。

「チャナが誤ることじゃない、私が自分勝手にイライラしているだけだから!

ほら!こんな分厚い本がいっぱいで、」

スカーレットは、チャナに気を使わせたと、焦るあまりに本棚を力いっぱい拳で叩いてしまった。


普通であればそのくらいのことで本が落ちてくることはないのだが、スカーレットが寄りかかっていた本棚は、下の数段が空になって、腰より高い位置から軽い本が並び、上段の方に行くに連れて重い本が並ぶというバランスの悪い配置になっていたため、叩かれた振動で本棚が大きく揺れてしまった。

「わっわっわっ、やばい!まずい!」

スカーレットは両手を伸ばして本棚を抑えたが、斜めになった本棚の上段にある重厚な本がチャナに向かって落ち始めた。


「チャナさん!スカーレット!」

皇女が驚いて椅子を引いて立ち上がるが、自分の属性の光と土の魔法ではどうすることもできない。

「デイジー様!近づいてはだめです!危ない!」

本棚を抑えるスカーレットが近づいてこようとする皇女を必死で止める。


チャナは咄嗟に頭を守る姿勢を取ったが、頭の上に次々と降りかかってくるぶ厚い本がぶつかる感触はあっても全く痛くないことに気がついた。

「あっそうだった。

お昼にご飯を食べたときにお腹いっぱいにならないのと一緒で、何があっても痛くはないんだった。」

痛くはなくても本が落ちてくることに変わりはないため、しばらくそのままの姿勢で耐えていると、そこにルイスがジョエルを連れて戻ってきた。


「チャナさん!」

ルイスは近づきながら風を操り、強弱をつけると空気鉄砲のようにチャナにぶつかる重厚な本を打ち抜いていった。

本の落ちてくる気配が無くなったので、チャナが頭を上げるとテーブルの上に白いカードが浮かび上がって、色づき始めた。


「ルイス、いいところに戻ってきてくれました。」

皇女が戻ってきたルイスに声をかけている間に薄白い個人イベントカードに絵が浮かび上がった。


深みのある落ち着いた濃い色合いの白薔薇を背にしての、ルイスの力強い眼差し笑顔ショット。


イベントカードの笑顔と同じ笑顔をチャナに向けるルイス。


「えっ?個人イベントカード発生して今発動中?

こんなにうまくいくものなの?」


チャナを助けるそぶりも見せずにその一部始終を見ていたチャナのオウムたちはチャナを生暖かい目で見守っている。


「チャナさん、そんなに狼狽してよほど怖かったのね。

スカーレット、注意してもらわないと困るわ。」

本棚を支えたままのスカーレットはシュンと下を向いて小さく「ごめん」と呟きながら、本棚を元に戻して落ちた本を拾い始めた。


「それにしても変ですね。

真ん中の棚に軽めの本が残っていて、厚くて重い本が落ちているということは、重い本を上の棚に置いていたということでしょう。

普通重い本を上に、軽い本を下になど置きませんよ?」

ルイスと一緒にやってきたジョエルが本の配置に疑問を呈しながら、落ちた本を拾うのを手伝い始めた。


「そういえば、変な気がする。

もしかして、これはイベントカードが発動しやすくするための配置?」

チャナは都合よく考えてしまったが、本来はプレイヤーがカードの発動条件を整えるために画策するものなので、デフォルトではそのような考慮はされていない。

そして、今回はスカーレットが拳で本棚を叩いてくれたのでタイミングを合わせられただけで、実は本棚の上にはちゃっかりとヨウキの白いフクロウたちが潜んでいて、いつでも不安定に配置された本棚を揺らす準備が整えられていたのだ。


「ルイスさん!助けてくれてありがとう!

期待にこたえられるように頑張って勉強しますね!」

チャナは椅子を引いて助けてくれたルイスに駆け寄るとその両手を取って下から見上げて、キラキラした瞳の笑顔で心からの感謝を込めてお礼を言った。


「て、天使!

ううううう、チャナさん。

男子生徒のくせになんて可愛さを見せつけるんですか、これがあざとさですか?

何ですか?

もう、何でもいいです、こちらこそ頑張って教えさせていただきます。」


個人イベントカードが、ルイスの後ろに浮かんでそのまま咲き誇った白色のバラと一緒に消えて行った。


「あれ?イベントがもう終了しちゃった?

何もしてないのに、好感度が上がったの?」


「何言ってるんですか、こんな両手を掴んで可愛く見上げられたら、瀑上り、上等です。」

ルイスは横からチャナの肩を両手で抱き込んだ。

「何やってるんだ、ルイス?

淑女らしさはどこに行ったんだ?」

スカーレットが、顔を赤くして眼鏡の奥の瞳を潤ませているルイスを訝しげに見ながら、最後の本を拾い上げて本棚に直した。


そんなやりとりを皇女は微笑まし気に見て「勉強を始めましょう」と声をかけながら椅子に座りかけたが、そこに4人の男子生徒が近づいてきた。

たった今まで和やかな雰囲気だったのだが、皇女が近づいてきた自分の婚約者である公爵令息にかけた声は冷ややかなものだった。

「ヨウキ様は、図書館に何か用でも?」


ゲームスタート時の朝とは全く違う皇女の態度に好感度がほとんど0になっていると感じているヨウキだったが、全く意に介さず皇女の手を取ると朝と同様に手の甲に唇を近づけた。

「我々も勉強をしようと思ったのですが、お姿が見えたので挨拶に来ただけです。」


ヨウキはルイスに両手で肩に抱き着かれたままのチャナをみて、何か考えるような表情をしたが小さく首を振った。

「チャナ、業務連絡。

急に会議が入ったから1時間ほど抜ける。

ここだと1日抜けることになると思うから、明日はAI悪役令息の相手をしといてやってくれ。」


「会議、ですか。」


ヨウキがチャナに手を振りながら「じゃ、あとで」と言った後、「ログアウト」と続けるとチャナの目の前に薄白いパネルが表示された。

<悪役令息:ログアウト>

<相手プレイヤーがログアウトしたため、すべてのイベントは停止します。>

<対戦プレイヤーが二人揃うまで好感度のアップダウン及びカード発生・発動も停止状態となります。>

<ゲームを続けることは可能です。学園生活をお楽しみください。>


白い薄透明のパネルが消え、目の前の金髪碧眼の令息の瞼が半分閉じ、そこからゆっくりと目が開かれ、ロード終了後AI悪役令息に変わった。


皇女の冷めた瞳が普通の表情に変わり、勉強のために他のテーブルに移動するAI悪役令息と取り巻きの三人の令息たちを皇女は軽い会釈で見送った。


「会議ですか、聞いてないですよ、ヨウキさん」

肩を落とすチャナを椅子に座らせながらルイスは張り切って持ってきた教科書をテーブルの上に広げた。

「チャナさん、さあ、ノートを広げてください、勉強を始めましょう。

そうだわ、明日は学園に隣接している街のマーケットに遊びに行きましょう。」


「それはいいね。」

スカーレットもこれには嬉しそうに賛同していた。

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