表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/71

047_初回イベントでの失敗の話

学園のアーチ状の門を通り抜けてすぐに声をかけて来てくれた攻略対象者である4人の令嬢たちと、学園の玄関へまっすぐ伸びた白い道を通るチャナの前に、金髪碧眼の長身の男子生徒とその生徒を取り巻く三人の男子生徒がいた。


チャナは金髪碧眼の長身の男子生徒を見て、すぐにそれが対戦相手であるヨウキ扮する悪役令息であることに気がついた。


ヨウキはゆっくりと歩きながら近づいてきて皇女デイジーの前まで来ると、その手を恭しく取りながら体を半分に折り曲げて手の甲に軽く口付けた。

「お早うございます、わが婚約者、デイジー様。

今日もその美しさで周りの景色をかすませていますね。」


「う、まぶしい。」

風にたなびく金髪とその笑顔から発光される光をまともに浴びたチャナは、このライバルキャラのデフォルト設定のままで登場したヨウキの姿がまぶしすぎてまともに目を開けていることができない。


「お早うございます、ヨウキ様。

ヨウキ様こそ今日も綺羅綺羅と輝いていらっしゃって、周りの女子生徒たちから注目を浴びていますわ。」

口付けられた手と頬を皇女が赤く染めると、ヨウキはその手を両手で小鳥のひなを包むように優しくそっと挟み、自分と同じ碧眼の皇女の瞳を見あげた。

「私にはあなたしか見えていませんから、注目を浴びているかどうかは気になりませんね。」


チャナが口から何かを漏らす前に、離れた場所から二人の様子を見ていた生徒たちから黄色く高い悲鳴が上がった。


「ありです!有り!

皇女様を下から見あげる公爵令息!

金髪碧眼の二人が青空を背景に、桜の花びら舞う風に髪を遊ばれながら見つめ合うショット!

うう、涙でそうですぅ。」

そして、二人の様子にあてられて顔を真っ赤にしたチャナが、飛び交う黄色い悲鳴に混じって、その悲鳴とはまた一味違う、具体的な思いを口にしていた。

その声に敏感に反応したルイスが眼鏡の奥から光を放つと、俊敏にチャナの耳に息がかかるほどの距離まで詰め寄った。

「そうですわ、チャナさん。

お二人はとてもお似合いで、私たちも毎日チャナさんみたいに心に栄養をいただいているのですわ。」


「ルイスさん、近い、近いです。

ほら息がかかってるし、胸が背中に当たってます!」

あら私としたことがチャナさんのショタ属性に吸い寄せられたようですわ、と、ルイスは背筋を伸ばした奇麗な所作でチャナから半歩離れた。


「栄養か、私はあの臭いセリフにはかゆくなるけど、皇女が幸せそうなら問題ないと思ってる。」

スカーレットは目を線にして肩をコキコキならしながら二人の様子を見ていたが、

「それに私は、奇麗で頼もしい男性より、守ってあげたくなる方が好みなんだ。」

と、チャナにウィンクを投げかけた。

スカーレットのウィンクをまともに受けたチャナは頬を染める。

「えっと、これはもしかして二人の令嬢の好感度がいいってことでいいのかな。

よかった、男ヒロインの容姿はこれで正解だったんだ。

ココアさんからのアドバイスはさすが適格!」


「ほら、ヨウキ様の後ろの三人の男子生徒たちも、私たちみたいに見守ってるでしょ?」

ジョエルがヨウキが連れ立っていた三人の令息の方を見ると、こちらと同様に少し離れた場所で二人を見守っいる。


「コウジョサマコウカンドアガッテル」

「ライバルコウカンドアゲテイル」

オウムの声にチャナは三度ハッとした。


「見惚れている場合じゃなかった、このままじゃ皇女様を取られちゃうかもしれない。

魅了カードを使うのはまだ早いよね、とっいってもまだ始まったばかりで選択カード以外ないし。

どうしよう。」


「アセルナアセルナ」

焦るチャナに補助キャラのオウムたちから声がかかる。

「サイショノイベント、アイサツダケ」

「ソウソウ」

「ライバルトモアイサツダケ」

「ソウソウ」

チャナの頭の上をアンテナのような奇麗な三色の尾をはためかせて、くるくると回りながら飛ぶオウムたち。


「そっか、そうだよね、まだ始まったばかりで、ココアさんのデュエルみたいに急展開なんかないんだから大丈夫。

ありがとう、えっと、みんな!」

補助キャラたちを下から見上げるチャナには、背中に表示されている各個体の名前を見ることができない。

全員にまとめてお礼を言って気を取り直したチャナがまぶしい二人の方を見ると、ヨウキが皇女の腰に手をまわしてエスコートしながら校舎に向かっているところだった。

二人とも金髪碧眼で美男美女で誰がどう見てもお似合いなのだが、チャナはその片方ががヨウキだと思うと気が滅入るような感覚を感じた。


「チャナさん、ひょっとして、ヨウキ様の魅力に嫉妬されてますか?

大丈夫ですよ、チャナさんはヨウキ様とは違った魅力がありますから。

ささ、私たちも校舎に向かいましょう。」

自分はきっと、拗ねたような顔になっていたんだろうけど嫉妬していると勘違いさせてしまったと思いいたったチャナは、つい言い訳が口に出た。

「嫉妬なんて、そんなわけがない、そうじゃないんだけど。」


ルイスは言い訳を口にするチャナの手を強引に取ると、「分かっていますわ」という瞳で頷きながら歩き始めた。

「わっ、ルイスさん、待って。」

チャナが足をもつらせてバランスを崩そうとすると、それに気づいたスカーレットが反対の手を取ってささえてくれた。

「ルイス、ずるいぞ、こんなかわいい人を独り占めしようなんて、私もいっしょに行くよ。」

自分より背の高い二人に両手をひかれて歩き出すチャナ。


その後ろから、同じくらいの身長のジョエルが声をかけてきた。

「後ろから見てもチャナさんのピンクゴールドの髪、奇麗ですね。

それに、私の水色と相性よさそうです。

そんなチャナさんと私もいっしょに教室に行きたいですけど、学年が違うので行けないのが残念です。」


ヨウキ扮する悪役令息と皇女が玄関に入り、その後をヨウキの取り巻きの茶色の髪でメガネをかけた男子生徒と、赤い髪を上に短くツンツンとがらせた男子生徒、水色のショートカットの男子生徒が入った。

チャナがルイスとスカーレットに手を引かれたまま玄関に入ると、薄透明の四角いパネルが表示し、「初回イベント終了」の文字が表示された。


「あれ?これだけ?終わり?」

皇女と一緒に玄関に先に入って、今は2年の教室に続く階段を登りかけているヨウキの前にも同じ薄透明の四角いパネルが表示されているのが見えた。


「初回は挨拶だけのイベントだから、これでいいんだよね。

なんだか、拍子抜けしたけど、ココアさんとタクトさんのデュエルがしょっぱなからすごかっただけよね。」


初回のイベントでもプレイヤーは自由に動けるので好感度を上げようと思えば、相手プレイヤーと何らかのアクションを起こせばいいのだが、ヨウキが皇女だけに話かけて、さっさと玄関に入るように誘導したことにチャナはまったく気がついていなかった。


チャナが2階ホールに続く階段を登りかけたころで、薄透明の四角いパネルが表示し、<ゲームオーバー>の文字が表示された。

「えっ?なになに、どういうこと?」


ヨウキの方を見ると同じように薄透明の四角いパネルが表示されている。

続いて案内文字が表示される。

<初回イベントでプレイヤー同士のアクセスがありませんでした>

<条件未達成です>


「条件未達成?うそーーーー!」

頭を抱えるチャナの目の前に無情にも案内文字が次の選択を迫ってくる。

<ログアウトしますか?イベント発生点まで戻りますか?>

信じたくはないが、そんなことを言っている場合ではなく、ゲームを続けるには戻るしか選択肢はない。

「もちろん、イベント発生点まで戻る!」

叫んだチャナの前にイベント案内のサポートパネルが視界一杯まで近づいてくるとそのまま白い靄が一面に広がった。


次に靄が開けたときには、ローズイースト学園の大きなアーチ状の門の前だった。

「うそ、、、、。」

チャナは声のトーンを限りなく低くして再度呟く。

最初の感動はまったくなく、周りを見る余裕もなくしたチャナは、学園の大きなアーチ状の門の下を一気に走り抜けた。


門から真っ直ぐに玄関先まで続く道のはるか先にいる、4人の男子生徒めがけてひたすら走るチャナは、攻略対象者たちが声をかけようと待っているにもかかわらず素通りしてしまった。


「今の、ピンクゴールドの髪の可愛らしい男子生徒が、今日登校してくるはずの転校生では?」

ルイスが走り去るチャナを目で追いながら皇女に尋ねた。

「そうだと思うのだけど、走り去ってしまわれましたわね。

学園長に頼まれておりましたのに、困りました。」


「デイジー様を困らせるなんて、なんてやつだ。

せっかくの可愛らしい容姿も、あれではがっかりだな。」


「私より1学年上の2年生なのに落ち着きもありません。

しかも、デイジー様の婚約者であるヨウキ様の前に立ちはだかって、何か叫ばれておりますわ。

ヨウキ様を困らせているのでは?」


ルイスの「転校生では?」との尋ねに皇女はが困って頷いているのにも、スカーレットの怒りの表情にも、ジョエルの訝し気な表情にもチャナはまったく気がつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ