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046_学園での出会いの話

大きいアーチ状の門の前に2頭引きの馬車や豪華な4頭引きの馬車が停車している中に、1台だけ外装のない1頭引きの木製の馬車が、止まった。

質素な服を着た御者がドアを開けると、踏み台のない馬車から恐る恐る降りてきた一人の少年がいた。


少年は目の前の光景に感嘆の声をあげる。

「うわぁ、奇麗。

ローズイースト学園の外観すごい。」


チャナが公開ビデオで見たのは、学園の門をくぐった後に始まるイベントだったため、イメージの挿絵では見たことがあったが、実際の壮大さに感動していた。

塀に沿って左右を眺めるチャナ。

「どこまで続いているのか先が見えないくらい、ながーい。」

左右に続く白いレンガを積み重ねた塀は、どちらも果てが見えないほど長く続いている。

円形に学園の敷地を囲んでいるので、途中にあるいくつかの通用門や裏門を覗けば、塀の始まりと終わりを目の前の門がつないでいることになるので、両端を一度に見ていることにはなるのだが。


一人はしゃぐチャナを素通りして何名もの生徒が大きいアーチ状の学園の門をくぐって行く。


「ここが、今日から私が通う学園なのね。」

最初のセリフは、インプットされたように自然に出てきた。

ピンク色のショートカットの少年は、自分の声を聴いてゲーム世界にいることを実感し、また感動に震えている。


「必ず最後には追放された馬車に乗るヨウキさんを見送って見せる。」

握りこぶしをギュッと作り決意を新たにするチャナだが、「だといいなぁ、。」と自信無さげに呟きながら一歩を踏み出した。


アーチ状の学園の門をくぐるとすぐにイベントが発生するということを聞いていたチャナは、桜の花びらが舞い散る学園の中を見据えながら一歩ずつゆっくりと学園の門の下を通った。


「ココアさんはここではぁとトラブルカードを入手していたけど、今回もあるのかな?」

辺りを見回すチャナに後ろから声をかけてくる女性がいた。


「あなたが今日からここに通う転校生ね?」

金糸の髪と碧眼の瞳の美少女が、青空に舞い散る桜の花を背景にして優しく声をかけてきた。


攻略対象者が話しかけてきたと思い、その声の方を振り向いたチャナだったが、

「あなたは、、、」

二次元で見ていたキャラが実際に自分の前に立っていて、しかも想像以上の美しさに後の言葉が続かなかった。


呆然として言葉を失ったチャナの目の前の女子生徒の頭の上に点滅する文字が表示された。


[ローズイースト国 第2皇女]

[デイジー 光・土属性 2年生]


「「「皇女、そのご令嬢が転校生なのですか?」」」

皇女の後ろから3人の女子生徒がチャナに近寄ってきた。


長い茶色の髪を緩く後ろで束ね、左右におくれ毛を出している四角い銀縁のメガネをかけたグレーの瞳のインテリ系の女子生徒の頭の上にも文字が表示されている。

[ローズイースト国 侯爵令嬢(宰相の娘)]

[ルイス 風属性 2年生]


赤く長い髪を頭の上でくくりポニーテールにして、制服は白いブレザーに白いズボンをはいている体育会系を匂わす赤い瞳の女子生徒の頭にも文字が表示されている。

[ローズイースト国 伯爵令嬢(騎士団長の娘)]

[スカーレット 炎属性 2年生]


眺めに伸ばしたおかっぱの水色の髪に水色の瞳で、他の3人より少し背が低く4人の中でも妹キャラに位置しそうな可愛い系の女子生徒の頭にも文字が表示されている。

[ローズイースト国 伯爵令嬢]

[ジョエル 水属性 2年生]


初めて出会った登場人物である攻略対象者たちの最低限の情報が頭の上表示され、それは十数秒点滅すると次第に消えていった。


三人三様の美しさ、可愛らしさに見惚れるばかりで挨拶もできないチャナの前に、皇女が手を差し出してくれた。


「えっと、あの。」

目の前に差し出された白く細い奇麗な手に戸惑いを隠せないチャナは、不躾に皇女の手を見つめ続けてしまった。


「デイジー様、転校生の方が固まっていらっしゃいますわ。」

茶色のおくれ毛が風にたなびき、グレーの瞳は弧を描く、侯爵令嬢のしとやかな美しい顔がチャナの顔を覗き込んだ。

侯爵令嬢はチャナの顔の前で手を振りながら、固まりが解けないチャナの様子に皇女を振り返った。


「デイジー様のあまりの美しさに驚いていらっしゃるようですよ。

ところで転校生の方のお名前は何とおっしゃるのでしょう?」

水色の髪が風で遊ばれるのを抑えながら、ジョエルもルイスの隣からチャナの顔を覗きこんでいる。


「ひゃ、ひゃい。ヒャナ、で、。」

二人に顔を覗き込まれて我に返ったチャナだったが、驚きすぎて噛んでしまった。

「ヒャナさん、とおっしゃるの?」

噛んでしまったチャナの言葉を気にすることもなく、可愛いものを見る瞳で尋ねるルイス。


「いえ、違います。

すみません、皆さんに見とれてしまっていました。

名前はチャナと言います。

よろしくお願いします!」


「おっとアブナイ。」

チャナが勢い良く頭を下げようとしたため、ルイスとジョエルにぶつかりそうになったのをスカーレットが横からチャナのおでこを抑えて阻止した。


「はははは、元気な男子生徒だな。

チャナだね。

私は元気な男子生徒は嫌いじゃないが、女性が近くにいるときには気を付けてくれ。」

男性版キャラのヒューと比べてボケ要素が無く、よほど紳士的なスカーレットにときめくチャナ。


「て、天国?」

明るく爽やかな笑顔を向けるスカーレットに押さえられていたおでこに手を当てて、頬を染めるチャナ。

そのチャナの頭の上を黄色いオウム5羽が、円を描きながら、まるで振袖を振って踊るように尻尾で舞いながら飛んでいる。


「テンゴク、テンゴク」

「イベントチュウ、コウカンドアガッテルー」

オウムたちの声を聞いて、我に返ったチャナは改めて皇女の前に進み出て頭を下げた。


「差し出していただいた手を不躾に見てしまい申し訳ありません。

決して無視したわけではなく、、、。」

何と言い訳しようか言い淀むチャナ。


「ふふふ、分かっていますわ。

私も自己紹介もせず失礼しましたわ。

私は、この学園で生徒会長を努めます、デイジーです。

あなたと同じ2年生だから、デイジーと気軽に呼んで欲しいわ。」

金糸の髪を抑えながら、碧眼の瞳が柔らかく弧を描き、後光がさしてもおかしくないほど美しさだった。


「有難うございます。

デイジー様。」


皇女の側に戻ったルイスもチャナに改めて挨拶を行った。

「私は、ルイスです。

ルイスと呼んでいただいて結構ですよ。

生徒会では副会長として、デイジー様の補佐を行っています。

よろしくね。」

銀縁のメガネの端に手を添えて整えると、軽く頭を下げた。

こちらも、男性版キャラのロルフと比べてツン要素が少なく、勉強を丁寧に教えてくれるインテリお姉さまという印象だ。


「ダメなところを叱りながら教えて欲しい。」

また、声に出てしまったチャナに、ルイスはメガネの下の瞳を光らせた。

「私の家庭教師は厳しいですよ、それでもよければ図書館などで放課後勉強しましょうか?」


「え、本当に?

やった、よろしくお願いします。」

チャナは狙ったわけではなかったが、ルイスとのイベントの必須要素である図書館での約束を取り付けてしまった。


「イベントチュウ、イイゾソノチョウシ」

「コウカンドアガッテルー」

相変わらず合いの手を入れてくるオウムに、また我に返るチャナ。


横ではスカーレットが声をあげて笑った。

「ははははは、気難しいルイスと図書館デートを取りつけるなんて、初日からやるな、チャナ。」


「イベントハッセイカノウセイダイ」

「ヨクヤッタ」

オウムたちの声が一段と高くなりはしゃいでいるように聞こえる。


「えっ、ええ!?」

チャナが驚いていると、スカーレットは目にためた涙を拭いながら自己紹介をした。

「私はスカーレット。

同じく生徒会に所属しているけど、役職は特にないよ。

第二皇女のデイジー様の護衛兼雑用って感じのことをしてる。

スカーレットと呼んでくれ。

よろしくね。」

軽く首を傾げると赤いポニーテールがフワッと揺れ、軽くウィンクするスカーレットに、チャナはまた見惚れてしまった。


「私はジョエルです。

ジョエルと呼んでください。

1年生で、生徒会では書記をしています。」

ペコっと頭を下げると頬を染めて、水色の大きな目を緩ませてかわいらしい笑顔を振りまいている。


「さあ、校舎へ案内しますから、一緒に向かいましょう。」

皇女がチャナの横に並び歩き出すと、その後ろからルイス、スカーレット、ジョエルも一緒について歩き出した。


校舎に向かう途中には、初回イベント中に絶対に避けて通ってはいけない相手が待っていた。

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