043_それでもの話
「持て囃されるだけの世界ってのも、ちょっと違うのよね。」
ココアはオフィスの五階のカフェでニコとチャナ、そしてトウリを相手にヒロインタクトが追放された後のゲームの様子を語っていた。
それぞれがセルフサービスで飲み物を選んだあと、カフェの中央に位置する立ち席の白い丸テーブルを囲みながら話を聞いていた。
「ヒロイン追放後に繰り広げられたのは、攻略対象者たちからの甘い言葉に放課後デートだったわ。
学園の場所は山の中の設定だけど、広い学校の敷地内には、ちょっとした街もあって、その中に寮が立てられているから、デートの場所には事欠かなかったの。
服飾店にはドレスや普段着、アクセサリーが並び、本屋に文房具店、レストランやカフェ、花屋、それに図書館や劇場、植物園並みの公園まであってデートは、確かに申し分なかったのよ。
だけどそれって、何をするにもどこに行くにも攻略対象者の四人がセットになってついてくるのよ。」
ココアが身振り手振りで伝える学校の敷地の様子、街の様子は、多少大げさではあるものの雰囲気などがよく伝わってくる。
「それ、ダメなんですか?
ハーレムルート攻略何て、なかなかできないらしいですよ?
4人のタイプの異なる男性にちやほやとか、羨ましいですけど。」
ココアの話に聞き入っていたチャナだが、攻略対象者が四人セットであることが不満であることが理解できない。
「常に誰かの視線が熱く向けられ、常に誰かに話しかけられ、常に誰かが隣にいて、ゆっくり自分の考えに浸ることもできないのよ?
美形男子が四人いて、しかもみんな距離が近くて、そうなると色々と自由な思考が走るじゃない?
熱い騎士と爽やか皇子とか、実はS系の可愛い1年生とひ弱な皇子とか。
自分のハーレム、そう、それでも走らせたいのよ、熱い思いとか!」
熱く語りながら顔を近づけててくるココアをチャナは両手を添えて軽く押し返したが、その手を取って押し返された。
「とか、と、言われても、やっぱりよくわかりませんし、
私は次にヨウキさんとデュエルするのに、何か対策できないかを聞きたい訳で。」
迫るココアを押し返し、逆に押し返され、必死で背中をそらせながら足を踏ん張って、まるで押し相撲状態になりながら何とかココアにデュエルに勝つコツを伝授してもらいたいとチャナは声を出し続けた。
「例えば、カードの相性とか、相手のカードを探る手段とか、何でもいいです、挑んだのはいいんですけど、このままじゃ絶対勝てる気がしないんです!!!」
「「うーん、そう、ね、100%無理そう。」」
横から見ていたニコとトウリが相づちを打ち、チャナの「勝てる気がしない」発言を全面肯定した。
悲壮な顔を向けてくるチャナに、とりあえずアドバイスするとしたらと考えたトウリ。
「ココアに聞くより、動画が公開されてるからそれで研究してみたら?」
「トウリさん、勿論見ました。
だから、タクトさんとココアさんへのテストの対戦希望が0になったというのも十分理解できています。」
私も絶対対戦希望出しません。と目で訴えるチャナ。
「そうなんだ?」
「だからと言って、重々失礼とは思いますが他メンバーの平凡な戦い方はヨウキさんに通用しそうにないです。
そこでデュエルで勝利したココアさんにアドバイスをお願いしたいんです。」
「「「・・・」」」
タクトとココアのイベント動画は、攻略対象者の各イベントと断罪イベントなどが公開されている。
あの戦いを見て、ココアが勝利したと思っているところがすでにヨウキに負ける要素満載なんだということを言うに言えない三人。
「まず、補助キャラですね!
私もひよこを選ぼうと思っています。」
チャナは勝てるキャラと確信をもっているようだが、そこは、ニコが待ったをかけた。
「チャナはひよこやめた方がいいよ。」
ひよこを止められたチャナはその真意が分からず、「何故?」と顔に書いてあるのが見て取れる。
「タクトとココアだったから、ひよことの相性が良くて、あの子たちもよく働いてくれてたみたいだけど、チャナだとどうかな?
言うこと聞かなそう。」
顔をあげてネコが目を瞑っているようにも見える表情で、「どうかなあ、たぶんだめかなあ」と首を振りながら悩むニコ。
「えっと、どういうことですか?」
チャナが困惑していると、トウリが説明に入った。
「補助キャラも性格があるのよ。
ニコは「この子はこんな子」って、性格づけながら絵を描くからそれにあうよう情報づけをしてるの。
人間なら善悪の捉え方は環境や経験によって変わることもあって気持ちの問題で左右されるけど、ゲームの補助キャラはそんなものが無いの。
正しさ判定からの行動、その結果と整合した内容で学習するようになってるから、キャラごとに少しずつ、その正しさの認識とそこからの行動を変えるような方法を組んでるの。
AIに明確な指示が入ることで選択して行動をおこすから、どんな正しさを持つかによって、同じ指示でもキャラの行動が違ってくるの。
与えている正しい結果に疑問を持つことが無いぶん、善悪、好き嫌い、感情の正負を学習した結果だけがそのキャラの性格に、、、」
「ま、待ってくださいトウリさん。
すみません、もう少しわかりやすくお願いします。」
「ようするに、即座の判断で指示を出すタクトやココアと相性の良いひよこの性格とチャナの相性は悪いんじゃないかってこと。」
「なるほど、そうなんですね、だったらどのキャラを選べばいいんだろう?」
ひよこ一択にしていたチャナは他のキャラについて、まったく調べていない。
「チャナなら、んー。オウム?
カラスでもいいかも。
あの子たち頭いいから、チャナが迷って指示出せなくても勝手に動いてくれそう。」
ニコが考えに考えて、チャナに合いそうなキャラを絞り出した。
「意表をつけるかもという点では、いい選択かも知れないわ。」
ココアは明るい顔でウィンクし、右手でニコにイイネサインを送った。
「意表を突くですか、そうですよね、それくらいしないと勝てないですよね。」
「補助キャラ頼みになってもだめよね。
そういえば、最初に選択するカードは、決めてるのかしら?」
ココアがチャナに聞くと、チャナは大きく頷いた。
「もちろんです、フラットショットカードにします。
あれがあれば、イベントの思い出を最後に堪能できます。
そうだ、それに、もしかしたら、ヨウキさんがイベント中に見られたくないようなヘマをすることがあるかも。
そしたら、見られたくないシーンが映って意表をつけるかも。」
「ヨウキが?」
「ヨウキはそんなヘマする?」
「逆はありそうだけど。」
「うう、辛辣です、ニコさん、でもその通りです。
フラットショットはやめておきます。
まだ時間はあるから、もう少し考えます。
オフィス外持ち出し禁止資料見てギリギリまで考えるために、対戦にはオフィスのテスタールーム借りることにしてますし。」
「ところで目指すのはやっぱりハーレムルート?」
ココアが目を光らせてチャナに聞くと、とんでもないとばかりに首を横に振った。
「いえ、攻略したいキャラができないように、男ヒロインでデュエルすることにしました。
誰を攻略するというより、悪役令息であるヨウキさんを追放ルートに追い込むことに専念するつもりです!
最悪断罪シーンまで負けてても、裏ワザで一発逆転です!」
一応、恋愛要素系のゲームなのだが、そこは置いとくということだと理解した三人。
「負けても転んでも、常に前向きなところがチャナのいいところよね。」
「チャナは前向き?
前向きだけど、負けて転ぶタイプ?」
「負けて転ぶと前向きを逆に言われると、意味が違う様に取れます。
ニコさん。」
「転ぶタイプ、どんな子なら相性いいかな。
頭使って助けてくれるキャラ、九官鳥とか、なら。」
チャナと相性のよさそうな補助キャラをまだ考えていたニコが首を傾げてうーんと唸っている。
「助けてくれるキャラ。
そうですよね、助けがあっても勝てるかどうか。
分かってます、誰も私が勝つなんて微塵も思ってないって。
私自身もそうですから。」
それがどうしたとでも言うように開き直り、強がるチャナ。
「そんなに自信が無くても、チャレンジできるところがチャナの強みじゃない?」
「そうです。自分が勝つなんて全然思ってないけど、それでも、やるんです。
絶対、それでも、対戦に挑みます!
はっきりさせたいことがあるので。」
「それで、出来ればお願いしたいことが。」
チャナが闘志を燃やす真剣な瞳で話す中、チャナのお願いを真っ先にココアが了承した。
「よかった、ココアさん、ニコさん、有難うございます。
トウリさんはさすがに無理でしたか。」
「うん、さすがにね、シキが混乱すると困るし。」
「そんなことでシキさんが混乱するんですか?
よくわからないですけど、トウリさんが言うならそうなのかな?
トウリさんはシキさんと付き合ってるんですよね?
どういうとこが好きなんですか?」
「ん?」
思わぬブーメランに笑顔が固まるトウリ。
「あのシキさんから告白されたんですか?もしかしてトウリさんから?」
チャナは先ほどとは打って変わり瞳を輝かせて、トウリにブーメランを投げ続ける。
「ん?」
固まった笑顔から困った笑顔に変わったトウリ。
「あら、周りのテーブルが何か静かになったみたいよ。」
ココアが視線を周りに向けると、つい先程まで雑談が聞こえていたテーブルの人々が目をそらしたり、白々しくテーブルの上を片付けだした。
「もうそろそろ、休憩時間終わりだから、戻りましょうか?
これ、捨ててくるね。」
トウリは、テーブルの上の空になった紙コップに手を伸ばして4つとも回収した。
「トウリさんの恋バナ聞きたかったですけど、また今度にします。
これから早速、補助キャラの選定とカードの再考します。
ココアさん、ニコさん、トウリさん、有難うございました。」
元気よく頭を下げるとチャナは足早にカフェルームから去って行った。
紙コップを捨て終えて人が少なくなったカフェルームで、ニコがトウリの袖を小さく引いて、見上げてきた。
「で、どこが好きなの?」
「ん?」
チャナに聞かれたときとは違って、見上げるニコにトウリは柔らかな表情を向けた。
「改めて聞かれると、そうね、純粋なとこ?
不器用に長い時間かけてでも、向き合った人のことを理解しようとするところも。
すごくゆっくりだけど、自分自身のことも相手のことも理解しようとし続ける。
沢山考えるけど、それでも決して、相手のことを知ってると驕らないから、そんなとこも。」
「そうか、不器用で純粋、人付き合い悪くて根暗、うん。」
ニコは納得したと笑った。
二人の会話を聞いていたココアが、トウリに顔を寄せてこっそりと聞いてみた。
「シキがキャラ変したらどうする?」
ココアの質問に、トウリとニコの答えが被った。
「「するかな?」」
ココアは二人の答えが当たり前の反応だと思いながらも、トウリがどう答えるのか興味本位に更に聞いてみた。
「しないと思うけどもししたら、面白いじゃない?」
「シキはシキだから。」
苦笑しながらも少し照れて答えるトウリを、ニコとココアが拝みつつカフェルームを後にした。




