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004_裏技的な話

「今から社長室に行ってくる。

システムに登録出来たら、まずはマシロに通知が行って、そこから開発担当者に通知が行くから。

承認できるように、準備しといてくれ。」


携帯を胸ポケットに直しながら足早にカフェルームを出ていくヨウキをチャナは目で追い、その姿が完全に見えなくなるとマシロを振り返った。


「チャナ、いきなりどうしたの?

小悪投な笑みしてるけど。」


「マシロさん、いえ、師匠、β版でこんな機能追加できませんか?」


チャナが一通り説明を終えると、マシロは頷いた。


「なるほど、知っている人しか使えない機能ね。

裏技ってことね。

シキ、どう?」

シキはアオバに自分が握りつぶした紙コップを両手から抜き取られているところだった。


「それくらいなら、シキさんではなくてもチームの誰でもできますから、工数に影響はないですよ。

これ、捨ててきますね。」

アオバはシキから抜き取った紙コップを持って、コーヒーサーバが設置されている横のゴミ箱に向かう。


「そう、それくらいの条件づけなら、制限と全体影響部分も仕様変更なしで、追加できる。

と、思う。」

シキは右手の指をテーブルの上に走らせて、何やら書きなぐりながら小さな声で呟いている。


「それなら、α版テストの結果後の修正や削除・追加機能検討時に入れ込んでみる。

知ってる人にしか使えない限定された”裏”って、ユーザーと言うより、世間一般、好きよね。」


「マシロさん、でも、そのワードそのまま使うつもりですか?」

シキの後ろの位置に戻ってきたアオバが、マシロに何とも言えないような目を向けている。


「絶対、被らないワードでないとね。」

マシロの笑顔がまぶしくあたりを照らした。


それを聞いていたココアが鋭く目を光らせた。

「ふふふ、一発逆転の裏技ね。」


「そうです。ココアさん。

絶対、ヨウキさんには言わないでくださいね。

α版には入らないから、ここに居るメンバーが言わなければ知り得ないです。」

チャナとココアはお互い同じような悪い笑顔同士で見つめ合っている。


二人の意気投合した様子とは裏腹に周りのメンバーは冷静に条件内容を分析している。

タクトはマシロの顔を覗き込んだ。

「その裏技って、負けてる方限定で使用できる技?」

「条件的には、そうなるかな。

ゲーム終盤の勝敗率が確定される前という条件の下、そこに敗者確率が高い条件を揃えたプレイヤーが使った場合に発動する。

って感じで。」


「そういう条件が限定されるならもっと簡単だな。

勝Aと負BのAとBを入れ替えるだけで済む。」

合いの手を入れたシキに続けて、アオバも頷く。


「そうですね。シキさん。

ゲーム中のフラグ判定を全部無視した状態にロックして、現在の攻略対象者の好感度だけをAとBで入れ替えるとかで済みますね。」


勝者側の苦労を全部水の泡にするような裏技を入れて良いのかとか言っても無駄だろうと思いつつ、タクトはまだ妖しく笑みを浮かべ続ける二人に声をかけてみた。

「チャナはヨウキが知らないからいいとして、俺は聞いてるからその裏技、諸刃の剣だろ?

ココアが勝つタイミングで、俺が使ったらどうする?」


チャナは、それを考えていなかったことに気づき、タクトのいる場所で口にしてしまったことを申し訳ないと謝罪の目をココアに向けたが、ココアは安心するようにと言わんばかりにチャナにより深いほほえみを返して、片手を軽く口元にあてた。

「ふふふふふ、そんな心配は不要よ。」


唇に当てられた指にチャナはココアの雰囲気にのまれそうになったが、持っていたパソコンをまた落としそうになり現実に戻った。

後ろに下がり首を2、3回軽く振ると、額に汗をかきながらココアとタクトを交互に見た。

「二人ともすでにキャラが出来上がっているような感じがする。

ココアさんは悪役令嬢キャラ、タクトさんヒロインキャラ?」


「俺がヒロイン?

このゲーム、対決するプレイヤー同士は同姓しか選べないんだっけ。」


「そのとおりだな。

攻略対象がプレイヤーの逆になるようにしてるから。

二者択一。」

肩を落としたタクトに、それがどうしたという顔を向けているシキにはタクトに追い打ちをかけているという自覚はない。

タクトが力なく笑う。


「今回は、暴君のようにキャラクターイメージをプレイヤー任せではなく、固定したキャラクターデザインで入れるから大丈夫よ。

女装にはならないから安心して。

それにベースはあるけど、髪型とか体系は多少のカスタマイズはできるようにしてる。」


「マシロさん、そういう問題じゃないの分かってるよね。

いや、いい、そのまぶしい笑顔のためなら、中の人でも、女装でも。」


「キャラクターの方は、それぞれの属性の設定値を決めるモジュールが別途あって、そこから都度呼び出す関数を使って、、」

「シキ、ストップ。」

「シキさん、ストップです。

また、タクトさんに口を塞がれますよ。」

テーブルにさらに何かを書こうとしていたシキをタクトとアオバがすかさず止めると、シキはテーブルに突っ伏した。


「このゲームって、男女関係なく、負けプレイヤーは追放一択でしたよね。

それを勝ちプレイヤーが選べたりできないですか?」

チャナが聞くと、トウリは頬に手を当てて首を傾げた。


「それも考えはしたんだけど、負けた方をすぐに退場させる必要があるから、後にストーリーが残るようなことができなくて。

断頭というのが定番だけど、それだとそこに印象が残りすぎそうだし、というわけで追放一択にしました。」


「私が悪役令嬢で負けたら、闇落ちエンドがいいわね。

魔王と結託して世界を闇に堕とすわ。」

ココアが口火を切るとニコ、チャナが続く。

「私は、娼館送りでもいいよ。」

「私は、死亡エンドで。

その代わり死んだらダイジェストでそのあとのこと全部見せてほしい。」


「やっぱりみんなの意見って大事よね。

テストが一通り終わったらテスターの話を聞いて調整できるとこはしてみるから。」

前のめりになるマシロから両手を外されたタクトは片手で口を押さえて呟いている。

「マシロさんの仕事の姿勢や瞳の輝きが今日もまぶしい。」


その横でシキがまた、テーブルに何かをなぞり出した。

「エンドロールの前の行動を変えるなら、プレイヤー二人を保ったままにしなければいけないから、、、」

「シキ、ストップ。」

「シキさん、ストップです。

タクトさん、手が空いたからと言ってシキさんの口塞ごうとするのはやめてください。

シキさんはタクトさんの成すがままになるから下手すると窒息死しますよ。」

シキが再びテーブルに突っ伏している。

「ごめん。余計なことばかり言うから、俺もう帰る。」


「余計なことじゃないですよ。

場所が悪いだけです。」


「まぁ、もうそろそろいい時間だし。

仕事に戻ろうか。」

トウリが相変わらずハグしたままでいるニコの頭をなでると、ニコが離れた。


「ふふふ、追放エンド以外のエンドが追加されるのが楽しみだわ。

ニコ、私たちも戻りましょうか?」

「そうしましょう。」


先に声をかけたココアの後ろをニコが追い、二人でストレートの黒髪をなびかせて颯爽とカフェルームから去った。

その後を、ここにはもう用はないとでも言うように数人が足早にカフェルームを出ていったのをチャナは見逃さなかった。

「今出て行った人たちって明らかに小リボンチームのファンだよね。」


「頼むので、最後は追放一択にしといてください。」

タクトの声には悲壮感が漂っている。

「負け側の定番措置は、追放、厳しい北部の修道院送り、断頭、娼館送りとかだと思うけど、ココアに負けたら迷わず娼館送りにされる。」


「「「「「あーーーーー。。。。。」」」」」

マシロ、チャナ、トウリ、アオバ、そしてシキまで、納得の声を出している。


「でも、タクト負けないだろ?」

シキから、タクトが負ける、そんな可能性を微塵も考えられないという純粋な瞳が、タクトに向けられている。


「マシロさん、トウリ、アオバまで、堪えなくていいから、いっそそのまま笑って。」

周りで口元を隠しながら下を向いたり横を向いたりしているメンバーに向かって振った手で、そのまま髪をかきあげ、カフェの天井を眺めてた。

が、すぐに下を向いて大きく息を吐いた。


「ココアは目的のためなら手段を選ばないから手強い。

俺を指定したってことは何か企んでると思う。

だから、早々に、追放されようと思ってるよ。」


「対決物なのに、最初から負けを目指すってこと?」

マシロが目を細めてタクトを見ている。

「うっ、ごめんなさい。

でも、何か賭けた訳でもないし、正常にプレイできるかのテストが本来の目的だから。」

「それでタクトさんの本音は?

勝っても何の得も無いから、テスト項目以外どうでもいいって感じですか?」

アオバに核心を付かれてしまい、タクトは笑ってごまかそうとしているが、マシロの視線はまだ刺さっている。


「ああ、そうだ。チャナはヨウキと頑張って。」

雰囲気を変えるべくチャナに話を振ったが、いきなり話を振られてしまったチャナは一瞬頭の中が真っ白になり動揺した。


「えっ?何?

私は、ヨウキさんと何を頑張れっていうんですか!」

チャナの顔がうっすら赤くなっていく。


タクトはまずいことを言ったと気づきつつも顔に笑顔を張り付けて、焦るチャナを落ち着かせるため、ゆっくりと優し気な声をだした。

「だから、テストで行う対決を頑張って。

チャナがヨウキに対決申し込んだよね。」


「そ、そうです。

はい、頑張って勝ちます。

もし断罪方法が選べるなら、北の修道院送りにします。

じゃ、私も戻ります。」


チャナは勢いをつけて頭をブンッと音がしそうなほど深く下げると、そのままの勢いでパタパタとカフェルームを出て行った。


それを見送りながら、マシロがつぶやく。

「まぁ、わかりやすい子よね。」

タクトとトウリは小さく頷いた。


ーーー

身長の話

低 ニコ<チャナ<トウリ<アオバ≦マシロ≦ココア<シキ<ヨウキ<タクト 高

ーーー

身長の話

低 ニコ<チャナ<トウリ<アオバ≦マシロ≦ココア<シキ<ヨウキ<タクト 高

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