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037_追放の話

タクトが属性カードを発動させると、今まで起きたイベントが教室の中を走馬灯のように流れはじめた。


「フラットショット?

そんな、切り札は魅了のカードではないの?」

ココアは周りを流れ出す景色に見向きもせずにタクトに詰め寄っている。


「魅了のカード?」


「せっかくフラグを立てたと思ったのに、ゲームならちゃんとプレイヤーの意図を組んでフラグを立ててもらわなくては困りますわ。」

ツンッと顔を背けて怒るココア。


「いったい何のフラグ何だか。」


第二皇子、ロルフ、ヒュー、エルは過去といっても本日なのだが、今朝からあった出来事が辺り一面に映し出されているのに呆然としている。

「こ、これはいったい。」


タクトはここぞとばかりに、野良の補助キャラたちを追い払うと、ココアの肩を掴み無理やり第二皇子の前に押しやった。

「デイビー様、本当にココア様は悪いんでしょうか?

ほら、見てください。

過去の出来事がランダムに2Dにカットされて、思い出のアルバムのように並んでいるでしょう?」

タクトは、第二皇子に周りを見るように促すと、1つのスクリーンを指した。


「あれは、タクトが5羽の黒鳥を従えて、、、」

その時のことを思い出した第二皇子は顔色を変たが、その横にある別のスクリーンを見るとその表情は悲哀に変わった。

「あれは、ココアが黒鳥から友人たちをかばって、勇敢に立ち向かっている姿、黒鳥に姿を変えたひよこをかばう優しい心。

そしてあれは、そんなココアを見誤っていた自分を悔いている姿。」


「ほら、ロルフ様も、あれを」

タクトが指したスクリーンを見たロルフが恐怖に顔を歪めた。

「あれは、タクトさんが教室をひよこで溢れ返そうとして、皆がひよこに溺れかけた、、、」

だが、その横にある別のスクリーンを見ると冷静な表情に変わった。

「あれは、ココア様が私たちやひよこを弄ぶタクトさんを怒っている姿、第二皇子妃という言葉にただの婚約者だと答えられた謙虚な心。

そしてあれは、そんなココア様を尊敬を込めて見つめている自分の姿。」


「えっと、ヒュー様は、あれかな。」

タクトが指したスクリーンを見たヒューが畏怖し頭を抱えた。

「あれは、タクトが俺をハサミ男にした、、、」

だが、その横にある別のスクリーンを見ると、穏和な表情を浮かべた。

「あれは、ココア様がタクトに交渉して俺をかばってくれた姿、俺の情けない姿を見ても仕方がないと許容してくれた広い心。

そしてあれは、滲んだ涙をぬぐいココア様に惹かれていく俺の姿。」


「それから、エル様は、あれね。」

タクトが指したスクリーンを見たエルは放心している。

「あれは、タクトさんが僕を荒れた花壇に突き飛ばして、、、」

だが、その横にある別のスクリーンを見ると、柔和な表情を浮かべた。

「あれは、ココア様が潰れそうだった僕たちを解放してくれた姿、自分を見失っていた僕を正常な状態に戻してくれた神聖な心。

そしてあれは、荒らされた花壇に力強くたつココア様に感謝している僕の姿。」


第二皇子が

「よくよく考えると、ココアはタクト一人をターゲットにしているのに対して、タクトは周りの大勢を巻き込んでいるような。」

ロルフが

「しかも、被害が個人ではなく、教室や体育館など、広い空間、広範囲に及んでいるような。」

ヒューが

「そして、必ず俺たちの誰か一人が何らかの被害を被っているような。」

エルが

「お二人を比べるまでもなく。」

本日の出来事のおさらいをするかのように、申し合わせている。


攻略対象者たちの雲行きが怪しくなり、タクトの好感度が低くなりそうだと感じたのか、つい先ほどタクトに追い払われた野良の補助キャラたちが焦ってわらわらと近寄ってきた。

が、タクトは片足で床を強く踏み鳴らし、よじ登ろうと近寄ってきた野良の補助キャラたちを威嚇した。


「これ以上邪魔しないでくれるとありがたいかな。」

桃色のショートカットで可愛らしい瞳が弧を描き、笑顔ではあるが、野良の補助キャラたちが心底怯えるほど怒りが伝わっている。


「ところで、きっと、君たちにとっての神様は序列があるよね?

ニコが最近トウリに懐いているのは、AI担当のトウリが自分のキャラに性格や感情を与えてくれるているから。

二人で色々と話しては、性格に反映できるように考えているらしい、ということで序列的には。

ニコ<トウリ<シキ という感じかな。」

モフモフ、ユラユラ、フヨフヨ、ノソノソと近づいてきていた野良の補助キャラたちの動きがピタッと静止した。

まるで、「だるまさんが転んだ」と振り向かれでもしたかのように、動くと摑まってどこかに連れていかれるとでも思っているのか、微動だにしない。


「うん、当たりみたいだな。

ニコにお願いされたことを聞きたい気持ちは分からなくもないけど、俺も譲れないから。

これ以上邪魔したら、トウリとシキに君たちのことバグ報告することになるかな。」

野良の補助キャラたちが回れ右をして、蜘蛛の子を散らすように教室の窓から逃げて行った。

実際にタランチュラが一番先頭を走って逃げ去った。


「これで、小動物の影響によるヒロイン補正はなくなったかな。」

タクトが壇上を下りて教室の隅にある繭に近づくと、唯一残っていたタランチュラが顔を出し、素直に沈黙のカードを差し出してきた。

タクトがそれを受け取ると、最後のタランチュラが涙を滲ませながら教室の外に去っていった。


邪魔な野良の補助キャラたちがいなくなって清々したと顔に書いてあるタクトのひよこたちが、肩や頭の定位置に戻ってきた。


「ふふふ、まだですわ。

ヒロインの可愛らしさには、抗えませんことよ。」

ココアが指し示す先のスクリーンには、今朝の桜が舞う中で登校したときのシーンがスクリーンに映し出されていた。


「よりによって第二皇子が、ひよこ胸を掴んでるシーンを。」


第二皇子が顔を青くしてココアの目を塞ごうとしているが、ココアはその手を扇で押しやっている。

「思い出しますわね、とても懐かしいわ。

デイビー様、せっかくラッキーだと思いましたのに、フワッとした感触を残念がっていらっしゃいましたわね。」


「いや、だからそれは、わざとでは無くて。」


「あら、それにあれば、つむじ風でタクト様のスカートがヒラヒラと上下にはためいて。

これも皆さま残念がっておりましたわね。」


「確かに、あの時は内心がっかりし、、、」

ヒューの口を防いだロルフが「黙っていてください」と目で訴えている。


「ココア、それ以上抵抗するなら、これ、使うけど?」

タクトは先ほど取り返した沈黙カードをココアに見せた。


「仕方ありませんわね。

ストーリーを早めに進めすぎて私はもうカードがありませんわ。」

ため息をつきつつ、壇上から教壇前まで下りてきたココアと連なって下りてきた攻略対象者たち。

ココアを中央に囲んで廊下を背に窓際のタクトに向き合った。


「さすがにココアも諦めた?」


金の巻毛をスッと後ろにかきあげて、胸を張るとココアは堂々と言い切った。

「私が第二皇子妃になるからには、皆さまと一緒に明るい未来を目指すことを宣言させていただきますわ。」


「いや、切り替えたのか。」


「さすがですわ、ココア様!

私たちココア様にどこまでもついていきます。」

窓際の席に残っていた取り巻き令嬢たちがココアに熱い視線を向けながら、教壇前まで下りると、ココアを取り巻く攻略対象者たちの後ろに並んだ。


「役者はそろったようだ。」

教壇を挟んで、窓際にタクト、廊下側にココアと第二皇子、その両隣にロルフ、ヒュー、エルが並び、その後ろにココアの取り巻き令嬢が並んでいる。

イベント中の様々なシーンが浮かぶ中、教室内の生徒たちはそれぞれの席に座って、アトラクションでも見るかのように教壇前に注目している。


「タクト、今スクリーンに映し出されているシーンのように、君の数々の悪事は明白だ。

何か言い逃れはあるか?」

第二皇子がココアの肩を抱き寄せて、タクトに冷ややかに言い放った。


「いえ、見て頂いている通りなので、言い逃れはしません。」

窓に背を持たれて寄りかかりながら、腕を組み断罪される側の態度ではないだろうと突っ込みが入ってもおかしくないほど堂々とした態度で答えるタクト。


そんなタクトを呆れた目で見ながら、ロルフ、ヒュー、エルが一斉に口を開いた。

「テストだとか、何だとか、それは極悪非道と言えるだろう!」

「全く迷いなく、人を人とも思わない所業、傲慢すぎるし!」

「躊躇なく人を陥れる狡賢さ、冷酷すぎます!」


最後に第二皇子が、高らかに宣言した。

「残念だが、君には今日限りで学園を去ってもらう。

タクトをこの学園から追放する!」

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