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035_断罪イベント発生の話

再度のココアログアウトの知らせに呆然としていたタクトだが、つい先ほど攻略対象者たちが入っていった教室が騒がしくなっていることに気がついた。

タクトのいる階段前の位置から教室の中は見えないが、教室からガタガタと何かを動かすような音や、小さくだが喜んでいるような、怖がっているような、驚いているような悲鳴が聞こえる。


「プレイヤーが存在しない状態なのに、何をやってるんだ?

断罪イベントの準備、の訳は、ないか。」

薄白いプレイヤー通知用のパネルの表示にもあったように、すべてのイベントが停止している状態で、AI悪役令嬢や一般生徒たちがイベントを意識して活動することはない。

そこにシナリオなどはなくあくまでも自分たちの意志で、学園生活を送っているだけだ。


「普通に学園生活は継続しているから、何かはしているんだろうけど。」

タクトが強制的にログアウトさせられて、その後にゲームに戻ってきたときはココアとAIヒロインは食堂で一緒に食事をしていた。

しかもAIヒロインから(俺とは違って)キラキラ瞳で食堂のメニューのお勧めを教えて欲しいとお願いされたと言っていた。


もしかしたら、悪役令嬢ならプレイヤー不在でもキャラの役割のためにヒロインを貶めるために何か策を練っているかもしれない。

「それはそれで面白いかも知れない。」

うんと頷き、プレイヤーログアウト時の状態に興味をそそられ、タクトが教室に向かおうとしたとたん、前方から黄色い塊がパタパタと飛んできた。

ピヨ?

「1号、2号、3号、4号、お前たち戻ってきたのか、、、って、他にもなんか連れてきてる?」

ひよこの後ろから、10cmくらいの丸っぽい金魚やシーラカンスが宙を泳いできて、他の野良の補助キャラたちも、タクトの足元や周りに集まってきている。


「何か嫌な予感しかしないんだが。

さっき、ココアに野良の補助キャラひよこと自分のひよことを使って足止めされたけど。

でも今はログアウト中だから、さっきの一瞬のログインで何かしたってことかな?

一体、何を、ココアが?」


シーラカンスが尾鰭をペチペチとタクトの背中につけて歩いているし、タクトのひよこたち以外のひよこたちにも頬ずりされたりと気が散り、ろくに考えがまとまらない。


「こまったな、この現象はなんなんだ?

バグにしては、すごく何かの意図を感じるんだけど。」

タクトの背中や体を野良の補助キャラたちは好きに歩き回り、一歩、一歩ゆっくり進むことしかできないようにするためか、足の上にはドードーたちがまったりと座っている。

両腕にはアイアイが連なり、いくら10cm程度の丸い補助キャラと言えど、これだけの数がいると教室へ行くことを邪魔しているように感じるのは邪推だろうかと考え始めたタクトの目の前に、また、薄白いパネルが現れた。


<プレイヤーが一人ログインしました。>

<プレイヤーが二人揃いましたので、イベントを再開します。>

<現在、ヒロイン転校1日目の放課後です。>


「うーん、どう考えても足止めだよね?」

野良の補助キャラたちを引き連れて教室の扉の前まで行くと、両腕に連なって摑まっている野良の補助キャラアイアイを振り落とさないようにそっと扉を開けた。


断罪イベントカードの発生条件は、特定のイベントをすべてクリアしていること、多くの生徒がいて攻略対象者がすべてそろっていること。

そして、プレイヤーの好感度がはっきりと別れていること。


扉を開けてみると、教室の中の生徒たちがタクトに一斉に注目した。

身だしなみの整っていない生徒からは恐怖の視線が向けられ、床に直接座り込んだ生徒からは驚きの視線を向けられ、タクトの周りにいる野良の補助キャラたちに呼びかける生徒からは喜びの視線を向けられたりと反応が様々だ。

そして、教壇の周りにいる、ロルフ、ヒュー、エルの三人からは安堵の視線が向けられた。

ココアは最初の授業で座っていた窓際の席に無表情で座っているが、一人だけ静けさを保つ姿が不気味ともいえる。

そう、今の教室にあと二人、ヒロインタクトと第二皇子であるデイビー様が揃えば断罪イベントカードの発生条件が満たされる状態だ。


タクトが扉を開けたまま中に入らずに立っていると、ロルフが近づいてきた。


「タクトさん、有難うございます。

先ほどココア様が何を血迷われたのか、この野良の動物たちを教室の窓から呼び込んで、好き放題に荒らさせてしまったのです。」


「なるほど、それでさっきの悲鳴?

ところで何のお礼?」


「だれも止められずに困っていた、そんなときに、タクトが野良の動物たちを呼び集めて沈めてくれたんだな!」

ヒューがポジティブな発想で、タクトから恩をきせてもらおうとしている。

少しでもヒロインに好印象な出来事があると、攻略対象者たちの好感度が上がってしまうのだが、まさに今もその最中だろう。


「いえ、こいつらが勝手に来ただけで。」

ジリッと、足を引き一歩廊下側に後ずさると、今度はエルが近づいてきて両手でタクトの手を掴んできた。


「いえ、謙遜しないでください。

アイアイは悪魔のような顔と人々に恐れられているのに、優しく腕に捕まらせてあげている。

それにこんなにたくさんの小動物にここまで好かれるなんて、心が澄んで奇麗な証拠です。」

エルもヒューやロルフに続けてタクトに優しい眼差しを向けている。


嫌な予感が当たったと思いながら、辺りを伺うと、やはり第二皇子がホール側から廊下を教室に向かってきているのが見えた。

その手には何やら資料を抱えている。

恐らく断罪イベントのための証拠固めの資料だろう。


廊下にいるタクトの肩を野良の補助キャラごと抱えて、第二皇子がタクトを教室の中に押し込んできた。

瞳に何やら強い意志を感じる。

そしてタクトの周りの補助キャラたちは、相変わらずタクトの周りで和気藹々としており、まるでお祭りでも始まるのかと思えるほどテンションを高めている。

ココアが席を立ち、扇を広げ口元を隠すと、教室の真ん中に白いカードが浮かんできた。


カードに絵柄は出てこず、今までで一番強い光を放つと徐々に消えて行った。


「断罪イベント、スタートですわね。」


タクトの肩を抱いたまま第二皇子が教壇の前に進むと、腕に抱えていた資料を教壇の前に勢いよくたたきつけた。

その周りをヒュー、ロルフ、エルが固め、4人は窓際に座るココアを睨んだ。


「えっと、ついさっきまで、ココアの好感度が瀑上りだったはずだけど。」

この場の雰囲気と立ち位置は明らかに、ココアを断罪対象としている。


ヒューが口を開く。

「ココア様、あなたはデイビー様の婚約者に相応しくありません。

タクトへの嫌がらせの数々、既に証拠はそろっています。

あなたに少しでも懸想した俺が愚かだった。」


「あら、私はあなたに懸想してしてなど、お願いしておりませんわ。

寧ろ、迷惑でしてよ。

ダンスレッスンでのヒュー様とタクト様の見事な息の合ったダンスはとてもお似合いでしたもの。」

ココアがにこやかな笑顔の半分を扇で隠しながら、明らかに狙って、ヒューが勝手に盛り上がっていたダンスの話題を振ってきた。


「やはり、そうですよね!」

ヒューはココアの言葉に強く同意し、タクトに熱い視線を向けているがその視線は、ひよこ5号によって打ち返された。


ロルフが口を開く。

「ココア様、タクトさんへの嫌がらせの一つは、彼女の教科書をダメにしたことです。」


「その通りですわ。

私たちも協力しましたの。

さすがココア様、見事な嫌がらせだったでしょう!」

ココアの周りにいた令嬢が、その時のことを思い出しながら拍手で称賛している。


エルが口を開く。

「この通り証人もいますので、言い逃れ場できませんよ。

他にも、ダンスレッスンで一人体操服だったタクトさんを貶めたそうじゃないですか!

あなたは悪魔のような人です。」


「さっき、ココア様のことをエンジェルとか言ってませんでしたか?

エル様。」

肩を抱いている第二皇子の手を叩きながら、細めた目をエルに向けて突っ込むタクト。


「それはもう、過去のことです。

僕には、そんな嫌がらせをする人をエンジェルと呼ぶことはできません。」

涙をこらえるように瞬きをして悲し気に向けるエルの視線を、ひよこ5号が遮り、涙が落ちる前に自分の羽でごしごしとエルの目をこすっていた。

攻略対象者の視線を遮ろうとする5号のことを周りにいた野良の補助キャラが邪魔しようとして攻防戦になっている。


野良の補助キャラたちがタクトの味方かというと、そうではないらしい。

タクトはトウリの名前に妙な反応を見せたAI悪役令嬢のこともあり、確信した。

「補助キャラたちのデザインはすべて、ニコ、だったよね。」


ニコの名前を聞いたとたん、補助キャラのひよこたち、野良の補助キャラたちが一様にソワソワと落ち着きをなくした。

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