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033_階段つき落としイベント発生の話

パヒュームカードの終了と共に、タクトの周りに集まっていた男子生徒は我に返り、同時にタクトの笑顔に恐怖を感じて、じりじりと後ずさりながら一定の距離まで離れると一目散に逃げ出した。

タクトの五羽のひよこでさえ、道具小屋の屋根に避難し、先に屋根の上にいたひよこたちと身を寄せ合って黄色いモフモフを作っている。


磁石の効力が無効化された四人の攻略対象者たちは、表面がデコボコと荒れはてて花びらが散乱している地面に、どっと倒れ込んでいた。

倒れ込んだうち、ロルフ、ヒュー、エルは体力、気力、魔力のほとんど尽きかけており、第二皇子は魔力に多少の余裕があるもののココアの視線の冷たさに気力を失っている。


「大体の事情は察しましたわ。

やはり、何も考えずに勢いでカードは使うべきではありませんでした。

パヒュームカードで皆様全員に芳しい香りを放つタクト様への好意を募らせていただきたかったのですが。

このカードは、どちらかというと、一人に絞って密室などに閉じ込めた上で使うような手段を取るべきでした。

使用回数が1回だけなのが悔やまれますが、次回につなげさせていただきますわ。」


足元に倒れている攻略対象者を見下ろし、伏せた目から意味深な潤みのある笑顔を向けたココア。


「ココア、私を許してくれるのか。」

倒れていた第二皇子が土に手をつきながら、ゆっくりと体を起こす。


「ココア様、やはりあなたが我々の女神です。

先ほどの無礼な風も、私のあいまいな態度もお許しいただけるなんて。

もちろん、次回挽回させていただきます。」

ロルフは倒れたまま、立つこともできず顔だけをあげて、ココアの言葉をポジティブに受け取っている。


「ココア様、俺も、どっちつかずで、しかも魔法を暴走させて、護衛として恥ずかしい限りです。

穴があったら入りたい。」

ヒューはそのまま地面に顔を埋め込んでいる。


「ココア様、僕を正常な状態に戻していただいてありがとうございます。

ココア様は僕にとってのエンジェルです。」

ここまで荒らされた花壇を前に、最初に一部が踏み荒らされたことなど無いに等しいものだと気がついたエル。

何とか気力を振り絞って立ち上がると、土だらけの制服を払い、足を引きずりながらココアに近づいた。


エルの後ろに、個人イベントカードが浮かび上がった。

大きな水の塊もなくなり、ヒューの炎も消え、ロルフの風はそよ風に変わり、荒らされた花壇とは裏腹に空はとても澄んでいた。

ココアに甘い笑顔を向けるエルの背景には水色のバラが咲き誇り、その花びらがそよ風に舞って踊っている。


澄んだ青空を背景に水色の薔薇の花びらが舞い踊る、甘い笑顔ショット。


個人イベントカードが、エルの後ろに浮かんでそのまま咲き誇った水色のバラと一緒に消えて行き、それと同時にエルは再び土の上に倒れ意識を失った。


魔法を暴走させたヒュー、ロルフ、エルの鎮静化により魔法トラブルカードのイベントが終了した。


ひよこたちが離れるくらいの恐怖(?)の笑顔を浮かべたタクトが呟いていた。

「四人目の攻略対象者の個人イベントカード、ココアがゲットだ。

このまま、俺の追放負けまで行かせてもらおうかな。」


「ロルフは、魔力が戻り次第皆の制服を乾かしてくれ。

花壇は私が整えておこう。

濡れたり、制服が汚れていない生徒たちは、教室に戻ってから下校するように。」

気力を取り戻した第二皇子が現状を納めるべく動き出すと、その場にいた生徒たちは回廊や逆の玄関に近い出入り口から戻って行き、タクトもさっさとその場を立ち去った。


泥だらけの中庭から移動しているため、生徒たちの履物は泥がこびりついていて、歩くたびに白い大理石の廊下に泥を落としている。

タクトのスニーカーも泥で汚れているが、気にも留めずに教室に向かった。

「クリアしなければいけない残りのイベントは2つ。

解放された階段つき落としイベント、と、その後に解放される断罪イベント。」


ピヨ、ピッピ。


「俺の今の手持ちのカードは、開始時にランダム配布されたカードと、沈黙カード。」

ピヨ?


「ん?」


回廊から2年生の校舎につながる出入口付近で、タクトの髪や制服の端を啄みながら引っ張る背中に番号のないひよこがいた。

いつのまにか背中に1号から5号まで連番が浮かんでいる補助ひよこのほかに、7羽のひよこがいて全部で12羽のひよこがくっついてきていたようだ。


「さっきの、野良の補助ひよこ、ついてきたのか?」

そのうちの2羽のひよこがタクトの髪や制服の端で遊んでいるのだが、それが気に入らない5号がケリを入れている。


「ふーん?

中庭の花壇をデイビー様がどんな整備をしているのか知らないけど、避難してきたのか?」


教室に戻る他の生徒たちの邪魔にならないように回廊の端の柱にもたれて、ひよこたちを眺めた。

その前を通った生徒たちが校舎に入り、1階の教室へそのまま進む者や2階の教室に行くために階段を登っていく者がいる。

ココアたちがこちらに来る様子はない。


「断罪イベントは、今のまま順調にいけば、断罪されるのはたぶんヒロインである俺の方だけど。」

強力なヒロイン補正のおかげで何が起こるかわからないことを考慮しなくてはならない。


騒ぎが収まったからか、校舎の反対側の回廊先にある体育館からマッチョな男性が恐る恐る出てくる姿があった。

タクトは見なかったことにして校舎に入り、2階の教室に行くために階段を登り始めた。


階段を登って途中の踊り場を回り、また階段を登ってあと数段でというところで、目の前にいるはずのないココアの姿があった。


「えっ?はやいな、制服も乾いて、きちんと髪も乾いて立て巻きロール復活してる。」

「あら、驚くのはそこですの?」


二人を横目に見ながら、急いで駆け上がっていく生徒たち。


「ふふふ、制服はお着換えカードに予備の制服を持っておりましたの。

そして、デイビー様が作られた土の階段で先に二階まで登らせていただいたのですわ。」


「そういえばそんなものがあったな。

迂回するより、直進する方が早いよね、実際。」


時間は放課後、踊り場のある階段で階段の上に悪役令嬢、階段の途中にヒロイン、そして一人以上の目撃者、そしてもう一つ。

攻略対象者の1人(複数でも可)が近くにいるとき、階段つき落としイベントの発生条件はクリアされる。


「さらに念には念を入れて、私のひよこたちに時間稼ぎのために野良ひよこと一緒について行ってもらったのですわ。

ひよこの数が多かったことと、先ほどの道具小屋の上に野良ひよこがいたことで油断されていましたでしょ?」


今までの嫌がらせイベント「持ち物の破損」と「仲間外れ」は、好感度のマイナス度はココアに軍配が上がっている。

そして今、ココアが発生させようとしている階段つき落としイベントまでココアの好感度のマイナス度に軍配が上がると、断罪イベントで悪役令嬢がヒロインを「ざまぁ」する「ネタ」が無くなってしまい、自分の追放を望むタクトにとってはかなりまずいことになる。


「うん、確かに油断してたんだけどね。」

さっき5号がタクトの髪を引っ張ったり、裾で遊んでいるひよこにケリを入れていたのはそういう理由もあったのかと、5号をチラ見すると、5号は羽を腕組み(?)して顔をキリッと整えて頷いた。


そこに、階段下の1階の出入り口付近から男性の会話する声が聞こえてきた。

「それで、デイビー君、私はきちんと教科書も渡したし、体操服も転校生に渡したんだよ。」

「その節は有難うございます。」

第二皇子とマッチョな男性教師の喋り声だ。


階段上のココアと階段途中にいるタクトのちょうど中間の天井に白いカードが浮かび上がり、そこには階段で逆さまに横たわる白い服を着た天使の絵が徐々に浮かんできた。

天使と一緒に階段には羽が散らばっている。


「階段つき落としイベント発生条件がクリアされたようですわね。

覚悟はよろしくて?」


ココアはタクトの返事を待たず、階段上で床を蹴ると両手を前に出し、そのままタクト目がけて飛び込んできた。


「えっ?まさかのダイビング?」

飛び込んできたココアを両手と身体で庇いながらそのままの姿勢で階段を落ち、踊り場の床に背中を打ち付けながら勢いよくスライドした二人は、庇うタクトの背中が壁に強くぶつかったとこで止まった。


「ふふ、やはり、タクト様なら女性をかばってそのまま落ちられると思いましたわ。

女性にとても優しいですものね。」

踊り場の壁際で下敷きになっているタクトを組み伏すような格好でココアがにやにやしている。


「だからって、去る者追わず、来るもの拒まずではないんだけど。」

下敷きにしているタクトからジト目で見られているココアは、「そんなこと言いましたっけ?」と細めた目で弧を描いたいい笑顔で返している。


階段から二人が落ちる音を聞いた第二皇子が1階から踊り場までの階段を駆け上がってきた。

「ココア!タクト!

大丈夫か二人とも!」

実際には落ちるところを見ていない第二皇子だったが、二人の体制からココアが落ちたのをタクトが庇ったのだと判断した。

タクトの上にいるココアに手を伸ばすと抱き上げそのままお姫様抱っこをし、後から駆け付けてきたマッチョな男性教師に向かって

「タクトを保健室へ連れて、、、」

と指示を出そうとした第二皇子が言い終わらないうちにタクトは立ち上がると、その場で軽く2,3回飛んで見せた。

「いえ、結構です。

立てますし、歩けます、全く大丈夫です。」


「そうか、ココアをかばってくれたんだな、有難う。」

「いいえ、ココア様は羽のように軽いお方ですから。」

「あら、私がタクト様を突き飛ばしましたのよ、デイビー様のタクト様を見る視線や、ロルフ様、ヒュー様、エル様の心変わりの速さに嫉妬いたしましたの。」

お姫様抱っこされたココアは、コロコロと鈴のなるような声で笑った。

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