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032_中庭での混乱の話

「えっ、なに?体が勝手に、、、」

自分の意志とは全く無関係に地面を擦って少しずつ移動し始めた足。

驚いたエルは集中力が散漫になり、中庭から見える空いっぱいに広がっていた水が端の方から小さな水玉に戻り分離しはじめた。

「だめだ、水の形を維持できない。

どうしよう。」

このまま水を落としても魔力で形を維持できないため自分やタクトにも被害が及ぶ。

焦るエルにさらに追い打ちをかけるように水が散開しはじめた。

「水が、水の塊が蒸発してどんどん小さくなっていってる!」

エルは手足に力を入れてその場に踏み留まり、水を維持するために集中しようとするが、磁力がだんだんと強くなり吸着力により足が浮きはじめとても集中できない。


そこに、薄っすらと炎を纏ったヒューが折れたカードを持って近づいてきた。

「タクトさん!

俺を受け容れてくれ!

その燃えるような香りが俺をひきつけてやまないんだ!

エルと一緒でも構わないから、去る者は追わずだけど、来るものは拒まず、なんだろ?

俺は絶対去ったりしないから!」


「何を言って、何それ、来るものは拒まずって、そんな訳ないだろって、ココアか。

俺そんなふうに見られてたのか?

別に、いいけど、、、、まさかマシロさんにも?」

このゲームを始めて初めて顔色を変え、本気で動揺しているタクト。


「タクト!

タクトならこの可愛らしいピンクのリボンのついた体操服を着てくれるよね?

惹きつけてやまないこの燃えるように熱い香りのあなたにぴったりだ。」


ヒューの言葉にエルが苦々しい顔を向けている。

「抜け駆けはやめてください。

それにタクトさんの香りは、可憐で甘やかで、それでいて清々しいまろやかな香りで、それは僕のものです。」

エルが喋るたびに頭上の水の塊は分離し散開していき、すでに中庭の全部だった範囲が半分の空を覆うまでに減っている。


生徒の中には魔法で水の塊を攻撃しようとした者もいたようだが、魔法を制御できないヒューやロルフを見ていた他の生徒に止められていた。

その為、自分たちを溺れさすであろうと思われた水の塊の変容を、油断はできないと思いつつも安堵の目で見つめている。

ロルフは、エルの突然の見境いのない攻撃に、冷たい視線を向けていた生徒たちの気が逸れ、その視線から逃れられ安堵していたところに、突然何とも言えない香りが漂ってきたことに気がついた。

「なんだこれは、タクトさんの方から?

いや、タクトさんからだ。

なんと、つむじ風のようにいたずらで、それでいてミントのように爽やかで涼やかな香りが私を惹きつける。」


目の前で言い訳をしていたロルフが、タクトに見入り、香りに魅了させた様子にココアの口角があがった。


「ロルフ、どうしたんだ?

この惨状を何とかしなければいけないだろう?」

第二皇子のいさめる言葉も耳に届かず、ロルフまで2年生の校舎側の花壇から、中央の花壇を挟んだ1年生校舎側の花壇にいるタクトの方に向かって歩き出していく。


「デイビー様は何も感じられないのですか?

そう、タクト様の方から何とも言えないかぐわしい香りが漂ってくるなど。」

ココアがロルフを唖然と見送る第二皇子に問うが、第二皇子からは?的な表情が返ってきただけだった。


「パヒューム効果が現れないなんて、バグかしら?

それとも何かの条件があると効果が無いとか、薄れるとか?」


「薄れてなんかいないよ。

濡れて、水滴を滴らせながら考え込む君も、魅力的だよ、ココア。

もちろん、しんなりとした肩や頭の上のひよこたちもその魅力を引き立てているよ。」

はにかみながらの笑顔は、個人イベントカード入手時と同じ笑顔に見える。


「やっぱり、個人イベントカード入手と今の好感度の影響というところかしら。」

首を傾げるココア。


「「「デイビー様に完全同意ですわ、ココア様。

濡れたお姿も、金の髪から流れる雫のような水滴も。

ただ、ただ、ココア様を引き立てているだけです!」」」

三人の取り巻き令嬢が二人の邪魔をしてはいけないとココアから距離を取り、その成り行きを三人三様の姿で見守っている。


中庭の所々で様々な喧騒が沸いているが、タクトのいる1年生の校舎側にある道具小屋の周りでも、喧騒が大きくなっている。


エルに「僕のものです」宣言をされたヒューはさらに魔力があがり身に纏う炎を広げていた。

「何を言っているんだ、この常夏の燃える太陽を思わせる情熱的な熱い香り、これは俺のものだ。」

ヒューの言葉に怒り心頭となったエルが広げていた両腕をそのまま閉じて、両手でパチンと音を立てると、頭上で歪み、揺らいでいた水が独楽のような形に変わり、始めはゆっくりと回転し、やがて荒波のような激しい渦を作り始めた。


エルの体はじりじりとココアの方に引き寄せられているが、頭上の渦の先端はヒューに狙いを定めている。

「はっ、1年生で魔力の低いお前が俺の炎にかなうと思っているのか?

何故かわからないが、魔力が暴走するほど高くなっているのはお前だけじゃないからな!」


二人の戦々恐々とした姿と近づいてくるロルフ、その数メートル後ろで魔法トラブルカードを発動させた張本人がにやにやとこちらを傍観している。

タクトはそんなココアと魔法を暴走させている三人を見て、仕方ないと思い満面の笑みを浮かべた。


「魔法トラブルカード、平和なのはロルフの風の暴走だけだったな。

これじゃ俺もヒューの巻き添えになりかねないから、エル、ごめんね?」

ごめんねと言いながら、とても誤っているようには見えないダークな笑みを浮かべて、タクトは迷わずエルの背中を強く押した。

まるで何かの八つ当たりでもするように。


「うわあぁぁぁ、」

磁力に引きずられていた足は押された衝撃で地面から離れて、引っ張られるというより、まるで何かに引きずりこまれるような勢いでココアたちの方に飛んだ。

もちろん、真正面で炎を暴走させていたヒュー、こちらに近づいてきていたロルフも巻き添えにして。


1年の校舎側にいたエル(渦巻き付き)が、ヒュー(炎付き)とロルフ(風の制御喪失)を巻き込んで、2年校舎側の自分たちに飛んでくるのを認めると同時に第二皇子は咄嗟にココアを前から抱きしめて庇った。


三人がココアをかばう第二皇子に衝突したのをそのままの笑顔で見ていたタクト。

「あー、、、エル様、ヒュー様、ロルフ様、デイビー様、そしてココアの団子が出来上がってるけど、大丈夫なのかな?」

もちろん、磁力でエルがココアは吸着し続けるので、このままでは間の三人は潰れるしかないので大丈夫ではない。


「こ、ココア、大丈夫か、、グッ、」

何とか後ろのロルフを引き離そうとするが、後ろから押さえられる力が強く離れることも横にそらすこともできない。


混乱の中、磁石カードの発動に気がついていないココアは、いきなり抱きしめてきた第二皇子に冷たい視線を向けていた。

ココアがプラス、エルがマイナスで、プラスにマイナスが吸着とタクトが宣言したため、ココアは引き付ける力を感じず、磁石カードの発動時も他に気を取られていたため、気がついていなかったのだ。

冷たい目をココアに向けられた第二皇子は、狼狽えて焦り、苦しみながらも必死で言葉をつなげた。

「いや、エルが、いきなり飛ん・・できて、うっ。

ヒューとロルフも、、はぁはぁ、危ないと思った、、、反射的に、、こう、なって、しま、、、」

どんどん顔を青ざめさせている第二皇子の後ろで、ロルフがヒューの炎に巻き込まれてはいるが、それと同時に渦の水が蒸発し相乗効果で何んとか凌いでいる。


「お、俺の燃えるような香りが、、、」

「僕のまろやかな香りが、、」

「私の、涼やかな香りが、、、」

どんどんまともな言葉を使えなくなってきた三人だが、顔だけは必死でタクトの方に向け、タクトの周りの光景に怒りを覚える様子を醸し出している。


ココアもさすがにこの状況がパヒューム効果、魔法トラブルカードの効果だけの異常さではないことに気づき、タクトの方を見た。

タクトはタクトでパヒューム効果の影響を受けた男子生徒に囲まれはじめていた。

エルやヒューが怖くて近づけなかったのだが、その二人が突然ココアの元に飛んで行ってしまったので、これ幸いと近づいてきたようだ。


「タクト様には四人の攻略対象の好感度を上げていただかなければいけないのに。

恐らくこれは磁石カードの影響ですわね。

パヒューム効果もあまり使い物にならないようですし。」


ココアは目の前で繰り広げられる光景に、自分が思ったような効果が得られないと判断するとすぐにパヒュームカードを終了させ、ついで、磁石カードを発動させた。


「属性カード 磁石 発動。

対象の磁石効果を無効化。」

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