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003_テスター構成の話

9人の男女が囲む直径1mほどのテーブルの一部に険悪なムードが漂よった。

シキの頭の後ろから左手を回してその口を塞いでいるタクトに、ココアとニコがまるで呪いを放つかのような鋭い視線を向けているためだ。

目鼻立ちのはっきりした高低差のある二人からの冷たく突き刺さる視線はなかなかに痛い。


「なぜ、と言われても、ここはミーティングルームで、結構人いるよね?」

コテンと首を横にかしげて、愛想を出してみる。

止まらなくなっているシキの解説(独り言)を、とりあえず止めたかっただけのタクトは、小リボンチーム二人の攻撃を笑顔で防御してみた。

が、二人には通じなかった。


ところでシキは、何故タクトが自分の口をふさいでいるのか、小リボンチームが何を怒っているのか理解できていない。

だから説明を求めようとタクトを見上げて黒縁メガネから目で訴えかけてみたのだが、ココアとニコの鋭い視線に笑顔で防御中のタクトは、余裕がありそうに見えて、実は無さそうだった。

幸い塞がれているのは口だけだし、息はできるし、小リボンチームは怖いしで、気にせずそのままの体制で待つことにした。


シキの後ろにいるアオバだけはシキの動向に気づいていたが、と言って、このムードの中に入って小リボンチームに呪いの視線を向けられるのも嫌だしと複雑な面持ちでいる。


タクトの防御をものともせず、ココアは、ふっ、と息を整えて口角をあげた。

「言い訳はよしなさい。

わかっているのよ。

シキさんの解説(独り言)をタクトが独り占めしたいだけでしょう?」


ココアはさらに妖しい笑みを深め、その口から冷たい息が吐けると言っても信じてしまいそうな雰囲気を醸し出している。


自分の後ろにいるココアの呪いの視線を遮らないように少し頭を下げていたチャナが、実際に震え出した。

十数秒の沈黙だったがそれが我慢できなくなったのは、チャナだった。

「ココアさん、背中が寒いです。

お願いですから、私越しに冷気を発するような視線をタクトさんに投げるのはやめて。

もう、どきますから。」

胸に抱いたパソコンをさらに強く抱いて、チャナは左側にいたヨウキの後ろに隠れようとしたが慌てたため、さらにその横にいたマシロに体当たりしてしまった。


「マシロさん!」

タクトが空いている方の右手を瞬時に伸ばしてよろけたマシロの肩を支えた。


「ご、ごめんなさい。

体が冷えて思うように動かなかった。」

チャナはマシロに向いて頭を下げようとしたが、さらに後ろによろけて今度はヨウキにお尻がぶつかってしまった。


「うわっ、ヨウキさん、何するの?」


「えっ、俺?

チャナがぶつけてきたんだと思うけど。」


混乱している二人をよそに、口を塞がれたままタクトに抱えられているシキにアオバが声をかけている。

「シキさん、解説(独り言)をしたいなら、さっき俺がいた窓際のテーブルの方に行きませんか?

俺が聞きますよ。」


「もごもごもご(続き話してもいいのか)?」

「はい。もちろんです。」


「駄目だから。

ミーティングルームで、開発済みのコアな話はしない方がいい。」

意味不明なシキの声とアオバの答えを理解したタクトが二人を止める。


「やっぱり、

シキさんの解説(独り言)を独り占めしたいんですか?

タクトさん。

それ、俺がやりたいですけど。」

アオバの眉間にしわが寄っていた。


「違うから。」

タクトはシキをリリースして、片手で支えていたマシロを両手で抱きしめた。

「タクトが独り占めしたいのは、私らしいよ?」

マシロは首に回されたタクトの手をポンポンと叩いた。


四人のやりとりをシキの隣で見ていたトウリは口元に手を当てて、必死に笑いをこらえている。

ニコはハグしたままのトウリの体が微妙に揺れているのに気づき呪いの視線を消した。


「笑いをこらえているトウリちゃんも可愛い。」


ニコが抜けたことで、いつの間にか一人取り残され状態になったココアだったが、ビシッと音が聞こえるような切れのある動きで腕を前に突き出し、タクトを指した。


「タクトさん!

あなたに勝負を挑みます。

マシロの企画のデュエル・コンテンツ、サシで勝負です。」


マシロの首に手をまわしたタクトは驚きの表情で、タクトに抱きしめられたマシロは喜びの表情でココアの言葉に返事をした。

「「プロジェクトのテスターを二人で組むってこと?」」


「そう。

マシロ、今回はタクトにプログラムソース見せてはだめよ。」

ココアが悪い顔でタクトを見ながら続ける。


「知ってるのよ。

テストに入る前にプログラムソース見せてもらってるってこと。

今回は、事前情報や小細工はさせないわよ。」


ヨウキに絡んでいたチャナも会話に割行ってきた。

「今回の企画って、乙女ゲームでの対決でしたよね、マシロさん。」


チャナがマシロに視線を投げかけると、マシロが頷いた。

「そう。

乙女ゲームと言っても、性別は選べるからね。

ヒロイン女・プレイヤーVS 悪役令嬢/悪役令息プレイヤーとで対決。

攻略対象はプレイヤーと逆の性別(NPC)に自動的に割り振られる。

対決内容は、ゲーム内にあるコンテンツカードを上手く使って相手を、断罪追放にするか、ざまぁ追放にするかを競うの。

追放されると負け、勝った方は、攻略した攻略対象に好きなだけ溺愛されてハッピーエンド。

ただ、コンテンツカードの使い方によっては、途中エンドもあり。

途中エンドになったら、その時点で残っている方が勝ちってゲームね。」


マシロが内容を一通り説明したが、タクトは浮かない顔をしている。

「俺はマシロさんしか溺愛したくないし、されたくない。」


チャナの後ろからゲーム内容を知っているヨウキが補足を入れた。


「このゲームの難しいところは、どちらかがゲームオーバーになったら、そこですべてが終わって、攻略対象者を攻略できなくなるってことかな。

最後まで行きたければ、どちらかのゲームオーバーを回避するために対決者同士が協力する必要がでてくることもある。」


頭越しにヨウキとマシロが話すのを面白くなく感じたチャナは背伸びをして邪魔をしてみた。

「マシロさん、今回の企画のゲームって、絶対二人?

一人でも?あと、ゲームクリアの条件って?」


「一人でゲームする場合は、対決相手はNPCになるだけで、二人でプレイする場合と結果は一緒よ。

ヒロインが悪役令嬢を断罪するか、断罪してくるヒロインに悪役令嬢がざまぁ返しをすると、負けた方は先に一人で追放されて終わり。

勝った方はゲーム内に残って、学園卒業まで攻略対象者一人か複数に溺愛されて、エンディングロールまで見られる。

今回はキャラデザを入れてるから、見ものよ。

ゲームクリアの条件というより、断罪の舞台を設けるまでの条件になるけど、ゲーム内のコンテンツカードに関わるから、今は秘密かな。」


チャナは小さく頷きながら聞いていたが、最後に大きく頷くと体を半回転させて後ろにいるヨウキに向き合った。


「ヨウキさん。

私もヨウキさんに対決を申し込みます。」


「俺はテスターメンバーにすでに入っているけど、俺の担当はNPCと決まってるから無理。」

真面目な顔をしたチャナにヨウキがすかさず答える。


「えー、、せっかくヨウキさんを断罪できると思ったのに。」

チャナはがっくりと肩を落としたはずみでパソコンを落としそうになって、慌てて抱えなおした。


「大丈夫よ。

ヨウキはα版でNPCとテストするから。

β版のテスターに二人を組み込んどくね。」


「マシロさん?」

ヨウキは、なんてことを言うんだ、やめてくれと言いたげに鼻にしわの寄せてにがそうな顔で発案者のマシロを責めている。

反対にチャナの顔は明るく光っている。

「本当ですか。

やった。お願いします。」


「こちらこそ、有難う。

開発の担当者はもうシキ含め決まっているけど、テスターはこれから募集かけなきゃいけないから。

とりあえず、2組決まってよかった。」


はぁ、小さくため息をついたヨウキが嘆く。

「そのスケジュールもシステムに登録するの俺なんですけどね。

β版のテストのときは、パターンも増えるから、システム組込み忙しいんだけど。

まぁ、いいや。

チャナは俺に勝てる気でいるみたいだけど、α版のテストやった俺に勝てるとでも?」


「α版でも、一回やったヨウキさんに勝てる気はしない。」

チャナは抱えたPCにあごを乗せ、目を瞑り考え込んでしまった。

そのまま、自身なさげに語る。

「これは、だったら、バグでも何でも利用して、なんとかヨウキさん潰すこと考えなきゃ。」


「潰すって、、、」

ヨウキは呆れている。


グシャッ、ふいに紙コップのつぶれる音がし、続いて低い声のつぶやきが聞こえた。

「バグは全部潰す。」

シキが手に持っていた紙コップがつぶれている。


「「「「「あっ」」」」」


「その通りですね。」

すかさず、アオバは当然のことのように頷いて同意する。


静寂が訪れた丸テーブル上の空気の中で、ピロンとヨウキの携帯着信がなった。

ヨウキは胸ポケットから出した携帯を確認すると、マシロの方を向いてニッと白い歯を見せた。


「兄さんから承認がでた。」

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