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029_4つ目の個人イベントカード発動の話

ココアたちが体育館を去っていくと、他の生徒たちも、ある生徒は野良の補助キャラに追われて我さきにと逃げ出すように、ある生徒は可愛らしい野良の補助キャラたちに懐かれて戯れながら、ある生徒は天使と悪魔の戦いに話題の花を咲かせながら教室へと戻って行った。

生徒たちがいなくなり、野良の補助キャラたちもいなくなった体育館に残ったタクトは、切れそうなドレスの肩ひもを抑えつつ、片手に持ったカードを頭上に掲げていた。


「お着換えカード、制服」

掲げたのはヒロイン仕様にカスタマイズされた制服の絵柄のカード、そこからたくさんの光のリボンが降り注ぎ繭のようにタクトを包んで一瞬で消えた。

その周りをタクトの補助ひよこたちがピヨピヨと飛び回っている。


「お着換え完了、やっと最初の制服に戻れた。」

元の白いブレザーとショート丈のスカンツの制服に戻ったヒロインタクトが手元のカードの絵を確認すると、肩ひもの切れそうな可愛らしい赤をベースとした黒い刺繍の入ったドレスに変わっていた。

カードの絵柄の服と来ていた服が入れ替わったお着換えカードだが、カードの中のドレスの肩ひもが今にも切れそうになっている。


「カードに戻っても、肩ひもが切れそうなところはそのままなんだな。

俺はもう二度と着ないからいいけど、カード的には修復機能とかあった方がいいかな。」

手の中のカードが消えると、ドレスの前に来ていた体操服のことを思い出した。


「そういえば、リボンのたくさんついたピンクの体操服が赤のドレスと入れ替わったからそのカードは今頃ヒューの手元にあるのか。

あれも二度と着ないだろうから、いいか。」


体育館から出ようとしたときに音響室で何か動くモノが目の端をかすめた。

見ると、音響室の中でマッチョな男性が野良の補助キャラのオウムに髪を引っ張られたり、耳元で歌を歌われたりと遊ばれている。


「野良の補助キャラって、結構人好きに設定されているの多いな。」

タクトがマッチョな男性で遊んでいたオウムたちに体育館から出るようにとひよこに伝えさせると、オウムたちは満足気に音響室から飛び出てきた。

涙目で音響室のガラス窓から体育館の中を覗くマッチョな男性をしり目に、飛び去るオウムと一緒にタクトも体育館を後にした。


元の回廊を戻って行き、1年の校舎前の芝桜の花壇が見えたころで、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「タクトさん!」


園芸部の道具小屋の裏から顔を出したのは、1年生の攻略対象者、エルだった。

「エル?

個人イベントカードの発生条件の園芸部の花壇付近にいるな。

タイミングが良すぎるけど。」


スルーしてこのまま教室に戻るか、だがここで、個人イベントカードを発生させることができたらストーリーを進めることができる。

「イベントの発動条件は、園芸部の花壇付近のエルと、荒らされた花壇、それにその犯人。

始めは好感度の低いプレイヤーが花壇あらしの汚名を被るんだったな。

さすがに、転校初日の1日目に、花壇が荒らされることはないかな?」


園芸部の道具小屋の裏から出てきた水色の髪で水色の瞳のエルが、2年の校舎に戻るタクトに向かってズンズンと大股で近づいてくる。

ヒロインタクトより少しだけ長いショートカットの水色の髪に、大きな水色の瞳、ショート丈の白いブレザーに半ズボン、怒っているような態度で近づいてくるエルだが、小動物的に可愛らしいだけで全く迫力を感じなかった。


「午後の授業のひよこまみれのときとはずいぶん態度が違うような?

プンスカしているだけで怖くはないけど、瞳に嫌悪感を感じる気がするし。

そうか、体育館での裏技効果、この世界全体へ影響する効果を受けてエルも好感度が逆転してたんだ。」


中庭から近づいてきたエルが回廊との段差の前まで来ると、タクトの正面で足を止め、人差し指を後ろに見える2年校舎側の花壇に向けた。

「芝桜の花壇を踏み荒らしたのは、タクトさんですか!?」


「花壇?もう、荒らされているのか。」

本日すでに攻略対象のイベントを3つも消化しているにもかかわらず、予想外のことにタクトは思わず聞き返していた。


それがエルの逆鱗に触れたようでさらに声を高くして、手をパタパタと振りながら花壇を何回も指している。

「とぼけてるんですか?あそこですよ!あそこ!」

タクトが回廊から中庭に降りて数歩進むと、絨毯のようにきれいに並んで咲いている芝桜の一部分に、土の見えている箇所があり、その周りが踏み荒らされているのが見えた。

体育館での対戦ですっかり頭から抜けていたタクトだが、体育館に行く途中で芝桜の花壇に焦げ付かせた穴のように黒く茶色いしみに見える場所があったことを思い出した。

タクトにとっては明らかに言いがかりなのだが、何故かエルはタクトが犯人だと思い込んでいる。


「犯人扱いは、好感度が低いせいか、とはいえ、展開がこうも早いと対策が追いつかないな。

そのまま犯人でもいいけど、個人イベントカードの発生する気配がない。

えっと、どうしようか。」

自分は犯人ではないが、このまま汚名を被ってでも好感度を下げておきたい思いも強い、だけどそれではイベントが発生しない。

タクトが迷っている間にも、エルはぐいぐいと顔を近づけて、早口で問い詰めてくる。


「今、見えましたよね?僕たちの花壇。」

エルはワナワナと握った拳を震わせて問い詰めだした。

「僕たちがどれだけ丹精込めて花壇の世話をしていると思っているんですか!

園芸部と言えど遊びではなく、真剣に自然や環境のことを考えて、さらに季節に咲く植物の彩りがここに集う人の心を癒せるように熟慮に熟慮を重ねて!

それなのに!」

エルの意外な迫力と近すぎる顔に、タクトが思わず後ずさると、2年生の校舎の上方から聞き覚えのある声が聞こえた。


「属性カード、パヒューム 発動しますわ。」

校舎の2階を見上げると、白い出窓を大きく開いた状態で窓台の上に立ち、さらに、広げた両方の手にそれぞれカードを発生させているココアがいた。


「パヒュームカード、対策考える暇を与えず使ってきたな。」

エルがココアに気を取られているすきに、タクトは1年生の校舎近くの道具小屋に走った。


「パヒュームの対象はもちろんタクト様。

攻略対象者たちを思う存分引き寄せていただきますわ。」

ココアの手の上のパヒュームカードには香水瓶から匂い立つような桃色の煙とハートが重なる絵が現れて輝きを放っている。


「それ、異性を引き寄せる香りを発生させるカードだから。

攻略対象者だけが対象ではなく。」

ココアは分かってやっているのだろうが、ヒロイン補正が強力であることを考えると、この花壇だらけの中庭にどれだけの異性が引き寄せられるか。


「そして、さらに小イベントカード、魔法トラブルカード、発動しますわ。」

ココアはパヒュームカードを発動させた手の反対の手に星型のカードを持っていた。


「小イベントカード、やっぱり持ってたな。

魔法トラブルカードということは、好感度のアップダウン率は低いが、犯人をあぶり出すことができる。

残すは犯人の登場だけなら、ココアの狙いは、個人イベントカードの発動か。」

園芸部の道具小屋まであと少しというときに、ココアはそのまま2階校舎の出窓から飛び降りた。


「えっ!ココア様!」

見上げていたエルが驚いて、両手を広げながらココアが落ちてくるであろう窓の下に駆け寄った。


ココアは金の巻毛を翻して一回転すると、マーメイドスカートの裾のレースを捲れあげさせながら両足でスタッと花壇の中に着地した。

エルが待つ真下を避けて。


手を広げたまま固まっているエルの隣にいるココアの周りでは、やり遂げた雰囲気を漂わせた補助ひよこたちが羽で汗をぬぐっている。

人知れぬ苦労を行ったみたいだ。


「「「スマートですわ!さすが、私たちのココア様!」」」

2階の出窓から3人の令嬢が所狭しと頭をのぞかせて、拍手とともにココアの着地を絶賛している。


「どんな対応をしたら、あそこまで自分に崇拝するような学習をさせることができるのか。

見習おうとは思わないけど、解析はしてみたいかな。」

ココアを応援する三人の令嬢に感心していたタクトだが、徐々にパヒュームの効果が表れてきて、中庭に複数の男子生徒が集まってきている。


ココアが三人の令嬢に向かって華麗に手を振っているその横で、エルは自分が芝桜の花壇の中に入り、先ほどタクトに捲し立てたように丹精込めて育てた花を自分自身で踏み荒らしてしまったことに愕然としていた。

「僕が花壇を、花たちを踏み潰すなんて、、、

いや、でも、これは人助けのためで。」

頭を抱えて今にも泣きそうなエルに、さらにココアが追い打ちをかけた。


「あら、あちらの花壇があれているのは私が先ほどカードを拾ったときに踏んでしまった跡ですわ。

2度目の私に比べて、エル様はまだ1回目ですもの。

大丈夫ですわ。」

頭を抱えていた手を離しながらゆっくりとココアの方を見るエルの頭上に、薄白いカードが浮かび上がってきた。

「えっと、今、、、ココア様、が?」


水色の大きな瞳に涙を浮かべたエルがココアを見上げながらしがみつき、か細い声をだした。

「あそこの花壇を踏み荒らしたのは、ココア様だったんですか?」


「?

そうだと申しましたわ。

私が嘘をついたとでもおっしゃるの?エル様?」

悪役令嬢というよりは、ただの悪役が弱いものを虐めて楽しんでいるような、にやりとした笑みを浮かべてエルを見るココア。


エルの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちると頭上の薄白い個人イベントカードに絵が浮かび上がっていた。


澄んだ青空を背景に水色の薔薇の花びらが舞い踊る、甘い笑顔ショット。


「エル様の個人イベントカード発動ですわ。」

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