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024_トリプル発動の話

赤いジャケットの裾周りや袖、襟元に黒をベースにした唐草のような刺繍が施されたスマートなスーツを着たヒューがタクトに手の差し出してきた。

「俺と踊ってくれないか?」

細身に見えても騎士らしく鍛えられた体で大振りだがゆっくりと優雅にタクトをダンスに誘う姿は、さすが伯爵令息だ。


タクトは一瞬見惚れてしまったが、差し出された手を拒みつつ咄嗟の言い訳を考える。

「いえ、体操服を着ているし、ドレスはないし。

できれば、その優雅さを見習って自分が男性パートを踊りたいと思わなくもないし。」

下から見上げるのでどうしても上目遣いになってしまう瞳でヒューを見つめると、フッと首を斜め下に向けて口を押えている。

そのすきに、そのままじりじりと後退するも、我に返ったヒューにつかまってしまった。


ヒューは差し出した手をそのまま伸ばしてタクトの手を取ると「そのままで十分だ、可愛らしい、何一つ恥じることはない」等々、慰めと激励の弾丸トークを始めた。

「何も恥じてないし、心の底から男性パートを踊りたいんだけど。」

両手を握りしめたまま熱く語るヒューから顔を背けると、ココアと第二皇子が微笑まし気にこちらを見ているのが目に入った。


「せっかく下げた好感度が、あがっていっている感じが、、、、」

第二皇子からの生温かげに見守る視線を感じ遠い目をするタクトに、一通りの美麗字句を並べ終えたヒューが、タクトの腰に手を回してそのまま体育館の中央まで足を進めた。


「さぁ、皆も一緒に!」

ヒューが声を張り上げ、ウィンクで飛ばしたハートがあちこちに散らばると、それをもろに受けた生徒はその場にへなへなと座り込んだ。

多少の悲鳴を上げつつも、生徒たちは男女や仲の良い友達でなど、思い思いのペアを作りだした。


「じゃぁ、我々も行こうか?」

第二皇子もココアの手を持って体育館の中央に進むと、ヒューとタクトの隣でワルツの姿勢を取った。


第二皇子とヒューがお互いの目を見て頷きあうと、ヒューが掛け声をかける。

「さぁ、音楽を!」

体育館の音響室にいたマッチョな男性がガラス越しに頷くと、体育館に音楽が流れだした。


「マッチョ男は、いつの間にあんなところに。」

タクトに振り回される恐怖に怯えるよりはと、サッサと音響室に逃げ込んだらしい。


音楽に合わせてワルツを踊りながら、よそ見をしているタクトにヒューは面白くないと言わんばかりの声をかけた。

「タクト、俺と踊っているときに、体育の先生とはいえ、他の男のことなんか見るなよ。」

そのままタクトの腰を持ち、180度のターンを行った。

タクトもそれに合わせて、体をヒューに預けて軽やかに飛び、音もなく床に足をつけた。


「うまいじゃないか、タクト。

ステップが軽やかで、リードもしやすいし、何より俺のスピードについてきてくれるのは楽しい。」

ターンのたびに赤い髪を靡かせながらヒューは、タクトをほめてくれる。


「うん、説明書通りだから。

女性パートのダンス経験が無くても、AIが体感をサポートしてると、書いてあった。」

サポートのおかげで流れる音楽とともに次のステップや体制のイメージがわかる。


ココアもAIのサポートを受けているかどうかは知らないが、第二皇子と息ピッタリの美しいワルツを披露している。


壁の花になっていたロルフが、銀縁メガネを整えながら、中央で踊るヒューとタクトを感心しながら見ている。

「まぁ、教室のひよこの件はともかく、ダンスは思ったより素晴らしいですね。

私も次に誘ってみましょうか。」


「うーん。

あっちも何だか生暖かい目をしている、もしかしなくても次にダンスのパートナーに誘われても嫌だな。

絶対、ヒロインの好感度判定、やばすぎる。」


「本当にやばいくらい、踊りやすいな、俺たち息ピッタリだと思わないか?」

熱がこもってきたヒューの瞳には、教室を出たときの冷たさの跡形もなく、好感度50%超えをタクトは確信した。


軽やかなステップと共に、隣で踊っていたココアたちペアが近づいてきた。


近づくココアは悪そうな笑みを浮かべている、よりにもよってこのタイミング、なにかするつもりか、とココアを警戒していると案の定、ココアが仕掛けてきた。

「まぁ、一人だけ体操服だなんて、そんなに目立ちたかったのかしら。

それとも、貧乏な田舎令嬢は高価なドレスを用意するのが無理だったのかしら?」


勿論、その言葉は至近距離にいる第二皇子やヒューにも聞こえている。

ヒューは、一瞬眉をあげたがすぐに平静を取り戻し、第二皇子はココアの豹変に狼狽えながらも窘めた。

「ココア、どうしたんだ?

転校初日だし、準備不足は仕方ないと思うんだが、そんなこと言うなんて、君らしくない。」


「デイビー様、転校生だからと言って甘いことをおっしゃるべきではありませんわ。

ダンスの授業でドレスを準備できないなんて、他の生徒への示しがつきませんわ。」

ターン、ステップと流れる曲に合わせて和やかに踊る二人にため息をつく生徒も多かったが、会話は和やかではない。


「そうだわ、タクト様はきっとドレスをどこで購入するかもわからなかったのではなくて?

そもそも、ドレスをお持ちなのかしら?」


「ココア、事前に教えてくれていたら、、、

生徒会の方でもドレスの貸し出しなど行っているのは知っているだろう?」


「あら、田舎令嬢に合うドレスなどなかったと思いますわ。」


二人の雰囲気が変わってくるとザワツキが目立ち始め、加えて、ココアが近くで踊る令嬢たちに目配せをすると、それが波紋のように他の令嬢たちにも広がっていった。


「やっぱり、一人だけ体操服なんて、目立ちたいだけだったのかもしれませんわ。」

「きっとそうですわ。」

「後から来た私とは踊っていただけなかったわ、贔屓ですわ。」

何故か先ほどまで友好的だった女子生徒たちからも非難の声があがっている。


「女性が男性パートを踊って、しかも相手の男性を怖がらせるなんて、紳士の風上にも置けない。」

男子生徒たちからも、何やら妬みのような言葉があがっている。


まずいと思ったときには、ロルフの隣で壁の花になっていた伯爵令嬢の頭上にあったカードに絵が浮かび上がっていた。


嫌がらせイベントカード 仲間外れの条件、”大勢の生徒に囲まれ”た”一人だけ異なる属性の衣装を着たヒロイン”の"攻略対象者たちからの好感度が50%以上"が揃ったようだ。


「個人イベントカード、嫌がらせイベントカード、この2つが一緒に発動したからと言って好感度の上昇に相乗効果はないよな?

あったら、ヒロイン効果が無くても、挽回できるかどうか、、、」


「ふふふ、私のターンですわ。」

ココアは第二皇子と踊りながら器用に胸の隙間からリボン型のカードを出して、手のひらに乗せた。


「相反するカードだ。」

仲間外れは、ドレスの中に体操服が一人、だが、ダンスレッスントラブルカードは、正装してのダンスレッスンが想定されている。

この場合は、ヒロインではなく、ドレスを着ている悪役令嬢扮するココアにプラスに働く可能性が高い。


「個人カードイベント発動、嫌がらせカード発動、のダブル発動、

そして!ここでこのカードの出番、のトリプル発動でしてよ。」

構わずにココアはトラブルカードを発動した。


「周りの戯言がうるさいな。」

ヒューが不機嫌に言い放つと胸のポケットから、自分のスーツと同じ柄のドレスの絵が描かれたカードを取り出した。


「ヒュー様?いったい何を?」

目の前のカードを見てタクトは笑顔をひきつらせた。


「何をって、決まってる、周りを黙らせるんだ、この着せ替えカードのドレスで。」


「そうきたか。」

カードには両肩の細い紐に、前で結ばれたリボン、腰の後ろで結ばれたリボン、どこをとっても危なさそうなドレスの絵が描かれている。


「これは、ココア様のご趣味では?」

このままだとココアのラッキースケベがそのまま発生しそうだと危惧したタクトは、好感度よりもそちらを回避することを決めた。

3つのカードの発動で、どれだけヒロインの好感度が上がるか怖いが、ココアの本来の目的を潰す方が敗北感は強いだろう。


「まぁ、媚びを売ってますわ。」

「ヒュー様と御揃いのドレスなんて、身の程知らずですわ。」

女子生徒たちのささやき声が辛辣なものになっていく。


「攻略対象者たちの好感度が上がる代わりに、令嬢たちの好感度がマイナスになるのは違うんじゃないかな。」

タクトが肩を落とすと、「任せろ!」と言い放ったヒューが、お着換えカードをタクトの頭上にかざした。


本日二度目のお着換え完了である。


「タクト、やっぱり似合ってる。」

大満足とばかりに腰に手を当てて、本日最上級の笑顔のヒュー、スンッと太く大きな字を背景にできるくらい無表情なタクト。

色を揃えたドレスはヒューのテンションをさらにあげ、タクトの手を取り直して高く上げるとそのままくるくると回しだした。

ラッフルたっぷりの可愛らしいスカートがひらひらと舞いヒロインタクトを更に引き立てている。


ヒューはもちろん、第二皇子、ロルフまで見惚れている。

「ふふ、このトリプルイベントで攻略対象者たちの好感度を100%以上に戻して差し上げますわ。」


「うん、ヒュー様にお着換えカード渡したのもココアだろ。

さすが用意周到だ。」


ワルツ曲が終わると、周りのペアはお辞儀をして、他のパートナーを探し始めた。


「まぁ、ココアならそこまでするだろうとは予測してたかな。」

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