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023_3つ目の個人イベントカード発動の話

黄色やため息交じりの悲鳴がこぼれる教室を後にして、タクトは体育館に向かった。

廊下に出るとホールとは反対側方向の階段を下りて、2年生の校舎棟と1年生の校舎棟の間にある中庭に出る。

その中庭の花壇は園芸部が丹精込めて世話をしているもので、校舎沿いにも絨毯のように敷き詰められた芝桜が奇麗に咲いている。


そんな芝桜の絨毯に、まるで焦げ付かせた穴のような、黒く茶色いしみに見える場所が数カ所見受けられた。

「荒らされてるとこ、あそこも園芸部の花壇だよな。

エルはいないし、ココアもいないから条件未達成でカード発生は無いな。

今は。」

タクトは知らないが荒らされているのは、ココアが天使カードを拾った場所だ。


校舎沿いに咲く芝桜を横目に歩くタクト。

1年の校舎棟から更に体育館まで延びる廊下は、アカンサス模様などの彫刻が掘られた円柱が左右に連なり、芸術的な回廊ととなっている。


1年校舎棟から体育館まで半分まできたとき、高い天井に白いカードが貼りついているのを見つけた。

「単純に飛び上がっても届きそうにない高さだな。」

タクトが見まわしていると、ひよこたちが天井にパタパタと近づいてカードを一所懸命つついてくれたが落ちそうにない。

ぴっぴー(下がり気味の鳴き声が申し訳なさを表しているようだ。)

「うん?」

桃色の髪をかきあげながら考えていると、1年生の校舎の隅、中庭側に園芸部用の道具が収められている小さな小屋を見かけたのを思い出した。


ひよこたちと1年生の校舎脇まで戻り、木張りの小屋の扉を開けると、その屋根でくつろいでいた小さなひよこたちが数羽飛びおりた。

「ん、ノラひよこを驚かせたみたいだな。」

ぴっぴぴぴー

タクトのひよこたちが慌てて落ちたノラひよこを助けに行っている。

「・・・面倒見が良いな。」

小屋を入ると左右の壁に棚が配列され、そこに大中小のバケツ、スコップ、熊手等々が並んでおり、正面奥に脚立も置かれていた。

「あ、脚立あったな。」

5尺ほどの脚立を軽々持ち上げカードのあった場所まで引き返すと、脚立を登って天井のカードを取ることができた。

手にしたカードに浮かび上がってきた絵。

「この絵は確か、仲間呼びカード、レアカードだ。」

タクトはカードを見ながらうーんと唸る。


「持てるカード枚数はマックス6枚。

今持っているのは5枚、これを入手すると6枚で、、、

仲間呼びレアカード、レアと言えど、これの使用は賭けのようなものだし。」

悩むタクトの周りを戻ってきた1号から5号までのひよこたちが飛び回って、手に入れるように催促している。


「わかった。

沈黙、鏡像とも、後1回使ったら消失するし、いざとなったら破棄する。

鏡像カードは、もう1つ試したいことがあるから最後の1回をすぐ使うだろうし。」

掌にのせると、カードはそのまま消えていく。


脚立を返すと体育館まで行ったタクトだが、体育館の前で立ち止まった。

食堂で教科書を渡してくれたマッチョな男性が体育館の入り口を塞ぐように右往左往していたからだ。

「関わりたくないけど、このままじゃ体育館に入れない。」


顔半分を隠すように手を当てため息をついているタクト。

その気配を感じたマッチョな男性が振り返ったが、その顔は情けなく眉を下げていた。

「はー、鍵が壊れたんだ、ほら。」

大きな手のひらに折れた小さな鍵をのせている。

「随分ポッキリと折れてますね、へし折ったんですか?」


「まさか!

鍵を回すときに、つい、力を入れすぎただけだ。

そんなことで鍵が壊れるなんて、思わないだろ!な!な!」

男性は、自分には責はないと言いたいのだろうが、同意を求められても困る。


「とりあえず体育館が開かないのは困りますよね。

タクトは男性の手から鍵をつまみ上げて、肩に乗っているヒヨコの前に向けた。

「何とかなる?

その辺の石削って、これと同じような形に。」


ピヨ!

先ほどカードが取れなかったことを挽回したい補助ひよこたちは勢いよく飛び立つと、5cm程度の石を拾ってきて体育館前の石畳にのせた。

ぴーよ!と掛け声をかけると、一斉にすごい勢いで石を嘴でつつき始め、あっという間に石は鍵の形に変わってしまった。

5羽はぴーうと羽で額の汗をぬぐうと、タクトを振り返り親指(羽だが、)を立てて、いい仕事をしたアピールをしている。


ひよこを労いながら受け取った鍵をカギ穴に差し込み、ひっかかりを確認してゆっくりと回すと、カチッと音がして解錠された。

「有難う、助かった!!!」

タクトが扉を開けると、マッチョな男性が我先にと足音をヅカヅカとたてて入り、体育館の中央で止まり腰に手を当てて仁王立ちになっていた。

と思うと、すぐに入り口まで引き返してきて、胸元から取り出したカードをタクトの前に差し出した。

「おー!よかった。

転校生、体操服を取りに来たんだよな。

ちゃんと準備しておいた、これだ。」

胸元から出されたカードに思わず引いてしまったタクト。

「いらないけど。

教務の先生って、、、ボディビルダー?ダンスの先生じゃないのか。」

断られてもなお無理にカードをタクトに押し付けた男性は、ビシッと親指で自分の顔をさした。

「おれは、ボディビル、ダンスに限らず運動全般、何でもこなす天才だ。

とりあえず受け取れ!ほだ、可愛いだろ。

ピンクのリボンがたくさんついた、体操服!」


「あーーー、

お着換えカード、ピンクの体操服か。」

タクトは教科書(燃やされたが)を先回りして手配する手腕といい、このカードといい、ココアの手回しの良さに、恐怖さえ感じて寒い笑いを漏らした。

「ははは、もしかしなくても、ココアからだよね、これ?

そして、もしかしなくても今度も嫌がらせイベントの発生も狙ってる?」


体育館でのヒューのイベント、ダンスレッスントラブルカード。

そして、ドレスの中に一人体操服で登場する仲間外れ嫌がらせに見せかけてドレスを台無しにする嫌がらせイベント、ココアの狙いがこの3つだろうとタクトは推測した。


「いやいやいや、ほら、そんなことない。」

見たままに焦っているあたり、嘘がつけない性格らしい。


「しかたないか、受けて立つといったし。」

タクトはカードを受け取ると、頭の上に掲げた。


カードからたくさんの光のリボンが降り注ぎ繭のようにタクトを包んで一瞬で消えた。


「お着換え完了っと。」

タクトの胸には着替えた服と同じ柄の体操服の小さなピンクのピンバッチが輝いている。


「おーーーー!」

パチパチパチパチパチパチ

マッチョな男性が感動して大きな口を開け、大きな手で大きな拍手をタクトに向けている。


タクトがパンと両手を合わせると、体育館に音が響く。

「とりあえず、やってみるかな。」

タクトはマッチョな男性に向けて笑みと共に手を翳した。


タクトが体操服に着替えてから数分後、他の生徒たちが正装で体育館に入ってきた。


「ふふふ、今頃タクト様はいろいろ考えすぎていることでしょうね。

一人仲間外れ嫌がらせイベントか、いや、そんなはずはない、など!」

一番最後に体育館に入ってきたココアは、悪役令嬢定番の胸元が大きく開いて、金の巻毛を引き立てる派手で美しい高価なドレスを着ていた。

その横で白いタキシードに赤いスカーフを胸に挿した第二皇子がエスコートをしている。

「そうだね、ところでこの悲鳴らしいだみ声はなんだろう?」


わー!ひえー!


第二皇子はココアに甘い笑顔を向けていたが、体育館から聞こえる奇妙な叫び声に気づき怪訝な顔に変わった。

体育館に入ると、タクトとマッチョな男性がダンスの練習らしいことをしているのを数人の生徒が見守っていた。

第二皇子たちが入ってきたことに気がつくと、変な叫びをあげていたマッチョな男性はタクトの手を無理やり剥がして駆け寄った。


「デイビー様、あの女酷いんです。

俺のことを持ち上げて、振り回すんです。」

第二皇子の足元に跪きながら、タクトを指し、半泣きで訴えている。


「そんなに怖がらなくても、リフトやターンをしてるだけだから。」

肩を回しながら逃げた男性にタクトが近づくと、その大きな体を小さくして第二皇子たちの後ろに隠れてしまった。

隠れきれないほど大きな体を小柄なヒロインタクトに持ち上げられて、信じたくないと思ったところに軽やかにターンやステップを決められて、パニックになってしまったらしい。


「タクト様、対外的に誰かをいじめるのは私の役目ですわ。

役どころを間違えないでくださいませ。」

ココアがタクトに非難の目を向けると、タクトは周りの令嬢たちにむけて大きく腕を伸ばした。

「他の女子生徒たちとも踊ったけど、全く怖がってなかったよ。」


「はい、楽しくおしゃべりしながら、ダンスの相手をさせていただきました。」

「私も、思ったよりリフトを大振りされて少しだけ驚きましたが、ドレスのレースが奇麗に舞って感激いたしました。」


次々とタクトと踊った女子生徒たちが、楽しかったと語るのを見ていたマッチョな男性は、折っていた膝を伸ばして立ち上がると咳払いをした。

「ゴホッ、ゴホン。

いや、何俺も怖かったわけじゃなくて、小柄な女性が、俺のような巨体を持ち上げたから驚いただけで。

ゴホゴホゴホ、、」


「そうか、それならもう大丈夫だな?」

タクトがマッチョな男性を見上げて尋ねると、姿勢を正した男性から片言の返事が返ってきた。

「ハイモチロンデス」


「そういえば、お一人だけ体操服を着ていらっしゃいますけど、ドレスはどうされましたの?」

タクトに「体育館のダンスの授業は体操服で行います」と伝えた侯爵令嬢が、ここぞとばかりに服のことを指摘した。


侯爵令嬢の頭上に淡い光を纏って白いカードが現れようとしているのが感じられる。

”大勢の生徒に囲まれ”た”一人だけ異なる属性の衣装を着たヒロイン”、という条件は満たされている。

「でも、攻略対象者たちからの好感度が50%以上でないと発生しない。はず。」

うーん、と小さく唸るタクトの前にヒューが進み出て手を差し出した。


「タクト、その姿も可愛いし、男性パートがうまいのもすごいじゃないか。」


「あっ」

個人イベントカードの発生条件、体育館、男女合同ダンス授業、好感度が0以上マイナスではないが成立していることを知りつつ、意地悪イベントに気を取られていたタクトは、近づいてくるヒューに小さな声をあげた。


ヒューの頭上に薄白い個人イベントカードが浮かび、瞬時にその絵が現れた。


情熱を思わせる真紅の薔薇の輪に囲まれた、眩しい笑顔ショット。


「ヒュー様の個人イベントカード発動ですわ。」

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