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021_2つ目の個人イベントカード発動の話

案の定、タクトの後ろの本棚の上に乗り、大きく揺らしているのは、100倍くらい巨大になったココアのひよこたちだった。

ぴーう、ピーヨ、と止まり木を揺らすように、ギリギリのところで本棚が倒れないように遊んでいるひよこたちはとても楽しげだ。

もちろん、揺れる本棚からは次々本が散らばりながら落ちてくるので、タクトは両手で頭を守っている。

何が当たっても、痛みは感じないが、物が当たったとわかるくらいの衝撃はある。

まるで痛み止めを打った歯をゴリゴリと治療されているときのような感覚だ。


「タクト!」

駆け寄ろうとした第二皇子を、羽交い絞めにしてヒューが止めた。

「デイビー様、危険です。

私が行きますので、ここでお待ちください。」

「そんなこと言っている場合ではないだろう!」

第二皇子とヒューの攻防の隣で、エルはひよこたちを両手に抱えて呆然としている。


そこに戻ってきたロルフは、その惨状を見ただけで状況を把握した。

「ヒュー、そのままデイビー様を止めていろ、私がタクトを助けます。」

教室に入ると、落ちてくる全ての本を風魔法で浮き上がらせて、頭を押さえているタクトに駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?

怪我は?」

目の前にいるロルフ越しに図書受付カウンター上のカードを確認すると、薄白い個人イベントカードに絵が浮かび上がっていた。


深みのある落ち着いた濃い色合いの白薔薇を背にしての、ロルフの力強い眼差し笑顔ショット。


「ロルフ様の個人イベントカード発動ですわ。」


タクトのひよこたちが、エルの両腕からするりと抜け出すとタクトの肩や頭に戻ってきた。

本棚を揺らしていたココアのひよこたちも、大きさを元に戻しながらココアのもとに戻って行った。


風魔法で本をもとの位置に丁寧に戻したロルフは、銀縁メガネを整えながら一息ついてタクトに尋ねた。

「何があったのですか?どうしてこんなことに。

まさか、ココア様が?」

図書受付カウンターの向こうにいるココアを横目で見ると、メガネの下の目を鋭く光らせた。


急拵えの図書館に不意を突かれてしまったタクトには、好感度をコントロールする案がまだ浮かんでいない。

だが、何もしなければ確実に自分の好感度が上がり、ココアの好感度が下がる。


ヒロインタクトのハーレムルートを狙っているココアが、何故か、デイビー様のココアへの好感度の高さをそのままにしているのも不気味だ。

恐らくゲームオーバー回避のためだとは思うが油断はできない。


「まだ、多くのイベントが残っているし、手の内を見せたくはなかったけど。」

タクトは仕方なく掌を上に向けた。

「属性カード、沈黙。」

それを聞いたココアが、慌てて自分も手のひらを上に向けてカードを発動させようとしたが、それを許すタクトではない。

「発動対象は、俺以外の女子生徒全員、発動。」


発動対象を瞬時に唱えると、口に人差し指を当てたピエロの絵が現れ、カードが光る。

光ったカードが消えると今まで聞こえていた女子生徒たちのささやき声が一切聞こえなくなった。


「このカードは、発動中に対象者から声を奪い、口を開けなくする。

つまり、対象となったプレイヤーのカード発動も阻止できるカードのはずだ。」


プレイヤーも対象になるとは仕様にも説明書にも書かれていなかった。

そして、対象にならないとも書かれていなかった。

プレイヤーに対しての効果の有無は、タクトのテスターとしての経験による判断だった。


そして目論見通りカードの強制力で、声を出すどころか口を開くこともできなくなったココアはタクトに身振り手振りで訴えている。

ココアのひよこがココアを心配して周りを飛び回っている姿が哀れを誘う。


「その通り。

最初に俺が選んだのはこれ。

本当は、もっと、他のカードを手に入れた終盤で使おうと思ってだんだけど。

プレイヤーとしては手に入れたカードすべてが使えない状態って、かなり悔しいよね?」


ピンクのショートカットの小柄なヒロインタクトが、首をコテンと傾げて金髪巻き毛の悪役令嬢ココアに可愛らしい微笑みを向けている。

タクトのひよこ含めて十羽のひよこがタクトの可愛らしい笑みに引いている。

胸を押さえて悶えながら怒るココアを、自分を抑えていたヒューを押しのけた第二皇子が駆け寄ってきてささえた。


それを横目で見ながらタクトは言葉を続ける。

「図書館でやってはいけないことは、沢山あるよね?

大声を出す、騒ぐ、走る、飲食等々の迷惑行為。

もちろんペット持ち込み、も。」


「何を言ってるんですか?タクト、それは当然のことでしょう?

ところで、何故こんなに本が散らばることに?」

ロルフが乱れた茶色の髪を気にして、括っていた紐を解いた。

「何故って、そうだな、ひよこが遊んでいたせいかな?」

解いた紐で、整えた髪を括るロルフはタクトに怪訝な目を向けた。


「ほら、1号、2号、3号、4号、ココアのひよこと遊んできなよ。

もちろん、図書館全体を使っていいから、誘って好きに遊んで?」


「「「タクト!?」」」

ロルフ、ヒュー、エルは、肩に止まっていたひよこを集めて放り投げるタクトの姿に驚きを隠せない。

ココアとそれを支える第二皇子にひよこたちが集まると楽し気に会話をし出した模様だ。


ピッピー!

ぴよ?

ピッピープヨ、プぷぷぷ

「君たち、図書館では静かにするんだ。」

第二皇子がひよこたちに注意をすると、ココアも強く頷いてひよこたちを止めるべく手を伸ばそうとした。

しかし、第二皇子から体ごと抱きしめられているため、阻まれてうまく手が延ばせない。

野放しにされたひよこはさらに会話を続けた。

ピヨウ、ピウッピヨ

プピプピ、ピッピッ

ひとしきり騒いでコクコクと頷きあうと、数羽にずつに別れたひよこグループをつくり、一斉に羽を広げ好きな材質でできた本棚の周りを飛び始めた。

が、騒いでいても、9羽のふわふわモフモフのひよこたちが可愛らしく囀り合う姿は心癒されるわ、と、ココアはタクトに余裕の目を向けた。


ココアに見つめられたタクトが(愛嬌マックススマイルじゃないから大丈夫だろう)と思いつつ、再度微弱な笑みを返したがそれもココアの心臓を更に占めた。

「!」

再び悶えるココアに第二皇子は支えるだけでは足りないとばかりにお姫様抱っこに切り替えた。

「ココア、しっかりするんだ、保健室に連れて行ってやる。」

全力で首を振り、教室から出て行くことを真っ赤な顔で断固拒否するココアに第二皇子は途方に暮れているが、周りの生徒たちは違っていた。


お姫様抱っこされたココアを、声が出せない女子生徒たちが、読書中の本に隠れたり、本棚の隙間から覗いたりと、静かに尊く見守っており、男子生徒たちは悔し涙を見せる者もいるが、滅多に見られない公爵令嬢の真っ赤に動揺している顔を引き出した第二皇子に「いいね」を送っていた。


タクトは可愛い笑顔を張り付けたまま、さらに手のひらを上にして続けた。

「俺のターンはまだ終わってないかな。

属性カード、鏡像。」

手のひらに、鏡越しに自分を見ているような絵のカードが再び浮かび上がってきた。

「発動対象はこの教室のひよこたち、鏡像対象もひよこたち、発動。」


カードが光ると、ひよこたちが増えた。

頭に止まっていたタクトの5号も、ピッ!、ピッピッ!と数秒ごとに増えていく。

「こうするとどうなるか、興味あったんだよね、テストする機会があってよかった。」


教室にいるひよこは、全部で10羽。

10羽のひよこが20羽になった。

20羽のひよこが40羽になった。

40羽のひよこが80羽になった。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ・・・

「うん、やっぱりそうなるのか。

カード発動して光ってから消えるまでの数秒、それと同じ間隔で2倍されてる感じか。」

一人で納得しているタクトの頭上から溢れた5号と鏡像文字の5号たちがぽとぽと落ちだした。


「す、すぐ止めてください、タクト。

このままではすぐに地球がひよこだらけになります。」

ロルフは足元を埋めていくひよこたちを見て、震えながらタクトに懇願した。


「うん、そうなるよね、でも、最後まで見たいんだよね。

強制ログアウトでは済まないかも、強制終了で落ちるかな?」


「「「「やめてください!!!!」」」」


攻略対象だけではなく、ひよこに埋もれかけている生徒たちからも停止を望む悲鳴があがった。


「うん、でも、テストだから。」

周り中から悲痛のまなざしを受けてもヒロインタクトは全く動じない。

教室がほどほどにひよこで埋まったときに、タクトは沈黙カードを解除した。


「沈黙カード、終了、消費回数1。

このカード、2回しか使えないけど、仕方ないか。」

タクトの手のひらに、再度沈黙カードが現れ、カードに書いてあった数値が1減り、ピエロの絵が消え、白いカードに戻りそのまま消えていった。


「タクト様!卑怯ですわよ!何度もかわいいひよこたちを利用するなんて!

今すぐおやめなさい!!!」

沈黙が解かれたココアの第一声は、ひよこたち利用する狡さへの非難だった。


「仕方ないですね、ココア様。

ココア様がそこまで言うのならやめますね。」

あと、3回ほど倍増したら教室はいっぱいになるだろうタイミングでの停止の了承だった。


「鏡像カード、終了、消費回数1。

このカードの使用回数は、あと1回。

ストーリー1日目で、ここまで追い込まれるとは思わなかった、ココア相手に何を油断してたんだ、俺は。」

タクトは自嘲気味に消えていくカードを見つめた。


ロルフは唖然とタクトとココアのやりとりを見ていたが、ひよこが消えると我に返り、厳しい目でタクトを一瞥すると、お姫様抱っこされたまま肩で息をしているココアのもとに踵を返した。

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