002_二人モードの話
シキより少し丸めの黒縁メガネをかけたアオバは、ニコに呼ばれて諦めてため息をついた。
「はぁ、ニコさん、ココアさん、なんでついてくるんですか。」
窓際のテーブルから離れてゆっくりと六人と二人が囲むテーブルに近づいて行く。
近づいてくるアオバに小リボンチームの二人は、タイミングを合わせたかのように声を揃えた。
「「この間からゲームセンターでアオバさんと年上男性との目撃情報がある件について、お伺いしたいのですが。」」
アオバは頭痛がするとでもいいたげに片手で顔を半分をおさえるとカフェ入り口に方向転換をした。
皆が囲むテーブルの横を足早に通り過ぎようとしたが、その前に片手で押さえて見えなくなった進路の死角にヨウキが移動していたため、そのままぶつかり足を止めざるをえなくなった。
ぶつかった相手がヨウキだと気づくと、アオバはさらに大きなため息をついた。
「ヨウキさん、俺の進行方向にきて、わざとふさぎましたね。
ウザいです。」
「シキといい、アオバといい、そんなに俺ウザいかな?
二人とも、俺にだけ冷たく感じるんだけど。
ほら、アオバもせっかく呼ばれてるから、こっちに入って。」
ぶつかったはずみで一歩後ろに下がったアオバの肩を持つと、ヨウキはそのままテーブルの方に向けて押し、今まで自分がいた位置に割り込ませた。
「もうすぐ30になろうとしているのに、黒髪の一部を緑に染めて目立とうとしている人に優しくする必要はないかと。」
無理やりテーブルにつけられて不機嫌そうに返事をするアオバだったが、テーブル越しにタクトとトウリに挟まれた位置にいるシキに気がつき表情をやわらげた。
アオバの変わり様にヨウキが不満を漏らした。
「アオバにゲーセンでストーカーまがいのことしてたリーマンを撃退したの俺なんだけど。
シキとの扱いに差がありすぎないか?」
「そうですか?」
そんなこと頼んでないし、感謝でもしてほしいのかと言いたげな目を向けながら、自分の肩を掴むヨウキの手を払った。
チャナの後ろにいたココアと、トウリに再度ハグをしていたニコがヨウキを睨んだ。
「ちょっと、どういうこと?
リーマンとアオバの恋バナはなくなっちゃったの!?」
「邪魔しちゃだめじゃない!」
相変わらず小リボンチームの二人はタイミングを計ったかのようにテンポよく言葉を並べる。
声に籠る悲壮感まで同じトーンの高さだ。
「恋バナ?」って?
シキがタクトに顔を向けると、「恋の話の略」と教えてくれた。
アオバはさも迷惑だと言わんばかりに吐いた。
「恋バナとか無いです。」
「同じオフィスの仲間の憂いは取っておかないとね。
とりあえず、ゲームで俺に負けたらストーカー行為をやめるって条件で、ゲーセンのゲーム全部対戦しといた。」
アオバに払われてしまった手をそのまま前で組んで、ヨウキは得意げに首をかしげて見せた。
「それで全勝して追い払える、ヨウキがすごいよ。
ウザいけど。俺だったら無理。」
シキに嘆かれ、ヨウキはニッと得意げな顔を返した。
そんなやりとりを見ていたチャナが胸に抱いたパソコンをギュッと抱えなおして口を開く。
「ヨウキさんって、シキさん、アオバさん二人に対して態度が違うのよね。
他のメンバーより、親密度が高いというか、馴れ馴れしいというか、過保護っていうか。
うん、過保護。」
テーブルの上がいきなり静かになり、自分が皆から注目されていることに気がついたチャナは焦った。
「何?何?どうしたの?
私、何か変なこと言った?」
小リボンチームのココアが不思議に思いチャナに聞いた。
「チャナだって、ヨウキに可愛がられていると思うわよ?
企画のことをよく相談しに行って、ヨウキはまともに話聞いるし、アドバイスまでしてる。
チャナはいつも兄妹みたいな感じで揶揄われてるし。
私たちにはもっと冷たいわよ、この人。」
ココアの言葉を聞いても、チャナは疑わし気な顔をした。
「独特な方向性の発想を持つ、小リボンチームに俺のアイデアを出してもつまらなくなるだけだし。
あと俺は兄と弟はいるけど妹はいないから、兄妹のその距離感はわからないよ?」
「へぇ。ヨウキさんって弟もいるんだ。
末っ子の甘えっ子かと思った。」
チャナは、先ほどからパソコンを閉じられたり、「侍らせている」発言をバラされたりしたことの、仕返しのネタが何かないかと目を細めた。
ゴフッ
変な音がしたテーブルの正面斜め右側を見ると、シキが飲んでいた珈琲を吹き出している。
その隣にいたトウリは、すかさずズボンのポケットからハンカチを出してシキの口を吹いた。
アオバも後ろにいるヨウキを押しのけ、すぐさまシキの後ろによって声をかけながら胸ポケットからハンカチを出す。
「シキさん、大丈夫ですか?
俺のハンカチも使ってください。」
「ご、ごめん。
もうほとんど中身無かったから、たいしたこと無いから。
ほら、もう、空だし、二人ともごめん。」
シキはあたふたしながらトウリとアオバに誤っている。
「シキ、落ち着きなよ。」
慌てるシキを見かねたタクトがシキの肩を軽く数回たたきながらシキの顔を覗き込んだ。
その様子を頬杖をついて面白そうに見ているマシロに、ココアがため息をついている。
「そんなほのぼのと子どもたちを見るような優しげな顔してるけど、
今回の企画はマシロにしてやられたのよね。」
ココアは組んだ腕の右手を頬に当て、わざと更に大きなため息吐いた。
「ブレインリンクって基本的にプレイモード一人なのに、この人、二人モードの企画立ててきたのよ。」
チャナもそれに同意した。
「そ!そうなんです。
あれには感動しました。すごいです。
私はプレイモード一人と決めつけてしまって、そこを変更するなんてユニークな発想ができなかったのに。
マシロさんを師匠と呼びたいです。」
マシロは二人の視線に良い笑顔を返しながら、しれっと口を割った。
「今度は複数人で遊べるものを考えたんだけど、複数はまだ無理だけど二人モードなら、そのためのライブラリの作成可能だって、シキから言質とったから。」
チャナ、ココア、ニコの三人は、思わず叫んだ。
「「「シキさん?」」」
やっと落ち着いてきたシキだが、いきなり三人に名前を呼ばれてたことで、また動揺してし、空の紙コップを両手で持ったまま喋り出した。
「いや、この間マシロに聞かれたから。
聞かれて、ちょっと考えたら、脳からの信号をうけてそれを一旦解析して、シェアルームに送るようなことが可能かもと思って。
言語で使えるように、その構成を行うためのパッケージライブラリを作ったら、使えるかもって。
それで書いてみたら止まらなくなって、、、」
「さすがシキさん。
可能性を、ちょっと書いただけで現実にしてしまう。
あのライブラリは見事でした。」
アオバは目を細めてシキの後頭部を見ている。
「NPCは性格ごとのAIを付けるから、選択肢が限られてアルゴリズムも組めるけど、リアルな人間は選択肢は環境や成長過程や、持っている知識とかで変わるし予想不可だから、二人以上の解析はまだ難しい。
と、思う。
自己否定とか、自己肯定、承認欲求にも左右されて、選択に正解がないということを前提にしながら判断して返ってきた値をプログラムで判断できるように、、」
「ストップ。シキ。」
タクトがシキの口をふさいだ。
「「あら!
ずるいわ。
何ぜ止めるのよ。」」
ココアとニコがタクトを睨んだ。




