表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/71

018_食堂を出た後の話

「「「「「ココア様、麗しいです!!」」」」」


三人の令嬢だけではなく、先ほどココアの椅子を引いた給仕も含めて、食堂のあちこちからココアを称賛する声が上がった。


「では皆さまご機嫌よう。」

妖艶な笑みを浮かべて立ち去るココアの後を、三人の令嬢が追いかけ、その後を日向ぼっこをしていたひよこたちが慌てて追いかけて行った。


タクトのひよこたちも日向ぼっこから帰ってきて、ふわふわの羽でタクトに頬ずりをする。

「断定してしまうのは、多種多様な悪役令嬢の皆様に失礼な気がしなくもないけど。」

ひよこたちの頬ずりをくすぐったげに受けながら、食堂で上がった声の振動で丼から転がり落ちてしまった箸を拾い丼の上に戻していると、ココアの姿が見えなくなって落ち着きを取り戻した給仕たちが、ココアたちが立ち去った後のテーブルの上の食器を片付け始めた。


食堂を出たココアたちは、1年生と2年生の校舎の間にある中庭に向かっていた。

「あんな失礼な田舎娘のことをお許しになるなんて、優しすぎますわ、ココア様」

ココアの左後ろ横を歩いている令嬢はかなり立腹している。


「ふふふふふ、ちょっと腹黒いところが足りませんけど、あなた方は私の理想の取り巻きですわ。」


「そんな、ココア様の側にお仕えできて、私たちはとても幸せですわ。」


「あら、あんなところに、、、、」

中庭には幾つかのベンチがあり、花壇にはピンクや紫の春の花が咲き誇っている。

ココアは校舎沿いに咲く芝桜の中に足を踏み入れると、花の下に隠れていたカードを手に取った。


「あら、天使(エンジェル)カードだわ。」

ココアが手にしたカードには、水色のグラデーションがかった羽をふわりと広げた可愛らしくも美しい、天使の絵が描かれていた。


「一番手に入れたいのは、魅了カードですけれど、でも、これはこれでとてもいいカードですわ。

私がこれを手にしたということは、悪魔(デビル )カードがタクト様のところに現れているのね。」

カードを口元にあて、ふふっと息を漏らすココアを令嬢たちはうっとりと眺めている。

花壇に入ったことを誰も咎めない。


「さぁ、皆さん、教室に戻りましょうか。

タクト様のために嫌がらせイベントの準備でもしましょう。」

三人の令嬢を振り返ると、片足で土を蹴って小さく飛び越えながら花壇から下りた。


「まぁ、イベントですの?」

「さすがココア様。」

「参りましょう。」


黒く笑うココアと、それとは真逆の可愛らしく爽やかな笑顔の三人の令嬢は楽し気に連れ添って教室に向かった。


昼休みも残り少なくなり、食堂から人が減っていく中、タクトも教室に戻ろうと席を立つと、いきなり目の前にうすぼんやりと白く光りを放つ白いカードが現れた。

「・・・これは、もしかしなくてもあれだな。

どっちのカードだ?」

タクトが白いカードを手に取るとカードにイメージが現れてきた。

「ココアは、天使(エンジェル )カードを手に入れたのか。」

タクトが手にしたカードには、灰色のグラデーションがかった羽を広げた悍ましくも美しい、悪魔の絵が描かれていた。

カードはタクトの手の中に吸い込まれた。


カードの仕様を考えてて物思いにふけっていると、大きな足音をドカドカと立てながら筋肉逞しい男性が食堂に入ってきた。


男性は食堂の中をきょろきょろと見まわしていたが、

「転校生はいるか!

お、ピンク頭、お前だな。」

タクトを見て大きなだみ声で叫び、再度ドカドカと足音を立てながら近づいてきたので、残っている生徒たちの注目を集めてしまった。


ヒロインを見下ろす男性の筋肉質な体は、毎日バーベルを1000回くらいは持ち上げていそうな体形をしている。

本当の少女だったらこんな男にいきなり近づかれては恐怖を覚えるだろう。

だが、タクトはヒロインらしく笑顔で対応した。

「はい、私です。

今日転校してきました。」

ヒロインにスマイルに男は(色が黒くて分かりにくいが)頬を染めて手に持っていた教科書を差し出した。


「?」


「おい、さっさと受け取れ。

午後の授業の教科書だ。」

男性は照れているのか、目をそらして、教科書を不思議そうに見ていたタクトの前にさらにづけた。


「え、あ、はい。

このマッチョ男は、確か、罰ゲームのときとかでに出てくる先生だよな?

また、ゲーム直前に何か入れ込んだのか。」

タクトは目の前に差し出された教科書を受け取り、何が発生するか警戒しながらじりじりと後退した。

その警戒心を悟ったひよこたちも額に汗をかきながら、羽を前後させ器用に後退して見せた。


「なんだ?

俺の筋肉に見惚れているのか?

そんな遠慮しなくても、触るくらいは許してやるぞ。」

男性は、タクトの行動に照れていると勘違いしたようだ。


「いえ、イベントに関係のないことには極力時間を割きたくないだけです。

ココアなら喜んで触るかも知れないので、そちらにどうぞ。

とりあえず、罰ゲームもミニゲームも俺の担当じゃ無いので。」

キッパリと否定すると、回れ右をして校舎側とは反対の出入り口からさっさと逃げ出した。


「さっさとイベントをクリアし、いや、失敗させて終わりたい。」

タクトは指折り残りのイベントを数えだした。


「悪役令嬢からヒロインへの嫌がらせイベントを最低2回発生させないといけない。

あとは個人イベントカードは人数分だから、3回発生。

階段落ちイベントを1回発生させて、からの断罪イベントだな。

最短発生としても、あと6回か、、、。」


嫌がらせイベントは、悪役令嬢が取り巻き令嬢を使って、教科書や文房具、下駄箱の靴などをめちゃくちゃにしたり、壊したり、焼却炉に捨てたりするイベントだ。

好感度を上げたければ、ヒロインが攻略対象者に嫌がらせされていることを匂わせておく、重要なのははっきり言うことではなく、匂わせておくことだ。

その前振りから、他嫌がらせイベントを更に発生させると、階段から落とされるイベントの発生条件がクリアされ、そのイベント内で初めて様々な嫌がらせを受けてきたことを恐怖で震えながら告白するのだ。


悪役令嬢に階段から突き落とされたあと、保健室で駆けつけてきた攻略対象者全員に今までの嫌がらせを告白することで、悪役令嬢の好感度が急降下し、ヒロインが急上昇する。

だから、普通は、悪役令嬢側のプレイヤーはざまぁ返しするために、何とかヒロインが嫌がらせを自作自演したという証拠を揃えるものだが。


「ココアは嬉々として、確実に証拠を残しながら嫌がらせを行うだろうな。

その証拠を潰すか、先回りして自作自演するためには。」

タクトが教科書を抱えながら奇麗に刈られた芝生の上を歩いていると、前方に午前中に別れた水色の瞳をしたエルが歩いていた。


「そういえば、あいつの俺への好感度150%だった。

振り切れたままなんだよね。」


エルもタクトに気がついたらしく、手を振って小走りで近寄ってきた。

「タクトさん、どちらに行かれるんですか?

あ、教科書重そうですね、お持ちしますよ。」

水色のさらさらの髪に透きとおった水色の瞳、同じくらいの身長で中性的なエルガ教科書に手を伸ばした。

「有難う。

半分持ってもらえると助かる。」

実際には重さはさほど感じていない、ゲーム内であるプレイヤーが感じる荷重は制限されているからだ。

先ほどのマッチョ男も片手で持てるだろう、持とうとは思わないけど。


「はい、半分こしましょう!」

教科書に手を伸ばして半分より少し多めに取ったエルは、可愛らしい笑みを向ける。

その可愛らしい笑みにタクトは一瞬、クラッとしてあらぬことを思ってしまった。

「いっそ、エルを攻略しようか。

そしたら、ココアの狙うハーレムルートは潰せるよな?」


教科書を胸に抱えたエルは、タクトのつぶやきを聞いて頬を染めた。

「ハムを作るために潰すものですか?

タクトさんは、可愛らしいのに豪快でもあるんですね。」


「危ない、さすが攻略対象の1人。

プレイヤーへの魅了機能を効率的に出してきている上に、ストーリー展開に支障をきたす言葉が制限されているから、自分の都合のいいように解釈して、勝手に好感度を上げてくる。

それに、ココアがどんな手に出るのか分からないのに安易な考えはやめておこう。

やっぱり、当初の計画通りに追放一択だな。」

最終目的を冷静に思い直すと、エルに教科書の訳を説明した。


「食堂に来たマッチョ先生から教科書を受け取った後に、飛び出してきたんですね。

納得です。

マッチョ先生、すぐ体を見せたがるから、ポーズごとにかける言葉を変えないといけないし、大変ですものね。」


エルのあまりの可愛らしさに、タクトは周りを見渡して警戒を強めた。

エルの個人イベントカード発生の条件は、確か中庭にある園芸部の花壇付近で発生するはずなので、今この場での発生はないはずだ。

「午前中にイベントが立て続けに2回もあったんだ。

さすがに、1日で3回ってことはないよな?」


ちなみに、ヒューは体育館、ロルフは図書館だ。

どちらの発生も考えられない。


隣を歩くエルは、頬を染めて照れながら可愛らしく笑う。

「タクトさんの桃色の髪は僕の水色の髪と対のようですね。

ははは、突然すぎましたか?すみません。」


「ははははは、気にしないで、そんなことないから。」

無に近い表情で一緒に笑うタクトだが、何かのフラグを立てたような気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ