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016_ログアウト中の話

ソファに横になってゲームに入っていたタクトだったが、目を瞑っている感覚と、パソコンから聞こえるシステム音でログアウトされたことを認識した。


「キーの<ログアウト>を口にしていない以上、強制ログアウトだよな?」

タクトが瞼にかけていたスコープをあげると、

「その通りだ。」

このゲームのヘルプ機能付きのキャラクターであるホワイトタイガーが、自分の周りをフヨフヨと浮きながら歩き回っていた。

ホログラム機能を備えたパソコンといくつかの小さなプロジェクターを組み合わせることで、指定した範囲をキャラクターが自由に動き回ることができるようになっている。

AIキャラクターの位置と動きと声、そこに温度をつけて瞬時に反映する優れモノだ。


「以前のゲームリリース時には、ディスプレイの中を右往左往させることしかできなかったキャラクターだったけど。」

自分の周りを長い尻尾を鞭のように振りながら、短い脚で二足歩行するホワイトタイガーに感心しつつ、

「やっぱり技術の進化、AI、グラフィック、ソフトウェア、システム、ハード設計もろもろに対応した、バージョンアップのグレードも目覚ましい。」

頭からヘッドセットをはずして眺めると、その技術に感嘆した。


そのままソファから起き上がり、テーブルの上のパソコンを見たがディスプレイに表示されていたのはシステムエラーの表示だけだった。

「何でログアウトされたんだ?」


周りを歩いていたホワイトタイガーは、パソコンに向かうタクトの目の先に割り込み、

「強制ログアウトされたようだな。

訳の分からんエラーより、今のお前の攻略対象者からの好感度を知りたくないか?」

10cm程度のぬいぐるみのようなホワイトタイガーが、黒いつぶらな瞳でひげをピクピクさせて質問を待っている。


「訳の分からんエラーを潰すためのテストなんだが。」

タクトはホワイトタイガーをスルーしてノートパソコンに手を伸ばした。


「パソコンのステータス見ればアップダウンがグラフ化されていて、時系列で一目でわかるから。」

ノートパソコンを膝に乗せたタクトの手の上に俺様だったホワイトタイガーがちょこんと座ってさらに黒い瞳を潤ませながら見つめらてしまった。

「、、、じゃあ、教えてくれ。」

タクトはつぶらな瞳に負けてしまった。

しかも、重さは感じないがキャラクターの種類によってホログラム内が温度調整もされているため、尚更抗いがたい。


「よし、じゃあ、教えてやろう。」

ホワイトタイガーが二本足を大股に開き偉そうに立ち上がった。


現金な奴だなと思っているタクトの手から目の高さまで飛び上がると、前足を大きく振って、短い後ろ足をせい一杯に広げながら大股で歩き出した。

「現在の攻略対象者からの好感度!

じゃじゃーん!

デイビー、60%、ロルフ、80%、ヒュー80%、そしてエル、150%だ。」


自分で効果音を入れたり、元気に歩き回る姿は、ネコとネズミがよく追いかけっこや喧嘩をしている某アニメのネズミのようだ。


「思ったより、好感度は下がってないか。

それにしても、、、エルの150%って、やっぱり初期イベントでは好感度が100%を振り切ってたか。

ヒロインの値の設定、おかしいよな?」


「ふん、俺様はその質問についての正答は持ち合わせてない!」

ホワイトタイガーは目をパチパチさせながら答えた。


「AIなのに?」

意外に思い聞くが、その質問にホワイトタイガーは胸を張った。


「AIでも、俺は俺だ。

より俺らしくなるために、分からないことは分からないと言うようにした!

そしてバージョンアップのほとんどを可愛さに振り分けた。

どうだぁ?愛嬌たっぷりになってるだろ?」


「はは、本当に、これじゃ、邪険に扱えない、な。」

タクトは膝に乗せたパソコンに表示されていたシステムエラーの OK ボタンを押した。


そのまま、パソコン画面を見ていると、ピコンッとシステム音が鳴りテキストのメッセージが届いた。


ーーーーー


ログに rec end と表示されたことに気がついたアオバは、後ろにいるシキの背中に声をかけた。

「シキさん、個人イベントカードのイベントが終了したようです。

録画機能が停止されました。」


「そうか、今度も想定時間より早いな。」


「ログを見ると、好感度が逆転したようです。

該当の攻略対象者の好感度が90%、他二人は70%、その場にいなかった攻略対象者は0%、それぞれ好感度がマイナスになっています。

100%振り切った状態からかなりダウンしてますね、ヒロインの好感度。」


「何故だ?ココアは何をしたんだ?

そんな大逆転できるようなイベントではなかったと思うけど。

タクト、大丈夫かな。」


やったのはタクトさんの方ですが、とは言わずにストーリーの時系列ログに表示された処理を見ていたアオバは、プレイヤーのログアウトが発生したことに気がついた。


「プレイヤーが一人、ログアウトしました。

タクトさんのIDですね。」


シキは椅子を回転させてアオバの隣に並びながら、アオバが指を向けているログに近づいた。

「そうなのか、、、、ちょっと待ってくれ、これ直前がおかしいようだ。」


「そうですね。

ログアウト直前に不明な値が発生して、ログアウト、この内容からして強制的なログアウトのように思えますね。」


シキは椅子の背もたれを背でグイと押して倒すと、両目から鼻にかけてを指でグッと押さえ、息を大きく吐いた。

「はぁ、、、強制的なログアウトか。

ということはプレイヤーが一人取り残された状態で、落ちはしなかったんだ。」


気を取り直したシキが隣のアオバを見ると、うーん、と小さな声をだしてログを指で追っていた。

「はい、相手プレイヤーにはシステムからメッセージが発信されていますので、特に問題は見受けられません。

その場に残っている状態です。」

ココアさんのことだから適当にやっているんだろうとは思うが、それは敢えて伝えない。


「不明な値を受け取ったときはコマンドを終了して、直前の動作に戻す処理を行っているはずだけど、そうなっていないということか。

プレイヤーをゲーム外にまで戻してどうするんだ。

単純ミスのような気はするな。」


「恐らく、処理の抜けの可能性が高いと俺も思います。

ルール化した設計はチェックツールを使って、関数チェックしてますけどエラーが多いとそれも見逃してしまいますし。

分類して出すようにはしているんですが、潰し切れていないみたいです。」

頭を並べてディスプレイに向かう二人のメガネには、同じようにログの流れる処理が映っている。


「わかった。

このバグの修正はするとして、プログラムの方はこんな単純ミスを見逃さないように、チェックツールにもう少し詳細を出すよう修正してみる。」


「有難うございます。

すぐに改良すると言えるシキさん、さすがです。」


「けど今は、とりあえず、ログアウトしたタクトに連絡してみる。」


ーーーーー


シキがタクトに通話許可のメッセージを送るとすぐにタクトから通話連絡がきた。


「強制的なログアウトの原因はわかったのか?」

ゲーム終了後にシキからすぐに連絡がくるのはいつものことであるため、タクトは間髪入れずに通話アイコンを押していた。


「すまない、タクト。

ログからじゃ分からなかったから、状況を教えてほしい。

例えば、ログアウト直前の状況とか。」


「そうか、直前でいえば、ココア側の令嬢たちが「何かがあがっているような気が」するとか、何とか言ってたかな。」


「あがる?三人とも?」


「そうだな、ココアはそう言ってなかったと思うけど、見るからに萌えがあがっていた、かな。」

タクトは金髪巻き毛の公爵令嬢が、百合の花の幻想を見ていた様子を思い出した。


スピーカーから聞こえるタクトの声とシキの会話を聞いていたアオバが、シキの肩をトントンと人差し指で押した。


「どうした?」


「これ、多分強制ログアウトの情報だと思います。」

アオバはシキが使用していたマウスを借りると、通話アプリとは別のディスプレイにいくつかのログ結果を表示させた。


「タクトちょっと待ってくれ、アオバが何か見つけたみたいだ。」

「了解。」


シキは通話をそのままにして、ログを見た。

「ヒロインに対しての令嬢たちの好感度としての値がココアのキャラ含めて出力されている。」


「そうです。

同性間、または、プレイヤー間の好感度は処理対象じゃありません。

同性同士では、この値は存在しないという前提で、考慮していなかったみたいです。」


「ああ、わかった。

同性間、か、プレイヤー間で発生した好感度が原因か。

本来なら、プレイヤーが男性だったときに発生して処理すべき値が、プレイヤーが女性だったために不明な値となったようだ。

タクト、聞こえてたか?」


「聞いてた。

ヒロイン側の好感度計算処理が、すでに男性側の攻略対象者からの値で完了している。

のに、考慮されていない値で同じく処理しようとして、矛盾が発生して強制退場させられたって感じか。」


「そのようだな。」


「その処理はそうですが、令嬢たちの好感度をどうやって上げたのかも気になりますね。

本来なら、ヒロインへの好感度はマイナスを維持するはずです。

タクトさん、リアルでも優しさスマイル得意だし、ゲーム内ではヒロインの愛嬌マックススマイルでも行いましたか?」


「リアルで優しさスマイルが得意って、どういう意味か分からないが、愛嬌マックススマイルは、そういえば、令嬢に向けたかな。」


「愛嬌マックススマイルは、冗談だったんですが。」


「「アオバが冗談を言った。。。。。」」

スピーカー越しにタクトが、そして隣のシキまでも呆気にとられた。


「仕事に戻ります。」

無表情になったアオバはシキの後ろの自席に戻り、ディスプレイに表示され続けている、ココアのログを追うことにした。


「ココアさん、ログアウトしてませんね。」

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