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015_ヒロインログアウトの話

「あら、私としたことが、デイビー様のあまりの美しさに我を忘れておりましたわ。」

三人の令嬢に抱き着かれ、1匹の黒い鳥の魔法生物+偽黒い鳥四匹に髪を乱され、引っ張られながらも、ココアは笑みを崩さなかった。


微笑み頬を染めるココアを見て三人の令嬢はココアからそっと離れた。

「私たち、これ以上ココア様とデイビー様のお邪魔になってはいけないわ。」

「ココア様が逞しくてつい甘えてしまいましたけど、怖くてもご遠慮しなければ。」

「そうですわね。

本当なら私たちがココア様をお守りしなければいけないのに」

二人の伯爵令嬢と、一人の侯爵令嬢が自分たちの頭上を旋回する黒い鳥が怖くて目が離せない状態にもかかわらず必死で離れた。


令嬢たちがココアから離れると第二皇子は、ヒューとロルフに令嬢たちを守るように目配せをした。

その意図をすぐに読み取った二人は素早く、令嬢を庇い、

「「あなた方は我々がお守りします。」」

黒い鳥を追い払ったのだが、結局はココアの金の巻き毛に戻って行っただけだった。


「「「ココア様」」」


「しかし、この黒い鳥たちはココアの金のひよこや私の髪に見向きをせず、何故ココアの髪だけにこんなに固執しているのか。」

第二皇子はココアの肩を抱くと、鳥たちをシッシッと手で追い払った。


キエ、キエー

一匹の黒い鳥が、教師に向かい大きい鳴き声を上げた。


「ああ、闇属性を持ったご令嬢の金の縦ロールが尊いんだって言ってるんだね?

だが、いい加減にこの籠の中に戻ってくれないか?

授業が始められない。」


黒い教師には本物の黒い鳥の見分けがつくらしく、嘴で金の巻き毛を引っ張っていた鳥に向かって鳥籠の扉を開けた。


「あの密着具合なら、十分ココアへの好感度も上がっているよな。

イベントが終了する前にカードを終了させておこう。

鏡像カード、終了、消費回数1」

教師の後ろにいるタクトの手のひらに、再度鏡越しに自分を見ているような絵が描かれているカードが乗っていた。

カードに書いてあった数値が1減り、絵が消え、白いカードに戻りそのまま消えていった。


ココアの周りにいた偽の黒い鳥は黄色いモフモフのひよこに戻り、金色に光っているココアのひよこは急な変身解除に驚いていた。


ぴっぴっぴっぷー(びっくりー、きみたちだったんだ)

ぴぴぴ?ぴぴ?(びっくりした?おどろいた?)

ピピピ、ピピー!(タクトすっごーい)

「とでも言っていそうだな。」

黒い教師のように、直訳はできないがひよこたちが言っていることが何となくわかるような気がするタクト。


第二皇子が周りのひよこの様子に目を丸くしていると、本物の黒い鳥がこれで独り占めできるとばかりに、教師のことをスルーして、ココアの背中と巻毛の間に頭を突っ込んだ。

「ひぇ!」

ココアがあらぬ声を出すと、第二皇子が黒い鳥の両足を鷲掴みにし、光属性の呪文を唱えながら反対の手に光の籠を一瞬にして作り出すとその中に放り込んだ。

ギュッ、ピカッ、ドカッ!、ガチャン!

あっという間の出来事に、鳥自身も何が起きたのか分からず呆然としているうちに、その扉は乱暴に閉じられてしまっていた。


「光物がそんなに好きなら当分その籠の中にいると良い。」

第二皇子は額に青筋のような何やらを浮かべながらも、皇子スマイルを崩さず、教師に眩しさに目を眩ませている黒い鳥の入った光の籠を渡した。


「デイビー様の怒った笑顔も素敵です。

でもそれはタクトに向けるべき笑顔ですわ!」


ココアは、教壇に戻る教師を見送っているタクトに鋭い視線を向けた。


「タクト様、鏡像カードをお持ちだなんて、運が良すぎますわよ。

それとも、選択カードなのかしら?」


「どうでしょう?」

タクトが流し目でココアを見た後、そのままひよこたちに視線を移したのをココアは目で追ってしまった。


ピピピピピ、ピプ、ぴっぴー(ココアのほうがすっごーいんだから)

ぴーぴぴぴ、ぴぴぴぴぴ(カードつかってくれてないじゃん、タクトのほうがすごいよ)

「とでも言っているのかしら?」

ひよこたちの言葉を何となく察したココアが眉を下げた。


ココアのひよこVSタクトのひよこで、何やら言い合いが始まってしまったようだ。


「あら、あなたたち、補助キャラ同士で喧嘩はだめよ。

どちらがすごいかなんて、ニコが一番すごいに決まっているでしょ?」


ピピ、ピーピピピッピ、ピピ、ぴぃぴ


何やらココアの言葉に納得したらしくひよこたちはそれぞれが補助するプレイヤーの頭や肩に戻って行った。


「ココア、本当にかわいい動物たちが好きなんだね。

でも、その子たちに乱された髪のままでは、君の美しさが台無しだから髪を整えてもらいにいこう。

私が付き添うよ。」


「いえ、結構ですわ。」

ツンッと横を向くココアに今までとは違う眼差しを向けて、第二皇子ははにかむように笑った。

その背景には黄色のバラが咲き誇っている。


教壇の上で黒い鳥かごの下敷きになっていたはずの個人イベントカードが、デイビーの後ろに浮かんでそのまま咲き誇った黄色いバラと一緒に消えて行った。


「イベント終了。

デイビー様のはにかむ笑顔、個人イベントカードと同じ笑顔をココアがゲットしたな。」

攻略対象からの好感度がどこまで変化したのかはここではわからないが、確実にココアが上昇し、タクトが下降したはずだ。


「ココア様、御髪を整えてきてくださいませ。」

「こんな田舎令嬢など、気にする必要はございませんわ。」

ヒューとロルフの間から戻ってきた伯爵令嬢二人がヒロインであるタクトを睨んでいる。


「そうですよね。

俺なんかを気にする必要はありませんよね。」


タクトは必殺のヒロインス(愛嬌マックス)スマイルで、二人の伯爵令嬢の片手を一緒にとると胸の前で握りしめた。

「「な、何をしますの!」」

先ほどまでタクトに睨みを利かせていた伯爵令嬢たちは、狼狽してほほを染めている。


「お二人の気持ちよくわかります。

可愛らしいあなた方を気に病ませて本当に申し訳なく思っているんです。」

スレンダーな胸の前で、可愛らしい手が自分の手をギュッと握っている。

申し訳なさげにまつげを伏せたあと、上目遣いに自分たちを伺いみてくるヒロインに頬の赤みは倍増してきたように感じる。

「どうしましょう、何か、何かがあがっているような気がしますわ。」

「どうしましょう、私もですわ。」


ギャン!

第二皇子に背を押されて階段を下りかけていたココアだが、音がする勢いでタクトと伯爵令嬢たちが手を取り合っている姿を振り返るとそのまま凝視しはじめた。

「ゆ、百合の花が見えますわ。

しかも桜色のユリの花ですわ。」


「本当に、尊いですわ」

ココアの後ろに付き添っていた侯爵令嬢も口を押さえてフルフルしている。


「あら、なんだか私も何かがあがってきたような気がしますわ。」


「?」

タクトは、引き戻されるような感覚を受けた。


ココアの目の前に白い薄透明のパネルが表示され<ヒロイン:ログアウト>の文字が浮かんできた。


「ログアウト?」

パネルには続けて文字が浮かぶ。


<相手プレイヤーがログアウトしたため、すべてのイベントは停止します。>

<プレイヤーが二人揃うまで好感度のアップダウン及びカード発生・発動も停止状態となります。>

<ゲームを続けることは可能です。学園生活をお楽しみください。>


「あら?」


「皆さん、席に戻ってください。

授業を始めますよ。」

教壇に戻った教師が、教室のあちこちに避難していた生徒たちに向かって声をかけている。


ピンク色のショートカットの少女が、伯爵令嬢たちにべコリと頭を下げた後、第二皇子とココアに近づいてきた。

その周りからは補助キャラであるひよこが消えている。

「ココア様、デイビー様、先ほどはごめんなさい。

わざとじゃなかったんです。」


「分かってるさ、大丈夫、誤解なんかしてないから。

転校初日の1限目から大変だったね。

私はココアに付き添っていくから、ロルフと一緒に授業をしっかり受けて欲しい。」


プレイヤー不在のため、ヒロインがAIヒロインに変わっていた。


「せっかくいいところだったのに、テスターの辛いところよね。

でも、今のとこで何があったかしら?

何が原因かわからないわね。

どうせ今頃シキがタクトに根掘り葉掘り聞いて、バグ特定してるのでしょうけど。」


ココアはため息をつくと、第二皇子にエスコートされて教室を後にした。

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