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010_小イベント回避の話

「あら、被りましたわね。」

ココアは広げていた扇をパタンと閉じて口元にあてた。


タクトは自分の肩に置かれている第二皇子の手を払いのけ、反対の肩にいるひよこの小さな背中を一指し指でさすった。


「被っていると背中の名前を見ないと自分のか相手のか分からないな。」

嬉しそうに羽をパタパタさせ頬にすり寄るひよこの背中には、5号の文字が浮き上がっている。


「まぁ、ここでは、わたくしのひよことタクトのひよことノラひよこがいることになるのね。

素敵だわ。」

閉じた扇では隠し切れない口元と、その瞳が意味深に弧を描いている。

タクトはその意味深な表情を訝しげに思い、その思惑を考えすぎて鼻にしわが寄るほど目を細めていた。

自分の補助キャラの背中には自分がつけた名前が浮かんで見えるが、相手プレイヤーがつけた名前は見ることができない。

野良にはそもそも名前がつけられていないので、自分の補助キャラ以外の見分けはつかない。

それが素敵だという根拠が理解できないし、妖しすぎて恐ろしい。


そこに、第二皇子が再び訝しげな顔をしたタクトの前に立ち、ココアの間に割り込んできた。

「ああ、まだ私たちの自己紹介をしていなかったから分からないのも当然だ。」


わからない、という言葉をメインにして文章変換され、攻略対象に自分たちのことを知りたいという意図にとらえられたらしい。


「私は、この学園で生徒会長を務める、デイビーという。

君と同じ2年生だ。

デイビーと呼んでくれ。」

その皇子の周りにエル、ヒュー、ロルフが回り込み同じように挨拶をしてきた。


「私は、ロルフです。

ロルフと呼んでいただいて結構ですよ。

生徒会では副会長として、デイビー様の補佐を行っています。」

銀縁のメガネをスッと中指であげると、すました顔のまま礼をした。


「俺は、ヒューだ。

同じく生徒会に入っているが、特に役職はない。

皇子の護衛兼雑用だな。

ヒューと呼んでくれよな。

よろしくな!」

片手で額にかかっている赤い髪を上にかきあげながら、ウィンクをしている。


「僕は、エルです。

エルと呼んでください。

1年生で、生徒会では書記をしています。」

ペコっと頭を下げると頬を染めて、水色の大きな瞳を緩ませて可愛らしい笑顔を振りまいている。


「・・・皆様、よろしく。」

無表情になったタクトが挨拶を返すと、皇子以外の三人がさっと後ろを振り向き眼光鋭くココアを睨んだ。

ココア以外の三人の令嬢が三人の眼光に怯んで二歩、三歩、後ずさりをしている。


「ふふふ、言語矯正カードは、発動対象者、つまりタクト(ヒロイン)の言葉を攻略対象者の好感度がアップする言葉に変換。

そしてライバル、つまり私こと悪役令嬢の言葉は好感度がダウンする言葉に変換するのよ。」


「知ってる。

コンテンツカードの種類や属性やその発動内容はすべて叩き込んできたから。」


第二皇子であるデイビーは、さらに眼光を鋭くさせてココアを睨む三人に向かって頷くと、タクトの右手を取り、そのままエスコートをして歩き出した。

「眼光鋭く令嬢を睨む三人の男子生徒と、それを更に煽って横を通り過ぎる皇子。

カードを使用されて仕方ないとはいえ、ヒロインとの態度の差があからさまだ。

攻略対象ってある意味デフォルトで二重人格、爽やかなさっきの笑顔はどこに行ったんだ。」

仕方なくエスコートに応じて一緒に歩きだすタクトは、つい、ぼやいてしまった。


「大丈夫です。

可憐で爽やかなあなたの笑顔が消えるようなことは私たちが許しません。」

エスコートのために第二皇子の手に添えていたタクトの手に、さらに自分の手を置いた皇子は憐憫な笑みを浮かべた。


「「「その通りです(だ)(ですよ)」」」

校舎に向かう二人の後ろにロルフ、ヒュー、エルの三人が続いた。

「うわぁ、俺の好感度どれだけ上がってるんだ?

今の言葉が、こいつらの中でどんな言葉に変換されたのか、予想がつくな。」


「お礼なんていいんですよ、さぁ、校舎に入りましょう。」


「・・・」

これ以上好感度を上げたくないタクトは、校舎に入ればイベントが終了することを知っているため口を閉じることにした。

初回イベントは、プレイヤーの好感度が上がって攻略対象者全員が校舎に入れば終了となる。

プレイヤーの好感度が上がるのは一人でも二人共でも問題は無い。

ただ、二人とも下がると、これからのイベントカードの発生率が低くなるので要注意だ。


すれ違いざまにココアを見ると、言語矯正属性カードとは別に、ハート形のピンクのカードを持っている。


「それ!」

思わず足を止めてカードを指さす。


「どうしたのですか?」

後ろを歩いていた三人だが、皇子の反対側にヒューが並び、後の二人がその前にきてタクトを囲んだ。


「いいわね。

とてもいい感じだわ。」

四人に囲まれて逃げ場がないタクトを眺め、扇を音を立てて閉じるとピンクのハートのカードを頭上高くあげた。

「桜の花びらの中にこの小イベントカードカードが舞っていたのを見つけたとき、とても興奮したわ。

小イベントカードながら、好感度爆上げの卑怯なカード、今使わせてもらうわ。」

不敵に笑うココアの巻きロールの中から4羽のひよこが飛び足すと、ココアと後ろに並ぶ取り巻き令嬢の四人の周りだけ強風が吹き始めた。

後ろでスカートや髪を抑える三人の令嬢をよそに、金の巻き毛だけを風に舞い踊らせているココアは見事な悪役令嬢となっている。


絶対に演技じゃないし、勝つ気もない、いや、ある意味ヒロインをウィンさせることが、ココアにとって価値のある勝ちだろう。

四人に囲まれたままそこから逃げられないと判断したタクトは、軽く腕組みをして、足を前後に一歩ずらして揃えると、姿勢をよくして足に力を入れた。


「小イベントカード、ラッキースケベを発動しますわ。

対象はもちろんタクト(ヒロイン)です。」

ココアが唱えると、ココアたちの周りの強風から小さなつむじ風が4つ発生し、タクトと4人の攻略対象者の周りを回り出した。


「小イベントカードの正式名称を言わなくても発動するんだな。」

本来の名称は違うのだが、自分の使いたい熱意が伝わればいいらしい。


「これはなんだ。

いきなりつむじ風が。」


1つは、第二皇子とヒューの間を抜け、1つはロルフとエルの間を抜けて、つむじ風はタクトの周りを2、3周すると中心にいるタクトのスカートを翻しはじめた。


「えっ」 デイビー

「!」 ロルフ

「おっ」 ヒュー

「わっ」 エル


まくれ上がったスカートにそれぞれが驚きの声をあげているが、中央にいるタクトの方は組んだ腕をそのままにして足に力を入れて真っ直ぐに立ったままである。


金のボタンが4つ付いた白いブレザーが共通の制服だが、下に履くものは各々カスタマイズされている。

タクトのスカートには、ブレザーと同じ金のボタンが右よりに縦並びに1列に4つ付いているが、一番上のボタンだけを留めていて残りのボタンは前についているだけのダミーのかざりである。

一番上に留められた金ボタンから、スカートの布が左右に大きく開きつむじ風と一緒にヒラヒラと上下にはためいている。

しかし、風にはためいているスカートの下にはスカート丈より短めの白い短パンが見えていた。


「コホン」 デイビー

「・・・」 ロルフ

「えー。。。」 ヒュー

「ふう」 エル


攻略対象者たちは、上を見たり、目を瞑ったり、タクトの顔を見たり、下を向いたりとしているが、がっかりした内心は隠せていない。


「ふっ、この学園は下に履くものはカスタマイズ可能だ。

だからスカンツにしておいたんだ。」


エルとロルフがタクトに近づき、乱れた髪を整えてくれた。

「ああ、びっくりしたんですね、大丈夫ですか?

そういえばまだお名前を聞いていませんでしたね。」


ロルフは一つに束ねていた紐を解き、自身の乱れた髪を整えるとまた髪を束ねた。

更に赤みがさした頬を両手で擦りながら、エルも僕も知りたいと言いたげな目を向けてきた。


「タクト」

一切余計なことは言わずに名前だけを口にしたのは、ココアの手元のカードがまだ有効であるのを確認したからである。


「まぁ。対策済みなんて、なんて無粋なんでしょう。

せっかくのカードが、、、使うのが早かったようね。」


ココアの言葉に、エルが怒って振り返った。


「ココア様が何かされたんですね?

魔法を感じませんでしたが、あなたの仕業であることは分かっています。」


ココアの後ろの三人の令嬢はいきなりやんだ風に胸をなでおろし、乱れた髪や制服を整えていた。

「何のことかしら?」

ココアは閉じた扇の代わりに持っていたハートのカードを口元に当てた。


「あっ」

ヒューがココアに近づこう一歩踏み出したタイミングで、残りのつむじ風がヒューの足元を強く吹きつけた。

ボフッ

タクトに近づこうとしたが第二皇子が、4つ目のつむじ風に足を取られてしまい、つまづいてタクトの胸をわしづかみにしていた。

「ボフッ?思ったより、モフモフしている、、いや、す、すまない。」

第二皇子が焦って誤ると、手を置いているブレザーの内側で何やらうごめいた。


ピヨ!ピう!ピヨヨ!ぴぴぴぴっぴ!


タクトの胸が盛り上がり第二皇子の手を押しのけるようにブレザーの襟の間からひよこが四羽、勢いよくでてきた。

タクト以外には見えないが、その背中には、1号、2号、3号、4号の文字が浮かんでいる。


「あ、ひ、ひよこが、そうか、どうりでフワッとした感触だと、、、ゴホン。」

頬を赤くした第二皇子があからさまにがっかりしてとても残念そうな声を出していたが、それをごまかそうと咳ばらいをした。


ココアは大きくため息をついて呆れていた。

「これも対策済みだなんて、本当に面白味が無いですこと。」

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