第096話 諦めない理由
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淡々と先を進む先輩達の背中を追うことしか出来ない1年生達。
先輩達とは圧倒的な差が付き始めていた。
特に最初で大きくペースを乱した御手洗は1年生の先頭集団にすら遅れている。
「駒場は余裕そうだな」
1年の先頭は駒場隼人。
続いて、堀枝、竜田、俺、橋渡の順になっている。
「本当だったら、先輩達の集団に追いつきたい気持ちもあるんだけど、ここでペースを乱すと後半が絶対にキツくなるよな」
「2時間30分で走り切れば良いんだ。簡単じゃないけど、焦る必要はないさ」
そんな話をしている内に1人目のリタイアが出た様だ。
普段から長距離を走っている訳ではないから、限界が来てしまったのだろう。
1人リタイアしたとなると次もその内来るはずだ。
それにしても、俺もキツくなって来た。
今で丁度半分が終わったという所か。
15キロをこのペースで走ることなんて無かったからな。
息は完全に上がっていた。
しかし、辛い事だけではない。
このメニューで持久が大幅に上がる。
もしも、先発で起用された時の事も考えると持久はいくらあっても良い。
だから、俺は走り続けた。
誰も言葉を発する余裕は無くなって来る。
風を切る音と口から漏れる息だけが耳に響く。
「もう限界か?まだまだ先は長いのに」
駒場が余裕な顔をして俺の所まで来た。
これは挑発か?
それとも期待しているからこその励ましか?
「はぁっはぁ、そっちは元気そうだね」
「俺はまだまだ余裕があるからな。先輩達のペースも少し落ちたみたいだから、このペースを守れば追いつきそうだな」
「なら、そのまま走ってくれ。俺も後を追うから」
誰か1人ペースを作ってくれる人がいれば楽だ。
その後を追い掛けるだけで良いので、余計なリソースを割かないで済む。
「遅れんなよ」
先へ行ってしまった駒場。
俺も限界なんてとっくに来ているが、遅れないよう必死に走った。
「お、終わったー」
完走した時には疲労で自然と座り込んでいた。
この経験が大きく成長させてくれるのは分かるが、負担が大きいのも事実。
短期間でのステータス上げはそれなりの苦労が伴うな。
持久:37→42
このランニングだけで5もステータスが上昇した。
もうすぐで50になりそうだ。
先発を望むなら最低でも50は欲しいで、目標まで残り少しといった感じか。
それにしても恐ろしいのは先輩達だ。
中にはまだ終わっていない者もいるけれど、レギュラー陣は例に漏れる事なく完走。
しかも、かなりの好タイムだ。
これが環成東の先輩達。
「すごいよな、先輩達は」
「おまっ、その水どこで」
「あそこでマネージャーが配ってるだろ」
水分補給しながらこちらへ近付いて来る橋渡。
先輩達の話をしようとしているが、俺としては水を飲みたくて話が入って来ない。
「見ろよ。先輩達は30キロ走った後なのに何事も無かったかのような顔してるぞ」
「次、昼食の時間だよね?俺、お腹にちゃんと入るか心配なんだけど」
「俺もだ。今、食べたら戻すのは確定だな」
でも、食事は体作りにおいて重要な事の1つだ。
それに作ってくれる人の事を考えると残すなんて事は出来ない。
今出来る事と言えば、なるべく動かないで体力を回復する事だけ。
そうしていれば食事の時間には大分元気になっているだろう。
「そういえば、御手洗はどんな感じだ?時間もそろそろだと思うけど」
「今は残り2周だな。完走は絶対に出来るだろうけど、制限時間に間に合うかどうかは微妙な所だ」
「お、お疲れー」
ここで竜田も合流する。
途中までは調子が良かった竜田は最後の方で失速してしまい俺達より後ろの方でのゴールとなった。
そう考えると最後まで一切ペースを乱さなかった橋渡は計算高い男だと分かる。
「頑張れよ、御手洗。お前が努力しているのは誰よりも知ってるぞ」
「あぁ、そうだよな。アイツは絶対間に合わせる」
俺は信じて結果は見なかった。
水を少し飲んでから、食堂へと向かう。
あの場に残って応援する事も出来た。
励ましの言葉を掛けてやる事も出来た。
だけど、今の御手洗にそれが必要かと言われたらそうではない。
自分の力で這い上がるのも時には大切だ。
「はぁー、疲れたー」
「遅かったな、お前等!」
「そんな事言うなよ。駒場が速過ぎただけだって」
「げっ、駒場くんそんなに米盛って食べ切れるの?」
「いや、これは・・・」
「気を付けろ!お前ら!」
堀枝の叫び声が聞こえる。
何を言っているんだと思って、トレーを持って食事を受け取ろうとした。
「はい、これ白米だ」
「えっ?」
聞き馴染みのある声の人物が俺達に白米をよそってくれた。
トレーには駒場と同じくらいの白米が盛られている。
それに驚愕して顔を上げると、ニヤニヤとした顔の糸式先輩が。
状況に気付いた他の2人が逃げようとするが、既にトレーには大盛りの白米。
「こんなに食えないですよ!」
「ガハハッ!安心しろ、その時は俺達が食うからな!でも、これを食って力を付けた方が自分の為だぞ!」
(大丈夫だよ!ここのお米は美味しいから意外と僕でもぺろっと食べられたから)
一応、残しても良いようにはなっているみたいだが、食べた方が良いという空気はあるよな。
出された以上は食べるけどね。
「どうしてだろう、これだけ運動した後でもこれだけ美味しそうなら食べられる気がする」
「確かに美味しそうだよな。生姜焼きの匂いがたまらない」
席に座って、いざ昼食をいただこうとすると遅れて食堂に御手洗が入って来る。
「だぁーー!!!つ、疲れた」
走っている時は絶望的でも、終われば解放感が押し寄せてくる。
「タイムは?」
「ギリギリだったけど、なんとかクリア」
その報告を聞いて安堵する一同。
御手洗が食事を持って来るまでは待っておく事にした。
「よし、食べるか」
「「「「いただきます」」」」
ちゃんと4人で揃ってご飯が食べられて安心した。
美味しい食事を食べながら、少しばかりの休息を満喫する。
「そう言えば、後半でかなり失速してたけどよく間に合ったな」
「うっ、ストレートに言ってくれるなー。確かに言う通りだったけど」
「でも、乗り越えたんだよね」
竜田の完璧なフォローが入る。
「諦めたくない理由があったんだよ」
「何々、どんな理由?」
「・・・お前等に置いてかれたくないから」
誰もどう言う意味だとは聞かなかった。
それは御手洗を劣っている認識があったからという意味では無い。
その思いは痛い程分かるからだ。
自分の想いを曝け出して、少し恥ずかしくなったのか大盛りの白米を口に掻き込む御手洗。
「あぁ、そんなに一気に食べたら」
「うっ、や、やばいかも」
「おいおい、ほら、お茶を飲めお茶を」
この賑やかな雰囲気が俺達には合っているよな。
その後、意外にも完食した俺達だったが、食堂の隅っこで限界を迎えた御手洗の姿があったのはまた別の話。
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