閑話 もう1人の主人公
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中学生の頃までは俺が圧倒的な主人公だと思っていた。
誰にも負けないくらい強かった俺は、この世でたった1人の最強な男だという自負があったからだ。
しかし、現実はそこまで甘くは無かった。
環成東に入学したのは、ここでなら甲子園へ行けると思ったから。
俺がマウンドに立って、相手のチームを抑える。
単純明快な勝利の方程式。
野球部の見学の時に先輩と勝負する事になった。
打席にたったのは冴えない男。
しかし、俺の球を始めてみるはずの男がバットに当てて来た。
それくらいはおかしい事ではないが、俺の中には悔しいという感情は少し沸いてしまう。
彼の名前は大杉二郎。
堀枝や小鳥遊の口からよく聞いていた名だ。
その後も色々あった。
1年生の交流試合、レギュラー決めに2回に渡る練習試合。
どれもが大杉と良い勝負をしている。
これがライバルという奴か。
俺には味わう事のない経験だと思っていた。
でも、どうやら俺はこんな関係が少年漫画みたいで好きなようだ。
そして今、俺は自主練に励んでいる。
練習がない日ではあるんだけど、何もしないというのは落ち着いていられない。
だって、その間にも強くなっている奴がいるのだから。
河川敷にあるグラウンド。
ここは今日誰も使わないのを確認して、俺が貸切状態で使わせてもらっている。
何球も何球も投げる。
とにかくストレートの質を上げる事が今の俺がすべき事だ。
他の武器を磨いて戦っても中途半端な仕上がりになるだけ。
「へぇー、良い球投げるね。君、高校生?」
「えっ?あっ!?貴方は!」
俺は信じられない光景を目の当たりにしている。
俺の前に立っていたのは村本|忠嗣《
ただつぐ》さんだった。
手が震える。
それくらいの有名人だ。
まさかこんな所にいるとは思わず、目の前で投球を見せることになるとは。
「村本忠嗣さんですよね」
「うん、そうだよ」
「俺、環成東の駒場隼人って言います」
「環成東の子だったんだね。それは強い訳だよ」
まさかあの大スターに褒められているのか俺は。
「もう少し投球見せてもらえないかな?」
「はい!勿論です!」
これはチャンスだ。
彼からのアドバイスが貰えるかも知れない。
そうなれば何にも変えられない経験になるだろう。
「まずはストレートからいきます」
その宣言の後に1球投げる。
最近球速が150キロへと到達した所だ。
最高の状態を見せられて良かった。
次は変化球を順番に。
「やっぱりストレートが輝いているね」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「よし、決めた。君にしよう」
「え?何をですか?」
あまりにも1人で完結し過ぎていて何の話か全く分からない。
「君、強くなりたいよね?」
「勿論」
「じゃあ、俺が教えてあげるよ」
「オレガオシエル?」
「そうそう、俺腕を壊して引退する事になったんだけど、それが悔しくて悔しくてさ。だから、誰かに同じ夢を託そうと思ったんだよ。だから、俺の技術を全て君に授けようかなって」
俺はこの瞬間、鳥肌が立ったのを感じる。
この人は簡単に言っているが、それがどれほどすごい事なのか。
170キロ以上出るストレートが彼の武器だけど、それを近い物を得られるなら俺もかなり強くなれる。
「ただ、結構厳しい練習になると思うけど」
「俺、どうしても超えないといけない奴がいるんです」
「へぇー、どんな子なのその子。君のストレートも同年代と比べたら凄い方だと思うけど、それよりも凄いの?」
「変化球を中心とした投手で俺と同じ部活です」
「同じ部活の好敵手か。結構、面白そうな話だね。それなら尚更、頑張らないとね」
こうして俺の秘密の特訓が始まった。
最初は疑問ばかりだったけれど、練習を重ねる内にそんなことはどうでも良くなる。
今は力が必要だ。
アイツを超えるための力が。
「よし、基礎的なメニューも一旦終わり。ここから本格的に武器を磨いていく」
「俺の武器ってことはやっぱりストレートって事ですよね」
「そうだね。君には打ちにくいストレートを投げられるようになってもらう」
「打ちにくいストレート。つまり、球速を上げろって事ですね!」
「勿論、球速もあるけど、ノビのある球が重要かな。回転数と回転軸。それを狙って寸分の狂いなく調整出来るようにする」
「それって可能なんですか?」
単純な疑問だった。
俺は機械じゃない。
だから、投げる時に多少の誤差が生まれてしまう。
それを無くすのは不可能だろう。
「俺がそれを可能にする。信じてついて来てくれないか」
俺もそう言われると弱い。
だって、目の前にいるのは大活躍のメジャーリーガーだ。
彼が言っているなら本当に出来るかも知れない。
「まずは何から始めたら良いでしょうか」
「良い返事だ」
ここからの練習は厳しさを増した。
毎日部活と自主練に励む。
だけど、苦しいと思った事は1回も無い。
寧ろ、この状況を心のどこかで楽しんでいる自分に気付いた。
俺は今最高に熱い展開を迎えている。
回転数を上げる特訓は意外にも順調に進んでいった。
狙った回転数とまではいかないが、調整する感覚は徐々に掴んでいる。
だけど、問題は回転軸だ。
村本さん曰く、まだまだシュート回転の掛かっているらしい。
自身では極限まで改善しているつもりなんだけどな。
いや、つもりではダメだ。
もっともっと上を目指さないと。
何度も何度も動画サイトやネット、本から村本さんの試合映像まで。
得られる知識は全て脳に叩き込む。
勉強とかはあんま好きじゃないけど、野球の事となると話は別だ。
どんな長文でも頭に入って来る。
「どうだい、自分の見違える変化は」
「これが俺の力」
「俺の予想よりも遥かに上回る成長だ。これは魔球と言っても差し支えないストレート。他の誰にも真似できないくらいホップする」
相手は異常なまでにノビのあるストレートを打てないだろう。
打てたとしても下を叩いてしまってフライを量産するはずだ。
しかも、魔球レベルというお墨付きまで。
「名前とか付けても良いんですかね?」
「このストレートに?良いと思うよ。もしも、駒場くんがメジャーまで来た時に魔球があった方がインパクトあるし」
「え?メジャー?」
「え?目指さないの」
「いえ!絶対に行きます!絶対」
村本さんの言葉が嬉しかった。
俺にはメジャーに行ける才能があると言われた。
この出会いを運んでくれた神には感謝したい。
太陽にも届くのではないかと思わせる程、ホップするストレート"サンシャインスカイ"と命名する事にした。
多少、ダサい気もするがこれくらいの方が親しみやすくて良いんだよ。
これを披露するのは今度の練習試合と決めている。
それまでに実力で先発を勝ち取れる様に一切の妥協を許さない。
今からでもみんなが驚く顔を想像する。
楽しみ過ぎて、早く試合になってくれと何度も日付を確認した。
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