第088話 名探偵夜飼
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「やぁ、久しぶりだね」
「金狼と会った時以来ですかね」
「前は沢山練習へ来てたのに、最近は忙しそうで私は嬉しいような悲しいような」
「忙しいのはお互い様でしょ。夜飼さんも色々と忙しそうじゃないですか」
「あはは、バレた?」
夜飼さんは元々忙しい人だと知っていた。
逆に最初の頃はよく時間を割いてくれたものだと思っていたぐらいだ。
「さてさて、楽しみにしていた成長のお披露目タイムと行こうか」
練習場に着くといきなり投球が始まる。
まずはストレートに始まり、変化球を順当に投げる。
それを俺の横でメモする師匠。
採点されているみたいで怖いな。
何回か投げ込むと師匠は満足したのか投球を止める。
そして、メモした紙を何度も見て頷いた。
「やっぱりだ。やっぱり、私の仮説は正しいと思う」
「仮説?どんな仮説ですか?」
「これを見てもらえるかな」
球速:131キロ
制球:44
持久:37
変化球:ツーシーム3、チェンジアップ2、フォーク4、メテオフォール4、スライダー1
この時、俺は心臓を鷲掴みにされた様な苦しさを覚えた。
これは俺がいつも見ているステータスと全く同じだ。
どうして彼女がステータスの存在を知っているのか。
焦りと不安しか脳内にはなかった。
「これは私が独自に編み出した採点方法で君の投手としての才能を評価した物だ」
どうやら夜飼師匠が独自に編み出したものらしい。
よく1人でここまで正確なステータスを導き出せるな。
感心を通り越して恐怖すら感じる。
「私が何を言いたいのか分からないかな?」
「言いたいこと?全く」
「それじゃあ、こっちも見てもらおうか」
球速:115キロ
制球:25
持久:30
変化球:フォーク 1
「これが私と初めて出会った時のおおよそのステータスだね」
「・・・そうなんですね」
「ははは!その反応、やっぱり君は"知ってた"のではないかな?」
急に名探偵並の名推理が始まった。
夜飼さんが悪い人ではないと知っていても、恐怖で口を開けない。
少しでも余計な事を話せば、ボロが出てしまう。
「ここ2ヶ月でこの成長。普通の人間ではあり得ないんだよ」
「そうですかね?」
「いや、そうだよ。断言させてもらうけど」
その目は確信しているようだった。
どうやって誤魔化すべきか。
いや、ここまで来れば疑いが晴れることはないだろう。
糸式先輩が良い例だ。
完全に俺の事を怪しんでいる。
いくら嘘だと言っても聞く耳は持たない。
でも、真実を話す訳にはいかない。
違う世界から来ましたと言えるはずがないからな。
・・・いや、夜飼さんになら。
だって、独自のルートでほぼ確信に迫っているんだ。
何か困り事があったら良き相談相手になるかも知れない。
【警告:転生者の存在を自身から明かしていけません】
神ならこの状況もお見通しって訳か。
それなら少しは助ける素振りを見せたらどうだ?
何が超常現象の1つでも起こせば気を引けるだろ。
「興味深いなー。話せない訳があるのか、それとも本人の自覚していない領域の成長なのか。後者だとすると国宝レベルの逸材になるね。前者だとすると、その理由も詳しく知りたい所だけど、変に詮索をして嫌われてしまうのも嫌だよね」
「変なスイッチ入れるのやめてくださいよ。まさか、俺が成長し過ぎだって事で話がしたかったんですか?」
「それはそうだ!だって、こんなのはあり得ない」
「あり得なくないでしょ。俺の知り合いに駒場ってのがいますけど、彼の方がよっぽど化け物ですよ」
忘れていたが俺よりもやばい奴はいる。
過大評価などでは無く、現在進行形で俺と競い合う形で隣を走っている。
アイツが弱いはずもない。
成長という面で見れば、きっとアイツは次の試合で俺達を驚かせてくれる事だろう。
「それは確かに彼も少し見た事があるけど、光る何かを感じる。君とは違う別の何かを」
「俺は人の力を借りて大きくなったに過ぎないですよ。だから、俺はアイツの方が羨ましいですけどね」
「ライバルって奴かな。良いね良いね、青春って感じがして」
「なんか変なテンションになって来ましたね」
その後は真面目に変化球の指導をしてくれる夜飼さん。
一気にステータスが上がったせいで、変化球のレベルが上がるにはまだまだ経験値が必要だろうけど、質は良くなった気がする。
この辺はゲームには無い仕様なので体感の話だけど。
まぁ、同じレベルの同じ球でも投げる人によって変わるのは当たり前か。
全てが全く同じ動きで投げられている訳でもないのだから。
「久しぶりだったけど楽しいねー。良い運動になるよ」
「最近は家にこもってばかりですか?」
「家って言うよりは会議室と開発室へ行ったり、来たりって感じだね」
「流石はスポーツ特化の発明家ですね」
「忙しいのはありがたいけども、元々は女子プロとして活躍してたから、偶には動かないと体がウズウズするんだよ」
もしかすると新たな発明をしているのかも知れない。
もし、そうだとすると俺も使えたりするのだろうか。
実験台でも良いから使わせて欲しい。
それくらいの価値はある。
「君にだけ教えてあげようか?今、何作っているか」
「え?良いんですか?」
「これだよ、これ」
そう言って見せてくれた資料にはとんでもない計画が書かれていた。
完全身体能力再現機。
それがその資料の1番上に書かれていた。
主に練習で使う事を目的とした道具で、自分より身体能力の高い人のデータを読み込み、それを無理矢理再現させる機械だ。
一度再現した身体能力を体が覚えて、それに合わせて微々たる変化ではあるが身体の作りが変わっていく。
これはあくまでも限界を引き上げる為に使う装置で、選手の現役でいられる寿命を伸ばす為に開発された。
しかし、そんなに簡単な話では済まない。
彼女は純粋に野球を発展させるつもりで作ったが、悪用されてしまうのだ。
試合での使用。
それを試みる奴等が現れたのだ。
勿論、球界に大きな影響を与える禁忌。
これにより作成者である夜飼さんは、厳重注意と今後発明品の譲渡を禁じられる。
それで済んだからといって問題ない訳ではない。
語られてはいないが、きっと深い傷を心に負っただろう。
「これ、今後誰かに渡す予定は」
「一応、完成して複数作れたら球団にそれぞれ1個ずつ、そうすれば野球は大きな成長を遂げるんだ」
言えなかった。
それは悪用されますなんて。
そんな事を確証をもって言えるのは未来を知っている人だけ。
ただ、遠回しに伝える事は出来るはずだ。
「まずは社会人チームで試してみてはどうですか?」
「それはどうして?」
「いきなりプロに渡すと大きな影響が出るので、社会人リーグで徐々に知名度を上げてから世間に受け入れられる体制を作って導入するんですよ」
「おぉー、それも確かに悪くないね。視野には入れておくよ」
この一言で未来が変わるかは分からない。
だけど、俺はこの人が悲しく末路を辿らないで欲しいと強く願っている。
笑顔でこの装置の可能性を語る彼女を横目にそう思った。
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