第084話 ちょっとしたワガママを
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「すごいわ!本当に取れるもんなのね!」
「そりゃ、4000円も使えば取れるよ 」
結局、粘りに粘ってゲットした。
途中で店員からも気まずい目で見られていたし、何回かフィギュアの位置を変えてもらったので面倒な客として覚えられただろう。
果たして、このぬいぐるみは4000円するのかと考えたが、思い出はプライスレス。
そう考えないと俺の精神がすり減る。
「これ、あの・・・私、欲しいのだけど、4000円渡せば良いかしら」
「え?お金は要らないよ?」
「そう。有り難くいただくわ」
俺が持っていても有効活用出来る訳ではないので、素直に宇佐美へとプレゼントする。
これを見て仕事の疲れが癒されてくれるなら、このぬいぐるみにとっても本望だろう。
「・・・ありがとう」
小さな声で感謝を告げる宇佐美。
そこはもっとはっきりと言って欲しかったけど、言えているだけ十分か。
「もっと色々見て回る?クレーンゲーム以外にも色々とあるけど」
「私、やりたい事があって来たの」
自信満々にそう言った彼女は、慣れない足取りでゲームセンターを徘徊する。
お目当ての物がどこにあるかは分かっていないみたいだ。
俺に教えてくれたら一緒に探せるのだけど、頑なに教えようとはしない。
「あった!これよ、これ」
「まじ?」
「マジよ、マジ」
そこにあったのは女性がデカデカと載っている機械。
・・・プリクラか。
まさかプリクラを撮りたいとは思ってもいなかった。
正直、男の俺にとってここに入ることは結構なハードルがある。
通り過ぎるのは皆、女性ばかり。
何となく男子禁制という雰囲気がある。
「俺、入っても大丈夫かな?」
「問題無いに決まってるでしょ?何かあったら彼氏面しておけば良いのよ」
「役とはいえ、俺と撮るのは嫌じゃないの?」
「もう良いから来なさいよ」
グッと手を引っ張られて中へと強引に連れ込まれる。
ここまで来れば、人の目も気にならないので案外平気だった。
まぁ、今回は宇佐美のやりたい事をさせてやろうと決めていたし諦めるか。
撮影が始めると色々な決めポーズを指定される。
撮りたいと言い出した宇佐美も慣れていないらしく、2人ともぎこちない感じで撮影が進んでいく。
その後も、何となくで進んで行きようやく完成。
「ふふ、貴方面白い顔しているわ」
完成品を見て一言目がそれか。
本人がいる前で良く言えるな。
失礼だとは思わないのか。
自分でも変な表情になってしまったとは思うけど。
んー、冷静になって見返すと恥ずかしいな。
「悪かったね、変な顔で」
「冗談よ。わざわざ撮ってくれたのにそんな事言う訳ないじゃない」
「言いそうだけど」
「そんな事言う訳ないじゃない」
グッと顔を近付けて念を押されると否定出来ない。
変な顔は自覚していたし、傷付いた訳ではないのでこれ以上はやめておこう。
「満足したか?」
「それは私に言われてもね。彼が納得してくれたかどうかによると思うけど」
このまま解散して、実はダメでしたなんてオチになるのは望んでいない。
ここまで来たら、諦めてもらうまでしっかり見届けるべきだ。
俺は後ろに隠れている男の下まで向かい最初から尾行がバレていた事を明かす。
「ど、どうしたんですか?」
「どこの事務所の新人だか知らないけど、良い加減諦めたらどうだ」
「え?諦める?事務所?」
俺の質問の意味が分からないのか同じ言葉を繰り返す。
どういう事だと思い、宇佐美の方を見ると頭を抱えていた。
状況が掴めない。
きちんと説明をしてもらわないとな。
「どういう事?アイツは新人俳優で、お前に執拗に迫って来たんじゃないの?」
「さぁ?私、そんな事言ったかしら」
「ここまで来て話さないなんて選択肢あると思う?」
「うっ、分かった分かったわよ。話せば良いんでしょ」
ちょっと投げやりだけど説明してくれるならそれで良い。
座れる場所を探し始めた宇佐美は、丁度近くにあったベンチに腰掛けて話の続きを始めた。
「彼はマネージャーよ。今日は、とある新人俳優に言い寄られて1日デートしてあげることで諦めてもらうから、その証言者になってもらう為について来たもらったの」
「俺と似たような事言ってマネージャーを連れて来たのか。なんで、わざわざそんな事する必要があったの?普通に遊べば良くないかな?」
「簡単な理由よ。今日の他の打ち合わせ仕事をキャンセルさせる為。って言っても、朝は入れられるし、他のキャンセルした分は後ろに延期されただけなんだけどね」
仕事が嫌という理由で俺は巻き込まれたのか。
別に俺としては休みの日だから問題無いけど、こんな大掛かりな事をしないと遊べない宇佐美に同情する。
「おかげで楽しめたわ。ありがとう」
「そんな礼を言われる事してないけどね」
「私からも感謝を言わせてください」
「ちょっと話に入って来ないでよ」
「いいえ、私は心配していたんですよ!宇佐美がその歳で仕事尽くしな事を。もっと学生らしい生活があったのではないかと」
マネージャーの心配はもっともだ。
宇佐美は一足先に大人と同じ場所へと行ってしまった。
「・・・昔は楽しくなかった。でも、仕事も楽しめてるの。それくらい余裕が出て来たから。だって、学校に通ってる間で楽しい時間が過ごせるもの。今日はちょっとだけワガママを言っただけよ」
「それも今日で理解出来ました。貴方が宇佐美を支えてくれていたんですね」
「俺は支えてないですよ。クラスメイトではありますけど」
これは本心からの言葉だ。
今までに宇佐美へ何かしてあげた経験はない。
ハンカチを探した辺りからクラスメイトとして認識されていたぐらいは感じていたけど、それ以上でもそれ以下でもない。
「余計な事を言わなくて良いの。大杉君、今日は十分楽しめたわ。私のワガママに付き合ってくれてありがとう」
「なんかよく分からないけど、普通に遊びたかったってことか?」
「まぁ、そんな所ね」
「それなら普通に誘ってくれよ。心臓に悪いっての」
こんな手の込んだ設定を気にする必要も無かったのに。
「刺激があった方が面白いかなと思って」
「勘弁してよ」
「分かってるわよ。でも、ちょっと恥ずかしいじゃない。友達を遊びに誘うのって」
人それぞれの感覚なので何も言わないけど、俺は恥ずかしくないぞ。
その後、マネージャーとも少し話をしていた。
そして、マネージャーを先に帰らせた後にまた俺の所まで戻って来る。
「最後に写真撮っても良いかしら?」
「良いよ」
ぎこちない笑顔の俺と無表情の宇佐美。
これがいつもの俺達の関係性って感じがして安心する。
ここを境に、また明日からは元通りの普通の学校生活が始まるのだろう。
「私としては明日からも恋人役を続けてもらっても良いのよ?」
「それをするならまずは俺の演技力から磨かないとな」
「あら、冗談だと思っているみたいね」
俺の顔を見つめる宇佐美。
え?なんだこの展開、まさか俺の予想とは裏腹に非日常コースか?
「違うのか?」
「ふふっ、冗談よ」
悪戯に笑う彼女の笑みは、今までに見て来た彼女のどの笑顔よりも美しかった。
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