第076話 大きな背中を頼り
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俺達の攻撃は氷道先輩から始まる。
守備では大きな活躍を見せてくれている。
なので、攻撃にも期待したい。
対して相手の黒前も調子は悪くなさそうだ。
だけど、今日はこちらの猛攻によって1点を許している。
そう考えると点を取れない相手ではない。
どこかには逆転の糸口が隠されているはずだ。
彼からヒットを打つことを考えた時に、真っ先に対策が必要なのはあのストレートだな。
俺はまだ打席で体感していないから何も言えないが、恐らくベンチから見ている何倍も速く感じるはず。
1球目が投げられた。
ストレートに択を絞って狙いに行く氷道先輩だったが、ここはまさかのチェンジアップから入る。
チェンジアップから入るのはあまりに危険な掛けである。
それなのに自信を持って投げられるのは相手がストレートを恐れていると知っているから。
もちろん、タイミングが全く合わない氷道先輩。
ストライクカウントが増える。
切り替えて次の球に集中する氷道先輩。
しかし、その後も氷道先輩がバットに当たることすらなかった。
スプリットやカーブも依然見せていない。
俺の勘違いだったのかと思ってしまうぐらいだ。
「大杉、あれが波王山なのか?」
ベンチでその光景を見ていた駒場が話し掛けて来た。
「そうだけど、どうしたの?まさか、怖気付いた?」
「そうじゃないんだ。ちょっとだけ投げたくなって来ただけだ」
「人の投球見て投げたくなるって、どれだけ好きなんだよ野球」
きっと今の駒場はもしも自分がこの試合でマウンドに立っていたらと想像している。
俺も気持ちは分からなくない。
マウンドに立った時の自分を少しだけ想像したから。
だけど、それは無い方が良い。
出来れば、獅子頭先輩に最後まで投げ切って勝ってほしいからだ。
でも、獅子頭先輩が投げ切る事はないだろうな。
次の打者は、橋渡。
打撃面でも一定の成果は残せる男だ。
ここはシングルヒットでも良いので塁に出て、チームに希望を与えたいところ。
(相手は基本的にストレート中心に組み立ている。それは誰がどう見ても明らかだ。しかも、投球に一定の法則性がある訳でもない。なら、ここで打つためには球種よりもコースで絞るべきか)
橋渡は考えていた。
ネクストバッターズサークルにいる時からずっと。
粘り強いバッティングはこの止まらない思考力の賜物でもある。
誰よりもストイックなこの男に暇な時間など一瞬も存在していない。
1球目はストレート勝負。
橋渡はこれに乗ってバットを振りにいく。
タイミングが少し早くストライクに。
しかし、これは全く問題ない。
あの1球でタイミングは完全に修正したはずだ。
残る問題は、他の球種をどうするか。
2球目も続けてストレート。
これにはしっかりタイミング合わせて振る。
バットには当たったが少し芯とズレていたのか、ファールゾーンへ。
それを追う波王山の守備。
結果は取られなかったのでストライクだった。
追い付かれたらと思うとヒヤヒヤする。
悔しそうな表情の橋渡。
あの球は完全にヒットだろうと思っていたはずだ。
それが自分のバットコントロールのせいでファールに。
これが悔しい以外のどんな言葉で表せるのか。
しかし、まだアウトになった訳ではない。
ここからヒットを打つ可能性も大いにある。
3球目はカットボール。内角ギリギリからボールゾーンへ逃げる球。
しっかり見ていた橋渡はこれを見送り、1ボール2ストライク。
追い込まれた状況でよく冷静に見送った。
その判断が出来るなら彼はまだ戦える。
4球目、ここに来て始めて見せるスプリット。
これに喰らい付こうとする橋渡だったけれど、バットに当たることすらなくアウトに。
そして、次の後藤先輩もスプリットとストレートに苦しめられ、手も足も出ないままアウト。
これで呆気なく5回表の攻撃は終了してしまった。
5回の裏、獅子頭先輩がマウンドに上がる。
「百地、獅子頭の投球数は?」
「8球とかなり好調です」
「8球か。ここから何も起きなければ、まだ大丈夫だな」
監督も余計なフラグを立てる。
獅子頭先輩の圧倒的な投球センスの裏に隠された弱点。
それを雷郷が知らないはずがない。
恐らく、この回からは獅子頭先輩も苦戦するだろう。
7番打者、相手の攻撃は彼から始まる。
1球、1球とカウントを増やしていくが追い込まれるまで彼はバットを振らなかった。
環成東のベンチは不思議に感じる1年と焦りを感じる先輩達に分かれていた。
2ボール2ストライクまで追い込まれた時、ようやく7番打者が動き出す。
際どい所に入ったカーブを打つ。
結果はファールに。
普通ならヒットが打てなかったと思うが、彼はカットすること自体を狙っている。
結果は6球でアウトに。
ここまでが14球。
つまり、残されたのは・・・
「残り36球か・・・」
「え?何が36球なんですか?」
「馬鹿野朗、あんまり大きな声出すんじゃねーよ」
声を出した駒場が怒られる。
獅子頭先輩の弱点は50球しか投げられない事。
短期決戦のクローザー向け選手だ。
今回は先に2年から使うという監督の意向の下、中継ぎとして起用されている。
今回の配分は糸式先輩が6回、獅子頭先輩が3回の予定だった。
それが余りにも早い糸式先輩の離脱により、計画が大きく崩れている。
ここまで来れば、俺か駒場のどちらかが投げるのはほぼ確実だ。
相手に雷郷がいたのも運が悪かったな。
「嫌な流れだぜ、全く。真正面から勝負してこいよ!逃げも隠れもしねぇーぞ!」
狙いに気付いた獅子頭先輩がキレた。
どうしてこうも2年の投手陣は頭に血が昇るのが早いのか。
8番打者、9番打者も似た様な戦法で5回裏が終わるまでの合計投球数は24球。
「すみません。僕・・・」
ベンチに戻って来た獅子頭先輩は落ち込んでいた。
マウンドにいた時は勢いがあったので何とかメンタルを保っていられるが、降りた途端にこの様子。
「何言ってんだ、思。それは俺への当て付けか?」
「いや、そんな事はないけど・・・」
「まだ1点も取られてないだろお前は」
「そうだけど・・・」
「強いんだよ、お前は。俺よりもずっとな」
みんな強豪相手にやるせない思いをしている。
だけど、この戦いを最後で笑って終わらせたいから足掻く。
苦しみの中にいたとしても逃げないことを選ぶ。
だから、謝罪の言葉なんてのはいらない。
「さて、後輩も苦しんでるみたいだ。お前がみんなに希望の光を見せる番だよな、万常」
5番、万常努。
環成東のキャンプンだ。
彼の強さは直向きな努力ただそれだけ。
しかし、その努力があるから背中が語る物も多い。
俺はストーリーを通して、色々なキャプテンを見て来たけれど、1番適性があるのは万常努だ。
見せてくださいよ、貴方の頼りになる背中を。
ベンチにいるみんなが待っていますから。
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