第075話 獅子頭、出陣
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糸式先輩に慌てた様子はなかった。
寧ろ、落ち着いていると言った方が正しいか。
ストレートの速度は体感出来た。
後は他の球に注意しながらストレートを狙えば、きっとヒットが打てるはず。
2球目、これもストレート。
てっきりチェンジアップかなと思っていたが違うみたいだ。
糸式はこれに手を出したけれど、勢いに負けて球は後ろに弾かれる。
捕手が捕ってしまいそうになるが、ギリギリのところで地面に落ちて一命を取り留めた。
ファールボールを取られてアウトになったらと思うと恐ろしい。
(ストレートか・・・。全球ストレートと思わせて、最後はチェンジアップ。いや、他の球か。どちらにせよ、ストレートは外して考えるべきか。でも、俺なら敢えてストレートという選択肢もある)
糸式紡は迷っていた。
ストレートは完全にタイミングを合わせられるだろう。
だけど、ここで1球外して来たり、チェンジアップが投げられたら厄介だ。
しかし、考える為に与えられた猶予は短かった。
3球目はカットボール。
芯を外してゴロを打たせる作戦だろう。
その可能性は読めていたが、分かっていても綺麗に打ち返せるかは別問題。
このまま相手の思惑通りになってしまうのか。
「俺は負けたくねぇー!」
気合いでスイングを修正する糸式先輩。
ライト前に球が落ちる。
しかし、前に出ていたセンターが捕球。
そのまま一塁へと投げてアウトに。
だけど、問題はない。
糸式先輩はアウトになったけれど日下部先輩はホームに戻って来た。
1点を見事に返したのだ。
驚くほどに白熱しているこの試合。
どちらの投手も負けず劣らずの力を持っているのに、ここまで点が入るのはお互いのチームの完成度の高さが窺える。
残り2点で同点に追いつける。
だけど、その2点は遠い様に思える。
「次は竜田か」
「さっきも打てたし、今回だって」
先程は雷郷からヒットを奪っている。
だから、それが自信とヒットに繋がってくれたら嬉しい。
しかし、現実はそう上手くいかない。
結果は6球粘って三振。
アウトで攻守交代となった。
「ドンマイ、竜田!」
俺はベンチに戻って来た竜田を真っ先に慰める。
「ごめん、アウトになっちゃった。でも、先発の人よりは打てそうな気がするんだ」
「それなら次こそはだな」
「うん、任せて」
打ちやすいか。
それはそうだろうな。
黒前の投球スタイルは打たせて取れ。
敢えて、誘ってくる球を投げてくるのが相手の戦略だ。
そして、彼はまだ本気を出していない。
俺達の戦力をたった3種類の球だけで推測っているのだ。
「気を付けた方が良い。相手はまだカーブとスプリットを残している」
思わず情報を漏らす。
このチームで勝ちたいという想いが強すぎたが故に。
「それ本当か?」
「あっ、はい。本当だと思います」
万常さんがそれを聞いていたらしい。
全体に共有してくれた。
でも、どこでこの情報を集めたのかは聞かれなかった。
まぁ、聞かれたら波王山くらい有名な高校になると調べたら試合のデータが見つかるので、それを見たと言い逃れするつもりだったけど。
相手の投手で特に注意すべき球種はスプリット。
これが厄介だ。
俺のメテオフォールの方が優れてはいるが、黒前が元々球速が速いので噛み合っている。
150キロのスプリットを投げられたら反応するのも至難の業。
慣れるまでに時間が掛かるだろう。
氷道先輩の打順は、内野ゴロで終わった。
これで攻守交代か。
4回の裏、投手は獅子頭先輩だ。
彼は謎が多いと言われている投手。
何故、球を持つと人が変わるのか。
それを知るのはまだ先の話。
きちんと抑えてくれるかだけを気にしていれば良い。
今は4回裏。
もしも、ここから獅子頭先輩の体力が尽きれば、その時はいよいよ俺か駒場のどちらかが登板することになってしまう。
「やっぱり俺がいねーとこのチームはダメだよなぁ!」
そして、スイッチが入ってしまった獅子頭先輩。
こうなれば、彼は強い。
少しテンションが高くてやかましい部分もあるけれど、それでも獅子頭先輩の投球は1球1球に圧を感じる。
まずは4番打者の細マッチョが相手だ。
いつもの獅子頭先輩ならビビってしまう様な相手だけど、今は全く相手にビビる様子はない。
それどころか笑っていた。
いつもは真っ直ぐに閉ざされた口角をぐいっと上げていて、不気味とさえ思える。
獅子頭先輩が構える。
1球目は高速カーブから始まった。
前に見た時よりもキレの増した高速カーブ。
それを見送る4番打者。
獅子頭先輩の異様な雰囲気を見て、1球目は様子を見て来たか。
でも、その1球は命取りになる。
ストライクカウントが1になり、次の投球へ。
次は何を投げて来るのか相手は分からない。
だけど、迷えば迷う程追い込まれて行く。
それは打者本人も分かっているだろう。
様子見に割り切るかコースを絞って打ちに行くか。
どちらを選ぶかが勝負の分かれ目だ。
2球目、全く同じコース。
寸分の狂いも無く同じコースなのだ。
異常なまでに卓越したコントロール。
相手はこれに苦しめられるだろう。
しかも、今度はスローカーブ。
同じ軌道で同じコースだと思いバットを振れば、気付いた時にはストライクカウントが増えている。
ラストは先程と似たようなコースに球1個分外へ出したストレート。
これは4番打者がすっかりと見極めて見送る事を選んだ。
「ストラーイク!バッターアウト!」
「えっ!今のはボールでは」
「いえ、ストライクでした」
よく見えるのが仇になった。
同じコースばかりに目が慣れてしまった審判は、竜田のフレーミングもあって、ストライクを誤審してしまう。
いや、させられたと言う方が正しいか。
納得は出来なくても、審判はこれ以上自分の判断を変えないだろう。
獅子頭先輩の方が1枚上手だったと思うしかない。
次の5番打者も同じようにカーブ3種に苦しめられて三振。
6球で2人を三振に抑える好調なスタートだ。
球数をなるべく増やさないで回を進めたい。
6人目は、悪球打ちの癖のある選手。
彼には球の出し入れは意味をなさない。
どんな球に対してもある程度はバットを振ってくると思った方が良い。
1球目、4・5番打者の時とは違いストレートから入る。
相手はそれも予想していた様でバットを振って来た。
結果はバットには当たらず、捕手の構えたミットまで球が届く。
やはり1球目から振りに来たか。
2球目はカーブ。
しかも、強気に1球目と同じコースを狙った球だ。
これは流石に見逃せない6番打者。
今度こそしっかりバットに当てる。
前に転がる打球。
二塁手と一塁手の間を抜けそうになる。
必死に止めに入る二塁手、時透先輩。
なんとかグラブに球を納めて3アウト、チェンジ。
獅子頭先輩は塁にすら相手を出さずに攻守交代まで持っていった。
ここからの逆転劇は少しずつ現実味を帯びて来た。
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