第071話 氷道、魂の送球
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「日下部相手に点を取られる訳がないんだよなー。その次も糸式だし、三振でもゲッツーでもどっちでも良いか」
いくら小さな声で呟いているからと言って本人を目の前に言いたい放題の雷郷。
でも、これは事実だ。
打率的には点が取れるか怪しい。
誰もが固唾を飲んで見守って1球目。
速いストレートがど真ん中に入る。
その箇所だけには投げて来ないと思っていた日下部は全く反応出来ていない。
そして、どんどん自信が喪失していっているのがよく分かる。
彼は自分の弱さを理解している。
その上で弱さを克服するのではなく、強みである守備を伸ばすという選択を選んだ。
彼がいるところに飛べば点を取られないとまで言われる程になり、レギュラーにも選ばれるように。
しかし、反面攻撃面では顕著にその粗が出ている。
そのツケがこんな場面で回ってくるとは本人も思っていなかっただろう。
「俺が弱いばかりに・・・」
彼は悔しさのあまりバットを強く握る。
だけど、それ以上後悔している時間はない。
今は試合中で自分の打順だ。
打って点を入れる。
それが単純明快な日下部先輩の仕事。
2球目、思い切ってバットを振る日下部先輩。
しかし、球はバットに当たらない。
ゆっくりと穏やかに変化する魔球風神が、タイミングを大きくズラす。
浦西先輩は初球から打ってみせたが日下部先輩には厳しかったようだ。
そもそもあんな球を打つのは難しいと分かっているけど、空振りしてしまったのでカウントはノーボール2ストライク。
3球目、最初と同じど真ん中のストレート。
これには思わず手を出す。
しかし、それが甘い罠だった。
微かに変化した。
ストレートに見えたツーシームだった訳か。
虚しくも二塁手方向へと転がる。
ここから自慢の足でなんとかカバー出来るか。
そう思ったが残念ながらゲッツーとなり攻守交代だ。
後少し、こちらの打撃力が強ければ点を取れていたのに。
切り替えないといけないのは分かっているが、引き摺ってしまいそうだ。
守備にまで影響が出なければ良いんだけど。
2回表終了時点で0対1で相手がリードしている現状。
まだ序盤とはいえ、このまま空気に飲まれなければ良いけど。
「点が欲しかった場面で悪い」
「謝るな。俺も塁には出れなかった。それよりも今は守備だ。お前はそこを評価されてレギュラーに選ばれたんだろ」
「あぁ、分かってる」
チーム内で励まし合って何とか守備へ気持ちを切り替える。
しかし、彼等は全員気付いている。
波王山は想定しているよりも強いということを。
そして、それらの原因は全て雷郷風太たった1人による物だと言うことを。
アイツを攻略しない限り勝ち目はない。
ただ、アイツも無敵ではない。
どこからに必ず攻略の糸口があるはずだ。
糸式先輩がマウンドに立つ。
前回は1失点という結果に終わっている。
ここから無失点に抑えることは果たして出来るのか。
6番打者が打席についた。
相手に考える隙を与えないよう投球を始める。
1球目は外角の高めをボール1個分外したストレート。
相手の選球眼を確かめる為の様子見の1球と言うわけだ。
「だりゃーー!!!」
6番打者はそんなことはお構いなしに振ってくる。
コイツも癖のある選手だよな。
普通はストライクゾーンに来た球を狙って打つだろ。
まぁ、豪快なスイングによってストライクカウントは増えた。
これはこっちにとって好都合だ。
2球目は高速シュート。
これはボールゾーンからストライクゾーンに入り込んで来るシュート。
全く反応せずに見送る6番打者。
糸式先輩は、まだまだ分析出来ていない部分も多いと思うがこれでノーボール2ストライク。
余裕があるこのカウントでは、ボール球で相手を釣りたくなる。
3球目、糸式先輩はやはりボールゾーンへと球を投げた。
「俺はこれを待っていたぜ!!!」
ボールゾーンを積極的に狙っていた6番打者。
初見殺しの設定だよな。
俺もコイツのせいでコントローラーを投げた。
逆にストライクの球を打てないのかと言われたらそうではないのが余計に腹が立つ。
どっちかはダメであれよ。
左中間を抜けて、二塁に足を進める6番打者。
ノーアウト二塁。
嫌なスタートだな。
ここからきちんと抑えることが出来るのか。
これ以上の失点は正直に言うと辛い。
それを分かっているからこそ、糸式先輩も気合いが入る。
次の打者が打席に入ってくる。
今は相手が流れを掴んでいるので、このまま勢いに乗りたいのだろう。
1球目は外角に投げ込まれたシンカー。
鋭く落ちてストライクになる。
相手もタイミングを合わせてバットを振って来たので一瞬、ヒヤリとしたが結果オーライ。
後、2つストライクを取れば良い。
2球目は内角低めいっぱいの打ち辛いツーシーム。
これは流石に手が出せないかと俺も思ったが、意外にも打ち返して来た。左中間を抜けるかどうかの打球。
抜けてしまえば、確実に走者が帰って来てしまう。
それだけはどうにか避けたい。
「氷道先輩が取ったぞ!」
ベンチの堀枝が口に出して喜ぶ。
しかし、相手は三塁を踏んだ後もスピードを緩めなかった。
もしかすると左翼手の氷道先輩が著しく肩が弱いと知っているのか。
雷郷がいるならその情報が漏れていても不思議ではない。
悔しいけれど、ノーアウトのまま1点追加か。
その時、テキストは出てこなかったけれど、氷道先輩の熱い思いが伝わって来る。
自分もこのチームで役に立ちたいという熱い思い。
捕球した球を冷静に持ち直し、ホームベースへと向かって送球。
「確実に速くなっている」
驚いた。
たった1つアドバイスをしただけで、後は全く関与していない。
つまり、その殆どが彼の実力でここまで成長したのだ。
予想外の展開に焦りながらも走る走者。
魂の送球は徐々に距離を積める。
走者が塁に辿り着くのが先か、それとも球が捕手に届いて相手に触れるのが先か。
豪快なヘッドスライディング。
舞う砂埃。
ほんの数秒だけ結果が見えない。
しっかりと見えていたのは近くにいた審判ぐらいだろう。
「アウトーー!!!」
宣言されるアウト。
しっかりと捕球して相手に触れている捕手。
ベンチの俺達も一安心だ。
そして、1人で小さくガッツポーズをする氷道先輩。
このアウトが俺達に向かい風を吹き込んでくれると信じたい。
カウントは1アウト、二塁。
打者がしっかりと二塁まで進んでいたので、得点圏内に走者がいることは変わらない。
だけど、得点を防いだのだからそれで良い。
そう思っていないのはたった1人だけ。
いつもの何倍も厳しい表情だ。
ここまでピンチを広げているのは厳しい言い方をすれば糸式先輩である。
たった1点、たった1安打。
それがこの試合では命取りなのだ。
雷郷から点を取るのは、それ程難しいということを意味している、
ここからは糸式先輩は巻き返す事が出来るのだろうか。
今の俺は不安な気持ち半分、期待している気持ち半分だった。
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