第070話 委ねられた審議
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
後藤先輩のヒットは大きい。
ノーアウトの時にランナーが出ると得点率が高まる。
この試合で初めて雷郷に走者を背負わせた。
これは自信家な彼にとっては、打たれたという事実がついて回るので嫌な状況だろう。
そして次は万常先輩だ。
この野球部の中で1番頼りになる男。
その背中は糸式を励ます為に1点を取るという思いが伝わってくる。
「おぉー、これが万常か。実際に見ると迫力が違うなー。もっと大男かと思ったけど、意外と普通の背丈だ」
実際のイメージと違ったらしいが、今はそんなこと関係ないだろ。
試合に集中してないフリをしているのか。
それで油断させてアウトを取る。
いや、こっちは一切油断していない。
だから、その戦法は効かないぞ。
「さてと、1番手っ取り早く心を折るのは万常を空振り三振に終わらせることかなー。そっちの方がさ、面白い展開を描けそうだし」
ニヤニヤと不適な笑みを浮かべる。
それは大きなプレッシャーとなる。
俺はベンチから祈る事しか出来ない。
互いに準備が整えられて投げられる1球目。
詰まらせる内角高めから外へ逃げるスライダー。
これには手を出さない万常先輩。
当てられたとしても詰まった当たりになるだけ。
それなら敢えて手を出す必要もないとあの一瞬で判断したのだろう。
だけど、そうなると相手は内角ばかりを攻めてくるはずだ。
身を引いて当てやすくしておくべきか。
2球目、これは内角のボール球。
絶妙に手を出したくなる様な配球で敵を惑わす。
しかし、万常先輩はボール球には反応しなかった。
これでカウントは1ボール1ストライク。
次はストレート。
外角低め目一杯のストレートは雷郷からヒットを奪える絶好球。
他の変化球とは違い、余計な事は意識しなくて良い。
これに手を出す以外は考えられない。
万常先輩も同じ考えだったらしくバットを振った。
しっかりと前に飛ぶ打球。
しかし、相手の三塁手が手を出せそうな位置に飛んでいく。
これはアウトになってしまうのか、それとも・・・
「いけぇーーー!!!」
ベンチの俺達は叫んだ。
ここで打てばノーアウト一、二塁。
同点どころか逆転のチャンスまで見えてくる。
それは相手も理解している事だ。
ここは何としても通したくないという思いが伝わってくる。
飛びつきながら捕球をする三塁手。
後ろにこそ逸らさなかったが、その球は地面にバウンドした球だ。
このまま体勢を立て直せずにいればセーフだ。
「俺の凄さに恐れ慄け!」
あの三塁手、立ち上がらずに送球したぞ。
踏み込む力がない分、まともに送球するのも難しいはずだ。
しかし、球は真っ直ぐに飛ぶ。
どこからそんな力が出て来るのか疑問だ。
「アウト!!!」
一塁の塁審はこの白熱したせめぎ合いに興奮しながらもアウトを宣告する。
VARなんてものはない現状、塁審の言った事は恐らく覆らない。
それでも俺達は今のがセーフだったと心から叫びたい。
監督も堪らず抗議に入る。
いくら練習試合だからと言っても両者真剣に戦っている。
あの場面でセーフになるかアウトになるかでどれだけ結果が変わって来るかを誰よりも理解しているはずだ。
監督が戻って来る。
結果はやはり覆らなかったか。
相手にとっては好都合だろう。
「結果は変わらなかった。だから、切り替えろ。万常が出塁出来た方がチャンスを広げられたのは事実だが、1アウト二塁。得点圏内に走者がいる事実は大きい」
監督の言っていることは正しい。
だけど、俺は嫌な予感がしてならないのだ。
アイツがこのまま得点を許すなんてはずはない。
まだ何かを隠している。
そうとしか考えられない。
「キシシシッ!良いねこの展開!強豪校が主人公チームから点を奪われそうになるなんて!でもよ、シナリオ通りってのも面白くないよな。ここから俺達が1点も取られずに勝つ流れの方が面白いぜ」
堂々と宣言する雷郷。
俺達をこれ以上出塁させないと言っているようなものだ。
敵の目の前で言える精神には関心するが、実際にそれが出来てしまうのが恐ろしい。
次は堀枝と入れ替わりで入った2年の一塁手、浦西先輩だ。
印象はマイペースでおっとりとしている。
こういうスポーツで競い合うのが好きなタイプには見えないが、本人は楽しんでいるらしい。
今回の試合で起用されているのは、2年生投手を起用する繋がりなのだろうか。
そうでなければ失礼ながら堀枝より浦西先輩を起用する理由が見つからない。
本塁打率が圧倒的に違う。
「僕、頑張って、来るね〜」
まぁ、それでも彼は環成東でレギュラーに選ばれる存在ではある。
それなりに打率は良い方だ。
あんなにゆったりとしているのに、どうやってタイミングを取っているのか気になるところではある。
打席に立つ前の彼もマイペースだ。
いつも通り時間を掛けて自分のルーティンを熟す。
少し準備が遅くて審判に注意を受けるまでがセットとなっている。
このキャラを雷郷は使っていなかったのか不思議な生き物を見る目で見ていた。
戸惑いながら投げる1球目。
雷神から入るかと思ったが、その裏を突いて風神から始める。
だけど、その選択が浦西先輩相手には最悪の選択肢だった。
唯一と言って良い程に彼が得意とするスローボール。
いくら始めて見る魔球だったとしても、軽々と打ち返す。
綺麗なセンター返し。
セカンドも飛んで捕球を試みるが全く届かない。
これなら後藤先輩も帰って来れる可能性があるかとも思われたが、中堅手のカバーが早かったのと後藤先輩の足が遅かったのもあって、走者は一塁、三塁。
しかも、1アウト。
これで取り敢えず、前に飛ばせば1点は確実だ。
そして、その場面で時透先輩の番が回って来る。
下位打線を支えている3年の先輩だ。
下位打線だからと言って、彼を侮るなかれ。
彼の最も特出した武器は、相手の心理を読むこと。
「げっ、時透かよ。この場面でコイツと勝負するのは嫌だな」
危険を察した雷郷。
ストーリーぐらいはクリアしただけあるな。
時透先輩は傷広げという名前だけ聞けば物騒なスキルがあるから、相手が追い込まれている状態での出塁率が高い。
それが下位打線を支えていると言われる所以だ。
適当にボールゾーンへと4球投げる。
牽制して直接的な戦いを避けたか。
満塁の状況を作った方がゲッツーも取りやすいので、賢い選択ではあるだろう。
しかし、こちらにとっては満塁という得点を取りやすい状況になった。
ヒット1本、これで点が取れる。
だけど、まずいことになったな。
右翼手の日下部先輩だ。
守備はかなり上手いし、足も速い方だ。
だけど、このメンバーの中では下から数えた方が早いほど打率が悪い。
その理由は後に明かされて改善されるが、まだその時は来ていない。
雷郷もそれは知っているはず。
容赦無く鋭い魔球を投げ込んでくるだろう。
「頼む打ってくれ」
思わず声に漏れる程、俺は強く願っていた。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!
あ、毎日21時投稿予定です。




