第068話 転生者の実力
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
雷郷はテンポ良く竜田を討ち取った。
このアウトはただのアウトではない。
敵に絶望を与え、味方の士気を上げるアウトだ。
現に環成東の選手は、固まっていた。
脳内にある魔球の映像を何度も何度も再生して、対策を立てるしかない。
しかし、その間にも試合は動いていく。
2人目もバットにすら掠らせる事なく空振り三振に終わらせる雷郷。
今の空気は雷郷が全て支配している。
「次は橋渡の番か」
ここでアウトになれば、三者三振で勢い付ける事になってしまう。
だから、せめてバットに掠めるくらいはして欲しい。
「これが強豪校の実力か・・・」
1人呟きながら打席へと立つ。
雷郷と橋渡が睨み合う。
独特な空気がしばらく流れる。
そして、投げられた1球目。
シンプルなストレートが懐に向かって入る。
このストレートは甘美な罠。
ストレートが投げられた事でつい手を出したくなるがボール球だ。
振ってしまえば、詰まった当たりになって内野ゴロに終わっていただろう。
それをよく踏み止まった。
誰もがあのタイミングでは、バットを振れと思っただろう。
しかし、橋渡だけは冷静だった。
「さっきので仕留めるつもりだったんだけどな。キシシシッ!そう簡単にはいかないか」
2球目、雷神か風神か。
それともまだ残している隠し球があるのか。
気になる2球目はシンカー方向へと曲がった。
となるとこの球はゆっくりの風の様に舞う風神。
1人目で風神を見ている橋渡。
ここは落ち着いてバットを振れば、良い当たりになるのではないだろうか。
考えている事は橋渡も同じな様で狙いを定めて、渾身のスイング。
だが、このスイングは球をファールゾーンに運ぶだけ。
思っているよりも球の速度が遅く、タイミングがズレてしまったか。
1球目のストレートに引っ張られたのかもな。
「橋渡くん、打って欲しいね」
「あぁ、橋渡ならいけると信じたいよ」
信じたいのは本当だ。
だけど、信じるだけではどうにもならない時だってある。
カウントは1ボール1ストライク。
最悪、1球ぐらいは見逃す余裕はある。
だから、そこまで肩肘張らずにリラックスして欲しい。
3球目、これはスライダーか。
投げられるのが魔球2種類だけなはずもないか。
ここで初めて見るスライダーを投げて来た。
しかし、橋渡はバットを振り抜いた。
見送る選択肢ではなく、挑戦する選択肢を選んだのだ。
一塁手と二塁手の間に素早く転がって行く。
これなら塁に出れるかと思ったが相手は勿論守備も上手く、一塁手が取って自らの足でベースを踏みアウトに。
アウトにこそなったが、バットには当てた。
相手は普通の人間だ。
無敵ではない。
その事を橋渡は証明した。
後は、時間を使って慣れるだけ。
雷郷を攻略してしまえば、勝てない試合ではないだろう。
「ナイス、橋渡」
ベンチに戻って来た橋渡に声を掛ける。
しかし、彼の表情は暗い。
彼はヒットを本気で狙っていたのだ。
バットに当てたぐらいで喜べというのは無理な話か。
ここで攻守交代。
俺はベンチから見届ける事しか出来ないが、声は出せる。
彼等の士気を上げる為に、腹から声を出して応援するつもりだ。
全員、目付きが変わった。
攻撃の時とはまた違う表情だ。
特に険しい顔付きだったのは、先発の糸式先輩だ。
雷郷が出塁を許さなかったのを見て、余計に気合いが入っているのだろう。
それが空回りしなければ良いけど。
糸式先輩は投手として何かに特出した才能がある訳ではない。
だけど、万能な選手ではある。
器用に全てをこなしてくれる頼れる存在。
この試合で名を轟かせて欲しい所だ。
マウンドに上がると大きな深呼吸を1回。
これで彼はスイッチが入る。
普段の感情的になりやすい糸式先輩とは違って、非常に冷静だ。
打席に立つ波王山の選手をチラッと見てから、セットポジションに。
彼の投球の始まりを告げるのは、清々しい程のミットの音だった。
挨拶代わりと言わんばかりのストレートで、敵を威嚇するのを忘れない。
前に見た時よりも球速が上がっている気がするな。
全員、ただこの1ヶ月を探していた訳ではないということだ。
「ふっ、これが環成東か」
鼻で笑う1番打者。
何が面白いのか全く理解出来ない。
現に糸式先輩は最高の仕上がりだ。
ステータス面は見れないが、精神面で今の彼を止められる者はいるのか。
2球目もストレート。
2球続けて同じ球種を投げるのはリスクもあるが、相手により印象付ける事も出来る。
これを見逃す1番打者の男。
振るつもりがないのか。
球に反応する素振りが見受けられない。
1番打者は徹底的に糸式先輩から情報を搾り取る作戦か。
なら、2ストライクで追い込まれたこの状況。
絶対に振りたいはず。
何も情報を与えない強気の3球続けてストレート。
しかし、これには反応してくる1番打者。
ファールゾーンへと転がる球。
狙ってファールゾーンに打っているのだとすれば、厄介だな。
相手に考える暇を与えない投球間隔で、シンカーを投げる。
糸先先輩のシンカーはキレのある曲がりで打者を翻弄する。
これはバットにすら当たらず三振に。
だけど、1番打者は納得した様子でベンチへと戻る。
戻る際に2番打者の雷郷へ何かを伝えていたが、一瞬の出来事だったので判別は出来なかった。
ここからどうなって行くのか。
波王山の打線が優しいはずもない。
厳しい試合内容になるはずだ。
2人目は雷郷だ。
こんなに早い出番が来るとは。
投手としての才能は確認済みだが、この打順という事は打撃の才能もあるはず。
「キシシシッ!凡人の相手をするのもつまんねぇーから、さっさと駒場か大杉引き摺り出してお楽しみと行きたい所だぜ」
どうやら彼にとって糸式先輩は敵ではないらしい。
しかし、それを堂々とこの場で宣言するのは挑発行為の以外の何物でもない。
スポーツマンシップの欠けらをどこに落としたのか気になる。
まずは1球目。
相手が雷郷だと分かり、目付きがより一層厳しくなる糸式先輩。
絶対に打たれたくないんだろうなというのが伝わって来る。
高速シュートが雷郷の胸元へと飛び出す。
これには手を出さない。
ストライクカウントが1つ進んで、カウント有利に。
意外にも静かな運びとなっている。
2球目、糸式先輩の渾身のストレートが放たれた。
外角の低め。
先程の球の印象もあって簡単には手が出ないはずだ。
「欠伸が出るほどに、くだらねぇー球だぜ!」
このストレートを張っていたのか。
振り抜かれたバット。
空高く飛んでいく球。
その行方は誰がどう見ても分かる。
球場のフェンスを超えた先、外野の誰もが取れない場所に落ちた。
本塁打。
2人目にして起きた最悪の1点。
試合をしていればそんな日もある。
だけど、人はそんなに簡単には割り切れない。
そして、ここから悲劇は加速するのだった。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!
あ、毎日21時投稿予定です。




