第067話 開幕を告げる魔球
波王山戦・スターティングメンバー
1番:捕手・竜田(1年)
2番:左翼手・氷道(2年)
3番:中堅手・橋渡(1年)
4番:三塁手・後藤(2年)
5番:遊撃手・万常(3年)
6番:一塁手・浦西(2年)
7番:二塁手・時透(3年)
8番:右翼手・日下部(3年)
9番:投手・糸式(2年)
神に近い奴がいた。
だったら、奴らは俺の事を見ているだろうか。
面白いか?楽しいか?
俺は最高に楽しいぞ。
こんな体験は2度と出来ない。
だから、悔いのないようにしたい。
波王山戦当日。
誰1人として遅刻する事なく、波王山高校へと到着した。
ここまではハプニング無く物事が進行出来ている。
後は中に入って準備をすれば、無事に試合が始まるだろう。
俺達はまだ1年。
先輩達よりも早く準備を始めなければ。
「おーい、いたいた。お前の事探したんだぜ?」
「なんだあんたか」
誰かと思えば、雷郷風太か。
雷郷高清の孫であり、もう1人の転生者だ。
前回はこいつのせいで酷い目にあった。
糸式先輩からは疑いの目で見られ、生徒会長からは怒られる。
どちらもこいつがいたせいで起こった話だ。
「お前のせいで俺は酷い目にあったんだからな」
「キシシッ!それは申し訳ないなー!」
全然、反省している様には見えない。
寧ろ、面白がっている様に見える。
この世界に法が無ければ、無言で殴り飛ばしている所だった。
「そんな事より、今日の試合楽しみだぜ」
「それは同感だ。自分の登板機会があるかは別としても波王山と戦えるのは大きな経験になる」
「俺達の事を経験値呼ばわりってやっぱり面白いな!キシシシッ!でも、安心して欲しい事がある。今日は絶対に大杉の登板機会が回ってくるぜ。それくらい俺達がボコボコにするからな」
他にも部員がいるのに、よくもそんな大声で宣言出来るな。
躊躇いとかないのか。
「おい、大杉。また、こいつと話しているのか?」
背後から話し掛けて来たのは、最近距離を取っていた糸式先輩だった。
恐らく、今のやり取りは聞こえてただろうな。
表情が修羅の顔になっている。
今すぐにでも噛み付くのではないかと心配だ。
「お前、この間うちの学校へ来てただろ。あの時何をこいつと話してた」
回りくどい言い回しなどせずに直接聞きたい事を聞く。
実に糸式先輩らしい質問だ。
だけど、この場ではまずい。
他に見ている人も多いし、それにコイツには口止めをした訳ではない。
お喋りな雷郷ならうっかり口を滑らせるなんて事もあり得る。
「何って、コイツと世間話してただけだっての。てか、お前誰?」
意外にも質問を質問で返すという高等テクニックを見せる。
ちゃんと他人には転生者だと隠すつもりがあるのか?
そうだとするなら、前の行動は迂闊過ぎるだろ。
「糸式紡。お前らを倒す男だ」
「おぉー!熱くなっちゃって!カッコいいねぇー!」
挑発を続ける雷郷。
だけど、糸式先輩は動じない。
糸式先輩が怒りやすいと知っていて、敢えて有耶無耶にする為に挑発したのだろうが失敗だな。
俺への疑念を解き明かすのが最優先になっている。
俺と雷郷と糸式先輩。
何も話さないけど、その場を動く訳でもない謎の空間が完成した。
「風太ー!そこで何してんだよー!お前が見当たらないから監督焦ってたぞ。遅刻か無断でサボってるんじゃないかって」
「サボるかよ。こんな面白い試合、公式戦でも中々ねーよ。それじゃあ、2人ともまた後で。バイビー」
最後の最後で魂の年齢が透けて見えてキツイ。
俺も元々はおっさんだったけど、相手はそれよりも年上くらいだったのかよ。
世の中ってのは知らなくて良い事も多いな。
「何を隠そうとしているのかは気になるが、詮索するのはやめた。どうせ、お前もアイツも上手い事尻尾を隠しそうだからな」
「そんな隠し事だなんて。でも、誰にだって言えない事も1つや2つあるでしょ」
「あぁ、誰にでもな」
意味深な言葉を残して、敷地内へと入って行く。
今回は環成西球場をお借りしての対戦となった。
続々と集まる両校の関係者達。
その人数の多さに圧倒されてしまう程だ。
保護者の方やどこからか情報を聞き付けた街の人までいるな。
いや、待てよ。
あれはスカウトマンじゃないか?
練習試合のはずなのに、スカウトマンが複数人。
街の人に紛れているが俺には分かる。
顔は何度も見てきたからな。
でも、どうして。
駒場はまだ球界から発掘される程の活躍はしていないはず。
・・・そうか、アイツか。
雷郷を観に来たのか。
それなら納得だ。
祖父の雷郷高清は、球界でもかなりの有名人だからな。
その孫となれば注目が集まるのも頷ける。
「早くしないと気付いたら始まっているぞ、大杉」
声を掛けて来たの今日のスタメンである橋渡。
気のせいでなければいつもより気合いが入っている様に思える。
「肩に力が入り過ぎだよ橋渡」
「うっ、竜田は起用されると思っていたがまさか俺もとは。思ってもいなかったから、少しだけ緊張しているだけだ。その内、本調子になる」
「橋渡が外野手として他の人より優れているからだと思うけど」
「俺が?いや、俺はまだまだだ。だけど、選ばれたからには全力を尽くす。それは変わらない」
本人は自覚していないが、恐らく彼のステータスは爆上がりしているはず。
直接見た訳ではないけど、そんな予感がするんだ。
「それにしても今日は糸式先輩が先発だったよな。かなり気合いが入っているみたいだった」
「それはみんなそうだよ。相手は県大会優勝候補。ここに勝てば、俺達だって大会で勝てる可能性があるってことだ。だから、真剣な顔にもなる」
中に入ると軽いミーティングと準備が行われた。
今回の試合は当初から決まっていた様に糸式先輩と獅子頭先輩の登板機会は絶対にあるらしい。
その2人が出るなら殆ど俺の出番はないと思うけれど、いざという時の為に準備をしておいて損はない。
「それでは両チーム、整列をしてください」
恐らく、相手チームのOBであろう恰幅の良い審判が整列を呼び掛ける。
それに合わせて、俺達も慌てて並んで対戦開始の挨拶を行う。
そして、ジャンケンで先攻、後攻を決める。
結果は負けてしまい先攻だ。
そうなるといきなり雷郷の投球から始まる。
少し不安ではあるがそれと同時に楽しみでもあった。
グローブをはめた雷郷は軽く飛び跳ねる。
これが彼なりの気合いの入れ方なのだろう。
そして、少し間を空けてからの投球。
1球目は誰もが注目している。
どんな球を投げるのか。
雷郷の孫というステータスが余計に周りからの期待を集める。
投げられた1球目。
これが全員の度肝を抜いた。
あの雷郷高清の雷鳴よりも遥かに鋭いナックル・雷神。
俺は事前に知っていたがそれでも驚きの方が勝る。
ざわつく観衆。
そして、1番驚いているのは打席に立っている竜田だろう。
あの球をどうすれば攻略出来るのか。
それを考えるのに必死だ。
「まだまだいくぜ!」
止まらない雷郷の投球。
2球目は、先程のナックルをより活かす風の様に緩やかなシンカー・風神。
いきなり、魔球2種類を見せてくるとは。
これは全員の印象に強く残る事だろう。
さて、ここからどうやって攻略していくか。
今はまだ思いつかない。
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