第064話 赤点事件 後編
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
「何だよ。もう終わりだったのになんで止めるんだよ。橋渡からの謝罪も聞けたし、俺達は満足だろ」
「満足とかじゃないだろ。それに俺は橋渡の言いたい事が理解できる。お前ら真剣に勉強や練習に取り組んでいなかっただろ」
御手洗は、はっきりと言った。
まさか同じ赤点組の御手洗から言われると思っていなかったのか少し狼狽えている。
だけど、彼らもここまで来れば引き下がれない。
自分達は悪く無かったんだと言い張る他ないのだ。
「俺達が真剣じゃなかったって?ふざけんな!レギュラーになれるように毎日血と汗の滲む努力をしてたんだよ。勉強だってそうだ。普段からちゃんと勉強はしていたけど、あの結果だったんだ。仕方ないだろ」
「仕方ない仕方ないって、そればかりだ。じゃあ、お前がもしも試合に出て負けた時も仕方ないで片付けるのかよ」
「それは飛躍しすぎだろ!」
「飛躍なんてしてねぇーよ。お前らのその心構えがチームを弱くするんだ」
「テメェー、橋渡と似た様なことばかり言いやがって!」
赤点組の1人が拳を振り上げた。
それも昨日と同じ奴だ。
コイツはきっと感情的になるとすぐに手が出したくなるのだろう。
部活や学校の事を考えて、毎回踏み止まっている様子だが、これでは社会に出た時に心配だな。
しかし、御手洗は逃げる様子は無かった。
自分の言っている事はそれぐらいでは曲げない。
そんな思いが伝わって来る。
「そこまでにしとけよ。暴力沙汰になったら俺もそれなりの対処をしないといけなくなるからな」
万常先輩の一言で振り上げた拳は下ろされた。
彼もそこまで理解出来ない人間ではないらしい。
今回は先輩達が目の前にいる。
第三者がいる前で暴力を振るえばどうなるかは分かるようだ。
昨日も辛うじて暴力沙汰にはならなかったし、最後の最後は理性が働くのが唯一の救いだな。
「めんどくせぇー。謝罪も聞けたし、双方納得しているならこれで終わりだ。それで良いですねキャプテン」
「今回の件は1年生同士で起きた争いだ。今後は俺達の介入がなくても解決するように。橋渡は残って、後は教室に戻って良い」
なんか納得の出来ない事件だったな。
怒られた理由は赤点だった。
それで怒られるのは当然だ。
加えて彼らは勉強や部活を真面目に取り組んでいた訳ではない。
橋渡の言い方に棘があったにしろ、反省すべきは赤点組だと俺は思うんだがな。
「橋渡がレギュラーなんかにならなければ調子に乗ることなんて無かったんだよ」
こいつら終わってもまだ言って来るか。
橋渡も謝罪したんだし、いい加減納得しろよ。
「おい、お前ら待てや」
ここで意外にも早く帰りたそうにしていた糸式先輩が待ったをかけた。
これには赤点組も動揺する。
今から何を言われるのか分からない。
すぐ切れることで有名な糸式先輩は恐れられている様だ。
「今の話とレギュラーの件、どう関係してんだよ」
「いや、なんでも・・・」
「なんでもじゃねーよ。はっきり言えよ」
「レギュラーになって調子乗ったから俺達に説教してきたと思うので」
「レギュラーは全員調子に乗ってるとでも言いたいのかよ?お前らはレギュラーじゃないから普段から真面目に取り組んでいるって言いてぇーのかよ」
「そういう訳では」
「じゃあ、どういう訳だ?レギュラーになった奴の覚悟ってのがお前は分かんのかよ」
「そこまでにしておけ。糸式、お前らも最後の最後で余計な事を言うな」
「愚痴を溢すのは勝手だけど言葉には責任持てよ。ガキじゃねーんだから。お前らの軽はずみな発言がどれ程の意味を持ってるのか、少しは無い脳みそ使って考えろ」
それを聞いた赤点組は果敢にも糸式先輩を睨み返して、空き教室を去って行った。
残されたのは、先輩2人といつもの4人組。
橋渡は何も言葉を発さない。
言いたいこともあるだろうけど、胸の奥にしまっているようだった。
「ったく、あんなのが野球部にいたとはな。やる気がない奴は組織の内部を蝕む。これは早めの対策が必要ですよ、キャプテン。・・・キャプテン?聞いてますか」
万常先輩は糸式先輩の話を一切聞かずに橋渡の方を見ていた。
そして、しばらくしてから橋渡が喋らないのを確認してから口を開いた。
「今回の件で橋渡、お前が反省すべきだった点はなんだ」
「言葉を選ぶべきでした。俺はただ彼等の生活態度を改善したくて、いや、許せなくて注意をしたつもりでした。ただ、そのせいで俺の思っている以上の事態になってしまいました。申し訳ありませんでした」
「反省すべき点は分かっているみたいだな。それも踏まえての本心は」
「俺は・・・俺はあいつらに負けたくありません。学業を疎かにして、部活も中途半端。その責任を棚に上げ、他人からの叱責に耳を傾けない。そんな奴らに負けたくない。俺はアイツらのお陰で強くなれる気がします」
「そうか。それで良い。お前がレギュラーになったのは運でも忖度でも何でもない。実力だ。僻む者もいる、引き摺り下ろそうとする者もいる。だから、橋渡は強くなり続けなければならない。頑張れよ」
先輩達2人も空き教室から出ていった。
結果的には仲直りなんて事はならなかったが、形式上は解決ということになったのだから、表立って文句を言ってくる事はないだろう。
「これで良いんだよな」
御手洗は戸惑いながらも問い掛ける。
確かにスッキリとはしない事件だったが、これで良い。
橋渡も口は災いの元だと学んだはずだ。
これからは少しくらい口の悪さが改善されるだろう。
「3人共悪かったな。なんか巻き込んでしまって」
「気にしなくて良いんじゃない?もう終わったし。あ、でも御手洗は追試しっかり受けないとな」
「うっ、俺もあと1点だったんだよ。あと1点あれば赤点回避出来たのに」
「まさか、あれだけ頑張った数学で赤点取るなんてね」
「言うなよー。俺だってショックだったんだからー」
「そうだな。数学はまた一緒に頑張ろう」
橋渡は少しだけ笑顔に戻っていた。
教室へ戻ると莉里と舞葉は、心配そうにこちらを見ている。
マネージャーである彼女達も多少は昨日の事が耳に入っているだろう。
だから、先輩2人に呼び出された俺達を見て心配してくれたのかもな。
「あのさあのさ、大丈夫だった?」
橋渡本人に聞くのは躊躇ったみたいで俺に話し合いの様子を聞いてくる莉里。
別に隠す様なことではないと思ったので答える。
「大丈夫、大丈夫。丸く収まったのかな?」
「でも、昨日殴り合られ掛けたって。それって相当ヤバいでしょ」
舞葉も流れで会話に参加する。
「実際に殴られた訳ではないから、ギリギリ問題にはならないと思う。物に当たったのはいただけないけど」
「えっ!?それ激ヤバじゃん!」
「物は破損してなかったし、元の場所に戻したから大丈夫だと思うよ」
「でも、殴られなくて良かったですよ」
「それはそうなんだけどね。でも、今回の一件があった事で得られた物もあるみたいだ」
メラメラと燃えている彼の魂。
それは今後の糧になる。
これは想定もしていなかった事件だ。
もしも、これがキッカケで他の誰にも負けない実力を得られるのなら見てみたい。
今の俺はそれ程橋渡に期待していた。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!
あ、毎日21時投稿予定です。




