第063話 赤点事件 中編
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昨日からクラスの雰囲気は変わった。
いつも賑やかな野球部が誰も言葉を発さない。
それはマネージャーを除いた全員だ。
不必要に近寄る事もなく、かと言って授業中に分かりやすく避けるなんて事もしない。
ただ、なるべく1人でいる事を選んでいる。
そんな状況だ。
これにはクラスの全員が異様だと気付いている。
だけど、それと同時に簡単に触れてはいけない問題というのも気付いているのだろう。
「ねぇー、みんな何かあったの?」
いや、ここに1人だけ気付いていない人がいた。
質問に答えてあげたい気持ちもあったけれど、この静かな空間で声に出して教えればみんなに聞かれる可能性もある。
だから、俺は携帯を取り出してわざわざメールを作成した。
『昨日、赤点取った奴らと橋渡が揉めて。更には殴り合い寸前の事件も起こった。だから、数日くらいはこの感じだと思う』
『待って、待ってよ。喧嘩って何?しかも、殴り合いになり掛けてたって?聞いてないんですけど、アタシ』
『あの場にいたのは赤点組と俺、竜田、橋渡ぐらいだったから。でも、あの場にいなくて正解だったと思うよ』
『なんで?』
『地獄絵図みたいになってたから』
その言葉を見てメールではなく直接俺に問いかけてくる。
勿論、言葉は一切発さずに表情だけで。
俺もその問いに黙って頷く。
これからどうしたものか。
昨日から頭を悩ませているが答えが出ない。
無理矢理の仲直りで納得出来るなれそれが1番だ。
だけど、可能性として低いだろうな。
そろそろ授業が始まる。
考える事は山程あるが、一旦今は授業に集中する事にした。
昼休みになるとみんながそれぞれの机で黙々と食事をする。
普段なら2組くらいになってワイワイガヤガヤ、うるさすぎて怒られるのでは無いかと思う程だ。
これは早急な解決が必要だな。
仲違いしてしまった状況では、学校生活と部活どちらにも悪影響が出る。
現にこうなってしまっているのが、その証拠だ。
解決方法は2つ。
両者の謝罪をしてあの時の事を清算する。
もう1つは、橋渡が大人になって一方的に謝る。
後者は、この状況をどうにかするためだけの手段でしか無い。
わだかまりは残る。
それに、橋渡がはい分かりましたと言って、謝罪の言葉を述べるとは思えない。
確かに橋渡の言葉も一理あるからだ。
だからこそ、彼は謝罪しない。
「これは困った事になったね。僕がどうにか出来れば良いんだけど」
竜田も悩んでいた。
どちらの言い分も分かる現状で、どちらか一方だけ損をする結末は望まない。
だから、残された数少ない正解の糸を慎重に手繰り寄せる。
「おい、1年。お前ら後で集合しろ。特に昨日部室で揉めた奴らはな」
食事中に現れた糸式先輩。
少し乱暴に扉を開いた。
彼が何故ここまで怒っているのかは言うまでも無い。
昨日の件が耳に入ったんだろ。
いつもなら厄介な事になって来たと思うところだが、今回ばかりは有難い。
先輩達が介入してくれたら丸く収まる可能性も出てくる。
先輩に逆らうなんて事は流石にしないだろうからな。
食事を終わらせた俺達は言われた通りに集合する。
場所は始めから指定されていた空き教室。
入ると糸式先輩と万常先輩がいた。
てっきり糸式先輩だけかと思っていた俺達は戸惑う。
この中に入ればきっと重たい話が始まる。
だから、1歩目を踏み出す勇気がない。
「何してる?早く入って来い」
声を掛けられてしまったら入らない訳にもいかない。
俺を先頭にしてぞろぞろと空き教室へと入る当事者達。
最後に入って来たのは不服そうな橋渡。
相手が誰であろうと自分の意見が間違っていないと信じている様だ。
「今回の件、話は聞いている。俺がこの場にいるのはそれを部長として解決する為だ。しかし、口を挟むつもりはない。好きに話し合え。ただ、この場で全てを終わらせる様に」
「俺がヒートアップした時の仲裁役、そして万常先輩は見届け人だ。どちらも口を挟むつもりはないが、くだらねぇー言い合いしたらどうなるか分かってるよな」
落ち着いて事を対処しようとしている万常先輩と違って、糸式先輩は好戦的だな。
わざわざ1年のいざこざに駆り出され、貴重な休み時間に尻拭い。
俺が同じ立場でも苛立っているはずだ。
なんでこんな事をしないといけないんだってな。
氷道先輩や後藤先輩、獅子頭先輩などでないのは、いざとなった時の抑止力が圧倒的に違うからだろう。
「解決と言っても俺は本心を言ったまでです」
「最初はテストの結果の話だったのに、いきなり普段の行いがどうこう、心構えがどうこう言ったじゃねーか!」
「くだらねぇー・・・。本当に高校生かよコイツら」
俺達にも聞こえてはいるが控えた声で呟く糸式先輩。
その意見に関しては少し同感です。
しかし、彼等には譲れない想いというものもある。
始めは赤点でもここまで発展してしまったら後に引けないのだ。
それが学生特有のプライドだ。
「キャプテンは口挟まないって言ってたけど、俺はさっさと終わらせてんだよ。お互いに解決策を言え。そっから納得する様な案を出せば良い」
「俺は橋渡の言った事を撤回して欲しい。確かに赤点を取ったのは俺達の落ち度だけど、それでも覚悟どうこうを言われる筋合いはない」
「それが本当にお前らの求める事なんだな」
「当たり前だ」
「・・・なら、俺から求める事はない。謝罪を求めるなら、それに応じる」
やけにすんなりと受け入れるんだな。
日が立って冷静になったか?
いや、違うな。
あの目は諦めている目だ。
橋渡の真意はただ彼等に素行を改善して欲しかっただけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
口が悪いのだけが橋渡の欠点だな。
「そうかよ。なら、謝れ。てか、そうするなら最初から喧嘩腰で来るなよ」
「すまなかった。今回は俺が言い過ぎた」
「最初からこうしてれば、先輩方を巻き込まずに済んだのに」
それを最後に言う必要があったのか。
折角、大人になった橋渡の謝罪も無駄になった訳だ。
悪気があったにしろ、無かったにしろ発言には気を付けた方が良いと今回のことで学ばなかったらしい。
「なんだよ。これで終わりか。じゃあ、解散だな」
「待て、糸式。今、発言した者以外の者もこれで納得したんだな。それだったら、糸式の言う通りこれで終わりだが」
最後に万常先輩が全員に問い掛ける。
この意図は何か。
俺には少しだけ分かる気がする。
橋渡だけが悪者にされている構図におかしいと気付ける者はいないのかという意味だと勝手に解釈した。
その意図を汲み取って俺は手を挙げようとする。
するともう1人手を挙げる者の気配を感じてさっと下ろす。
「今回の件に関して、赤点を取ったという事実が俺達にはあります」
手を挙げたのは御手洗だった。
ここまで黙っていた御手洗は続けて意見を述べる。
「それで今回の様な事が起こりました。責任の所在は俺達にもあります」
「何言ってんだよ!もう橋渡の謝罪も聞けたし、良いだろ」
「加えて、今回の橋渡の言葉は厳しくも俺達の姿勢を問うものでした。決して、一方的に非難するものではありません」
「そうか。続けろ」
御手洗の発言によって、まだ話は続くことになりそうだ。
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