第062話 赤点事件 前編
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「これはどうなってんだ!お前ら!」
橋渡が1年生を正座させていた。
しかし、全員ではない。
そこに正座させられている人には一定の条件を満たした者。
つまりは、やらかした人という訳だ。
ちなみに俺はそこにいない。
「いやー、これはだな。頑張ってはみたんだけど」
「言い訳はいらないぞ。これが結果だからな」
部室に広げられたテスト用紙。
そして、それは1枚の例外も無く赤点が広がっている。
よくもまぁこんなに赤点があるもんだ。
1人分では無いにしても多すぎる。
本当に勉強したのかよ。
御手洗の赤点は1教科だが、他の生徒はそれなりにある。
中には4教科も赤点がある奴も。
普段は優しい竜田でさえもため息をつくレベル。
勉強はしろとあれ程言ったのに、この結果では目も当てられないな。
「どうしてこんな結果になったんだ。赤点はあれ程取るなと言ったのに」
「しょうがねーよな。テストも頑張らないといけない気持ちもあったけどよ、そろそろ波王山戦だろ?俺達に出番が無いってのは分かってるけど、野球の方に集中したい気持ちも分かってくれよ」
チームメイトの1人がそうやって言い訳した。
言いたい事は分かるけど、それが言い訳になるかどうかは別問題。
両立しながらでも赤点を回避した者はいるのだからな。
それに厳しい事を言えば、普段の授業をきちんと聞いていれば赤点は取らないレベルのテストだ。
これは授業態度の改善も必要かもな。
「テストも努力はした。練習も努力した。だから、責めるな?そう言いたいのか?」
「そうは言ってねーけどよ」
「悪いが、俺は結果の実らない努力を努力とは呼ばない。全て成功させて初めて努力だと思う」
「何が言いてぇーんだよ、橋渡。言いたいならはっきり言えや」
これは雰囲気が悪くなって来たな。
橋渡が言いたいことも一理あるが、本人がいる前でわざわざ言わなくても良いだろ。
そんな事したら相手が怒るのは目に見えている。
頼むから続きの言葉は発さないでくれ。
これ以上は揉め事になる未来しか見えない。
「俺達は全力を尽くした。だから、文句を言うな、慰めろ?そんな魂胆が見え透いている気がしてな。勘違いだったら悪いな」
「おい、冗談でも言って良いことと悪い事があるだろ!」
同じ1年の1人が橋渡の胸倉を掴んだ。
1歩間違えれば、大問題。
「本気でやったなら結果を示せ!何も無い物を自慢げに誇るな!」
橋渡は声こそ荒げたけれど、至って冷静だ。
しかし、相手は違う。
構えた拳は次の質問の答えによっては飛んでくることになる。
「俺らの気持ちは汲んでくれないのか?俺達は確かにレギュラーに選ばれなかった。だけど、・・・だけどな!!!お前らと肩並べる為に血反吐吐いてでも喰らい付いてんだよ!」
「それじゃあ、お前は俺に勝てないぞ。努力なんてのは誰にでも与えられている。1やって満足しても、相手は2歩先を行ってる可能性だってある。やったから理解しろなんてのは通じない。まして、今回の件に関して言えば、赤点を取ってしまったのは努力だけの話ではない。普段の授業を、普段の課題を、日頃の当たり前を拾えていないお前達に落ち度がある」
「この野郎ッ!」
ついに手を出してしまいそうになるチームメイトの男。
しかし、殴ると問題になると判断したのかその場にあった物に当たる。
虚しく音を立てて転がる備品。
壊れていないのは奇跡だ。
それを見た御手洗が、これ以上被害を出さない為抑えに入る。
「おい、やめろ!これ以上続けても」
「離せ御手洗!お前も俺達と同じ気持ちだろうッ!」
「やめろって言ってんだよ!!!」
いつもの御手洗からは想像出来ない程真剣な声。
赤点を取るのは問題だが、まさかここまで発展したとは。
「頭を冷やせ。テストも終わった。赤点の者もいるけど、追試を受ければまた練習に参加出来る。感情的になるな」
非常に冷静な一言。
この場を1番冷静に見れたのは意外にも御手洗だったか。
竜田かと思ったが黙ってこの場の流れを見届けている。
「橋渡、お前の言いたい事は十分理解出来る。だけどな、理解出来るのと実行に移せるのかどうかは話が違う。全ての人が等しく動ける世界は存在しないだろ?だから、俺達が今出来る最高を見せているつもりだ。慰めや共感が欲しい訳じゃ無い。ただ、お前らに負けたく無いだけだ」
「・・・テストの結果だけじゃない。だけど、これ以上ここで言うのはやめておく。俺を嫌うならそうしろ。端から好かれるタイプではないと知っているからな」
少し乱れた部室を戻すと何事も無かったかの様な顔をして、橋渡は練習場へと向かった。
この一連の流れ、橋渡はお怒りだったがしっかりとした訳がある。
言い訳をしていた彼等は勉強をしていない。
自習時間は適当に雑談やゲームをしていたのをよく見かけた。
他の生徒だってそうだ。
テスト期間で部活が休みだったのに勉強もせずに遊んでばかり。
これで言い訳まで始めたら流石に腹も立つ。
部活も頑張っていたかと言われたら、あまりそうとも言えない。
橋渡の方が最後まで残り自主練をして、他の部員と違って練習中もサボるなんて事は一切ない。
「クソッ!なんだよアイツ!レギュラーだからって調子乗りやがって。たかだかテストでそんな人生変わるかよ」
「おい、やめとけ。この話はこれで終わりだ」
御手洗がこの場からいなくなった橋渡の悪口を言おうとするのを止める。
いない所で言う悪口程醜い物は無い。
彼も感情的になっているだけなので、これ以上の失言は後々に響く。
それを冷静に察知した御手洗だった。
「ねぇ、大杉くんはどう思う?確かに赤点組はちょっと素行が悪い気がするけど、なんか橋渡も様子がおかしかったよね」
「あぁ、確実にね。どう考えてもいつも通りって感じではないよ」
練習試合が近付いている焦りか、それとも他の要因があるのか。
どちらにせよ、心配にはなる。
すぐにでもその訳を聞きたい所だけど、今はそっとしておいた方が良い。
同じクラスなので明日にでも聞けば良いからな。
「ふっー、アイツら宥めるの苦労したぜ」
「お疲れ様、御手洗くんがいて助かったよ」
「どっちの気持ちも分かるからな。橋渡も口は悪いけど、根は真面目で良い奴なんだよ」
「そんなのは俺がよく分かってる。口は悪いけど」
「さぁ、橋渡くんの所行こうか。1人で練習するよりはみんなで練習した方が効果的だしね」
しかし、御手洗だけは動かなかった。
黙って地面を見ていた。
「先に行っててくれよ。俺も後から行くからさ」
その笑顔はいつも見せる笑顔とはどこか違って見えた。
だけど、この時の俺は何も気にすることなく練習場へと向かうことに。
御手洗はその後どれだけ待っても俺達の下へ来ることは無かった。
1人でいる時間が欲しかったのだろう。
彼も赤点を取った生徒だが、他の奴らとは違う。
本当に頑張った結果、赤点だったのだ。
途中、赤点組を庇う姿勢も見せたが思う所があったのかも知れない。
みんな感情的になっているが日が空けば冷静になって、また元通りになる。
そうだと俺は信じたい。
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