第057話 大人になってしまった子供は
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5月が始まって3分の1が終わった辺りの今日。
俺はいつものように練習をしていた。
昨日は雨が降っていたのに今日はカラッとしていて暑さを直接感じる。
「それにしてもステータスが伸び悩んで来たな」
球速:127キロ→130キロ
制球:36+5→37+5
持久:34→36
スキル:NEW 渾身の一球 A
渾身の一球を怪し過ぎる漢方で入手した事以外は、入学当初の快進撃と違って穏やかな成長だ。
ステータスが伸びていること自体は良い事なのは間違いないんだけどな。
普通のプレイヤーならここまで成長させるのは無理だと自画自賛をしたい気持ちと、俺ならもっと伸ばせるはずだと言う気持ちが両立している。
実際、ステータスを伸ばすのは可能かどうかで言えば可能だ。
兼望のおっさんと金狼に知り合えたので、毎週草野球に参加して10万の謎の漢方を爆買いするコンボ。通称、金持の勤労コンボがある。
10万漢方は5%スキル獲得、5%ステータス上昇。
つまりは、10%何かしらのメリットを得られる。
週に1〜2つ10万漢方が集められたら、最強への道のりは近い。
ただ問題点があるとしたら、90%で10万を泥に捨てるという危険性だ。
幾らお金を稼いでいるからと言っても毎週その金額を無駄に払っていれば大赤字になる。
作戦としては可能だけど、一長一短だな。
「出席とるぞー」
担任が面倒くさそうに入って来た。
今のステータス問題は早い内に解決しなければならないと思いながらも、担任の話に耳を傾けた。
10分聞いても、20分聞いても話の内容はいつもと変わらず取るに足らない事ばかり。
これだから、ホームルームの話って聞くかどうか迷うんだよな。
「おはようございます」
担任が話をしている中に遅刻して入って来たのは、宇佐美だった。
彼女は仕事もしている関係上、遅刻や早退が多い。
それでも学校へ来るのは卒業資格も取りたいからだろう。
「おはよう。話は事前に聞いてるから、早く座れ」
担任は宇佐美にそれだけを言い放ち、話を続けた。
やっと担任の話が終わり、ホームルームも終わる。
それと同時にクラスメイト達も散らばり始めた。
仲の良い生徒の下へ行き、雑談を楽しむのだ。
1人を除いて。
宇佐美は携帯をいじっていた。
誰からも声を掛けられず、1人で黙々と。
最初の印象が悪過ぎたのが問題だけど、あの笑顔を見た日から少しだけ可哀想にも思えた。
何か理由があって他人を拒絶している様にも見える。
だからと言って、話し掛けたとしてもまともに相手をしてくれるかどうか。
冷たい言葉を吐かれて終わりな気もする。
何かきっかけがあれば話しやすいんだけどな。
「はい、これ。プリント回しておいてね」
前の莉里からプリントを渡された。
どうやら何かのお知らせの紙が配られたらしい。
内容自体はあまり俺達に関係のない事だが、これで少しくらいは話すきっかけになるかも知れない。
そこでどうして人を拒絶するのか、少しくらいは知りたい。
「これ、前から回って来たプリント」
携帯を置いて、無言で受け取る。
これは会話にならなそうだ。
少しの間、プリントに目を通すとまた携帯を触る。
これは守りが高過ぎる。
学校以外では友達とかいるのだろうか。
「何?ジロジロ見て」
流石に気分を害したのか直接俺に文句を言う。
こんな言葉でも発してくれただけ進展か?
いや、それは流石に飛躍し過ぎか。
でも、多少は会話をしてくれる余地がありそうだ。
「それ、結構流行ってるよなと思って」
「それ?あぁ、このアプリね。貴方もやってるの?」
おぉ、話し掛けたら意外にも質問で返って来た。
彼女がやっているのはパペットモンスターというソシャゲ。
ダイヤモンドベースボール内でもミニゲームとしてプレイ出来る。
完全クリアの為に俺もプレイした事があるけど、これは中々奥が深い。
ガチャから人形のモンスターが出て来て戦う。
モンスター達にもレアリティは存在するけれど、驚く事にどのモンスターでも最強になれるのだ。
これ以上は話が長くなりそうなので、パペモンの説明はここまでにしておく。
「俺、パペモン好きなんだよ」
「・・・どの子が好きなのよ」
何故だろう、パペモンの話になった途端喰い付きが良くなった。
まさか、普段の自分のキャラを忘れる程パペモンが好きなのか。
そうだとしたらこれは有力な情報だ。
「ペアベアーかな。強いし」
「ふーん・・・」
聞いておいてその返事はないだろ。
でも、口では素っ気ない態度を取っていても、ソワソワしているのが見て分かる。
でも、俺から何かまた話し掛けるのも嫌なのではないかと思い、前を向いて次の授業の準備をする。
彼女もそれ以上は話そうとする素振りは見られなかった。
放課後、練習へ行く前に教室へ忘れ物をしたので取りに戻ると外を眺める宇佐美がいた。
誰もいない教室に1人。
何をしているんだと声を掛けそうになるが1人でいるのを邪魔するのも悪いか。
しかし、教室には忘れ物が置いてある。
重要な知らせのプリントがあったから取っておきたいけど、また今度でも良いか。
「入って来ないの?」
考え事をしている間に俺の横へ来ていた宇佐美。
驚いてしまいビクッとなる。
「入ろうにも黄昏れてる女がいて入らなかっただよ」
「悪かったわね、黄昏れていて」
「今日は仕事無いのか?」
「えぇ、そうよ。そうじゃなければここにいないわ」
少しは会話をしてくれるようになったと思えば、素っ気ない返事ばかり。
でも、会話してくれるだけ成長か。
「外、何かあるの?」
「いえ、何も。だから、見てるのよ」
「何も無いから見てる?それは哲学か何かかな?」
「別に理解して欲しいとは思わないから良いのよ」
プリントを取りに来ただけなのでさっさと回収して練習に行かないと。
引き出しの中を漁り、綺麗に折り畳まれたプリントを見つけ出す。
そして、さっさと練習へ行こうと思ったがふと宇佐美の見ていた外が気になり眺める。
外はまだ明るく部活をしている生徒達が所々見える。
何を見ていたのか彼女は言わなかったが、少しだけ分かるような気がした。
俺も大人になって学生を羨ましいと思う事が多かった。
子供のままでいられたらどれだけ楽だろうと思うこともしばしば。
宇佐美はまだ子供だ。
それなのに、大人と同じ環境を生きている。
年相応の生活を望んでいるのではないか。
そんな俺の勝手な妄想。
「私は何回この景色をここで見れるのかな」
基本的に学校が終わる前にいなくなる事の多い宇佐美。
そして、帰る頃には辺りが暗くなっているだろう。
答えられなかった。
その問いに秘められた思いは、俺が答えられるほどの重さでは無いから。
「じゃあ、俺練習行ってくる」
「えぇ、さようなら」
彼女が交わした挨拶の言葉。
それが交友を深めた証に思えると同時に、少しだけ悲壮感がある。
彼女のストーリーはゲーム内では存在しない。
だから、この先の展開も知らない。
だけど、少しでも彼女が笑っていられる物語である事を願うばかりだ。
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