第101話 残すはたった1つ
湯楽第一戦・スターティングメンバー
1番:捕手・竜田(1年)
2番:遊撃手・万常(3年)
3番:中堅手・橋渡(1年)
4番:一塁手・堀枝(1年)
5番:三塁手・後藤(2年)
6番:左翼手・氷道(2年)
7番:二塁手・時透(3年)
8番:右翼手・日下部(3年)
9番:投手・駒場(1年)
今日は合宿最終日だ。
つまり、他校との練習試合が行われる。
相手はどこなのかまだ知らされていないけれど、楽しみという気持ちは変わらない。
「おーい!対戦相手が来たみたいだぞ!」
御手洗が慌ててこちらへ駆け込んで来る。
「湯楽第一高校だ」
俺はその高校名を聞いて驚きはしなかった。
どんな選手がいたかも思い出せない程のモブの集まりだ。
これは決して貶している訳ではない。
ゲームが進行する上で、各高校に1人くらいは光る物を持ったキャラがいる。
だけど、この高校はそれがないのだ。
一説には、チュートリアルに出るはずのチームだったとか、テストプレイのデータが誤って入ったなど散々な言われていたらしい。
強さは中の中。
弱くはないが、波王山や水炎寺程の実力は無い。
焦らずに自分の実力を出し切れば勝てると思う。
今の環成東はそれくらい強い。
「今日は頑張ろうぜ、大杉」
見るからに機嫌の良さそうな駒場がやって来た。
何でこんなにも機嫌が良いのか。
その理由は単純だ。
「今日は先発だからテンションが高いね」
「そうなんだよ。しかも、俺自身が勝ち取った先輩だからな」
「あのストレートと魔球見せられたら監督も選びたくなる。いつの間にあんな成長してたんだよ」
「あー、まぁ、それは秘密だな。お前にこれ以上強くなられても困るし」
冗談でそんな事を言って来る駒場。
しかし、その心配はいらないだろ。
あんなの真似したくても真似出来る物じゃ無い。
駒場という男の才能があってこその物だ。
「ほら、みんな準備始めているみたいだからいくよ」
見た所、湯楽第一も集まり始めているみたいだ。
俺達が遅れて試合の時間に影響が出たら、結果以前の問題になる。
それぞれ準備を済ませると整列する。
公式戦が間近な事を考えると練習試合は恐らくこれで最後。
最終調整の場ならそれぞれの想いもそれなりにあるはずだ。
挨拶を済ませて、それぞれのベンチに戻る。
今回の試合は俺達の攻撃からだ。
1番竜田から好調だった。
相手のスローカーブを流して打ち込むと一塁手の頭を超えてヒットに。
続けて、万常先輩も140キロのストレートを三遊間に飛ばして、一、二塁で得点圏に走者を送り込む。
3番橋渡、4番堀枝と続いてあっという間に先制点をいただく。
これには相手の投手も開いた口が塞がらない。
だけど、力の差を実感するのはまだ早い。
ここからもどんどん点を取るつもりだ。
1回表終了時点では点差は3点。
これはかなり好調なスタートだ。
相手はこの点差に驚いているが、驚くのはまだ早い。
次はこちらの守備だが、投手は駒場。
彼からヒットを打てるかどうか。
「なんだよ、アレは・・・」
「これでまだ1年だと?」
敵のベンチは案の定驚いていた。
次々と抑えられていく湯楽第一の打者。
しかし、気に病む必要は全く無い。
駒場が強すぎるだけだから。
このままの勢いで行くと余裕を持って完投するだろう。
応援したい気持ち半分、複雑な気持ち半分だ。
頼むから俺達にも登板機会を回してくださいよ監督。
俺と同じような気持ちになっている人物が1人。
ベンチの糸式先輩だ。
駒場の活躍を見て、複雑な顔をしている。
自分と比べてしまっているんだろうな。
2回も似たような展開になり、点差が5対0。
チームとしての完成度はかなり高い。
強いて言うなら守備がもっと堅ければ完璧だが、そこは投手で補える部分だ。
目立った展開も無く相手から当たり前の様に点を取り、当たり前の様に無失点に抑える。
点差は気付けば10点以上に。
相手は既に心が折れてしまったようにも見える。
いくら練習試合とはいえ、少しくらいは戦う姿勢を見せてくれないと。
「ここからは糸式、いけるか?」
「俺はいつでもいけます」
「気負い過ぎるなよ。俺は糸式、お前の強さは知っている。だから、ここで立て直してこい」
「はい。ちゃんと結果は残します」
6回でやっと糸式先輩の出番が来る。
これ程の点差が付いてたから登板する訳ではない。
糸式先輩ならこの短い登板機会でも実力を発揮してくれるはずだから登板する機会を与えられた。
ここで期待に応えられないなら厳しい様だがチャンスはない。
「何回、挫折を味わうんだよ俺は。良い加減終わらせろ。・・・俺があの人の意志を継ぐ」
糸式先輩も良い意味で変わっている人だ。
何回挫折を味わおうと立ち上がる。
本人が1番辛いはずなのに。
その姿は他の人が簡単に真似できることでは無い。
口は悪いがその部分だけは尊敬出来る。
そう思っている間にも糸式先輩がアウトを3つ稼いだみたいだ。
吠える姿が視界に映る。
やっぱりその方が似合ってるな。
その後の結果は言うまでも無い。
試合は相手が可哀想になるくらい圧勝だった。
それ程までに差が生まれてしまった理由は、ステータスの差が理由では無い。
たった1つ気持ちの差だ。
俺達の方が勝ちに対して貪欲だった。
相手は少しでも戦意を失わずに立ち向かっていれば違う世界線だってあったかも知れない。
今となっては全てたらればの話だけど。
全員が整列をして挨拶を済ませる。
相手は気力の無い返事を済ませてそそくさと退場して行った。
「これで残すは地区予選か。今からでも燃えて来たな」
「気持ちは分かるけど、落ち着いた方が良い。そのままのテンションで本番に挑んだら疲れるよ」
駒場は野球の事になると明らかにテンションが上がる。
「いや、このくらいのテンションで常にいたいんだよ俺は。そっちの方が良い球投げられるし」
「確かに今日の投球も良かったしな」
「今、俺の調子は最高潮だ」
いくら調子が良くても本人の調子とは関係なくアクシデントというのは起こる。
いや、寧ろ調子が良い時こそ起こる確率が高い。
糸式先輩も調子を取り戻した今、何が起こっても問題はないだろうけど。
早くも最高の状態を迎えた俺達は最終調整をして地区予選を待つのだった。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!
21時投稿予定です。




