第001話 もしかして、これって転生というやつでは?
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「さぁ、熱狂渦巻く夏甲子園決勝、阪神甲子園球場からお送りしております。現在、9回の裏、星徳学園の攻撃。0対2で後が無い星徳学園。カウントはツーアウト。ここはどうしても出塁したい所ですねー」
「いやー、彼等も頑張っていますけど、対戦相手である環成東の投手は、1年のエース・駒場君ですからね。ちょっと強すぎますよね」
陽炎が揺れるマウンドには、1人の男が立っている。
彼の名は駒場隼人。
1年生にして、甲子園常連校である環成東高校の中でレギュラーの座を勝ち取り、エースとして活躍している。
噂では、国内のプロリーグだけでなく、既に海外リーグからもスカウトの声が掛けられているらしい。
「彼は中高の合計で完全試合数が49試合ですからね。このカウントを抑えれば、50試合となりますよ。まさに超人。彼を止められる選手はいるのか」
「さぁ、緊張感が走る第一球。投げた」
一球目はストライクゾーンのど真ん中を抉るストレート。
球速は155キロとかなり速い。
初球は様子見をしろと指示が出ていた星徳のバッターは、この甘いコースのボールにも反応出来なかった。
指示通りの動きではあったが、もしも打席に立っている彼がバットを振っていたらヒット性の当たりは出ていたかも知れない。
「これは見送りましたね」
「戦略として見送るというのは良くある事なんですが、駒場君に対しては悪手ですね。彼は捕手が構えた所にスパッと投げれる選手なので、1ストライクを無償で提供したのは大きな痛手だと思いますよ」
「続いて第二球。投げました」
2球目は外角高め一杯から内角の低めまで落ちるカーブ。
初球で見せたストレートの効果もあってか、球速は遅く見える。
待てど暮らせど来ない様に感じる二球目に全くタイミングが合わない。
バットが空を切る音だけが鮮明に耳に残る。
「追い込まれました星徳学園。しかし、ここから何が起こるのか分からないのが甲子園です。阪神甲子園球場に住み着く魔物は顔を出すのか否か。三球目、投げた」
先程のカーブを見せた事もあり、再度緩急狙いのストレートを警戒する。
だけど、念頭にはカーブの可能性も置いておく。
投手の手元から球が放たれる。
球速は遅い。
これは先程見せたカーブだろう。
後は、ストライクかボールか。
その判断を厳しく行うだけで良い。
しかし、打者にとって予想外の出来事が起こる。
投げられた球は一向に変化を見せない。
加えて、球速も先のカーブよりも遅い。
三球目はチェンジアップ。
それに気付いた時には悲しみだけが残っていた。
「環成東のエース駒場。完全試合数通算50試合という偉業と共に、甲子園優勝を掴み取りましたーー!」
◇◆◇
「よしゃーー!これで称号コンプリート!パッケージの女の子に釣られて始めた『ダイヤモンドベースボール』だったけど、ようやく全クリだー。いやー、長かった。主人公は好きじゃないけど、女の子可愛いのだけが唯一の救いだったな」
俺はしがない30代後半のサラリーマン。
平日は仕事に追われる毎日で、休日にゲームをするのが趣味の普通の男だ。
今日もいつものようにゲームをしていた。
タイトルは『ダイヤモンドベースボール』。
主人公の駒場隼人を育成しながら、色んな女の子とハーレムを築く、野球×恋愛ゲームだ。
元々野球観戦も好きだったし、パッケージの女の子がどれもドストライクだったので手に取ったのが悪夢の始まりだった。
ゲームをプレイしてみると不満がいくつも上がってくる。
例えば、主人公が強すぎる点だ。
女の子といちゃついているので練習量が少ないのに、甲子園始まる頃にはプロ級のステータスになる。
甲子園優勝しようものならステータスはほぼカンスト。
メインが恋愛って言うのもあって、野球の方の難易度を下げてあるのかも知れないが正直言ってガッカリ。
これなら普通の恋愛ゲームした方がマシだ。
まぁ、お金払って買った以上、称号をコンプリートしたい俺は、今日の今日までプレイしてしまったんだけど。
「腹減ったー。休日って何もする気起きねーよな。デリバリーでもするか」
時間も良い頃合いなのでセーブした後に画面を消そうとする。
しかし、その手は画面に突如として表示されたメッセージによって止まった。
全クリしたはずだから、これ以上は何も残されていないはずなのにどうしてだ。
それにメッセージも妙な言葉だった。
まるで俺に語り掛けている様で気味が悪い。
[新たなる挑戦を受け入れますか] はい/いいえ
こんな現象はネットで検索しても引っ掛からない。
バグにしてはプログラムがしっかりと組み込まれている。
残る可能性は、まだ先が隠されている可能性だ。
ここまで丁寧にこのゲームをプレイしているのは俺くらいだろう。
称号コンプを達成した人がいないから、このメッセージについても情報が無いのか。
勝手に1人で納得していると、メッセージの下にカウントダウンが始まる。
「そんな悪徳業者みたいな手法で決断を迫る事があるかよ!答えは勿論"はい"一択だよな!」
気合いを入れてもう一踏ん張り。
そうすれば、真のエンディングでも見れて気持ち良く寝れるだろ。
あぁ、でも、こんな時に限って瞼が重くなって来たな。
さっきまでエナジードリンクを飲んでいたから、カフェインの効果で眠く無いはずなんだけど。
抗う事の出来ない眠気の様な何かに身を委ねる。
ふわふわとして心地良い感覚が続く。
これなら今日はぐっすりと眠れそうだ。
◇◆◇
ちゅんちゅん
小鳥の鳴く声というのはやはり朝を彩るのに欠かせない。
しかし、昨日が土曜日だったので今日も休みだ。
囀りを子守唄にして二度寝でもしようか。
「二郎!アンタいつまで寝てんのー?春休みだからって寝てばっかりいたら豚になるわよー!」
「うるさいなー。人が折角寝てるのに誰だよ」
下の階から誰かが俺を呼ぶ声がする。
休日だってのに静かに寝れやしない。
さて、贅沢に二度寝の続きを。
・・・え?
今の誰だ!?
てか、そもそも俺マンションの一室に住んでたよな?
何で下の階からはっきりとした声が聞こえるんだ?
待て待て待て!
寝ぼけ眼でよく見えていなかったが、今となってはよく見える。
「ここどこだ」
人間は焦ると意外と冷静になるらしい。
知らない部屋を観察するが、見覚えすら無い場所だ。
お酒も飲んでいないから、酔っ払ってここまで来たって線も薄いな。
でも、素面なら尚更ここに来ない。
部屋を観察している中でふと姿見に映った俺。
そこには本人の俺でも信じられない光景が広がっていた。
背丈は160センチ前半くらいの背丈の少年。
歳は分からないが、高校生になるかならないかのギリギリのラインだと思う。
ここであり得ない話ではあるが、事を理解し始めた。
「もしかして、これって転生というやつでは?」
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