彼女の名前
いつからだろうか、僕は夢の中で誰かに呼ばれていた。その声はとても安心するような声だった。そんな夢がいつも続いており彼女が名前を言いかけたところで夢は終わっていた。今回の夢もそれで終わると思っていた。なのに、今日見た夢では彼女は泣いていた。話しかけても返事がなく、ただ虚無の時間が流れていくだけだった。僕には彼女がなぜ泣いているのか分からなかった。
目の前を真っ白で埋め尽くすほどの日光で僕は目覚めた。
「また、あの夢か」
僕の中では疑問が膨れ上がっていた。なぜ彼女は泣いていたのか、あの少女は誰なのか、と。前に家にあるアルバムをみたけれど、夢の中にいた子の写真は一切なかった。そもそも両親が言うには、僕が小さい時はめんどくさくて写真を撮っておらず小学校高学年からしか撮っていないそうだった。両親の言った通りでアルバムを見ても、僕の身長は高く小さな女の子がいるとは到底思えなかった。
なぜ僕がこんなにも優雅な朝をおくっているのかその理由は今日から3連休だからだ。
「いろんな事があったなー」
今年の1学期と夏休みはいろんな事があった。新しい友達ができて、笹原さんに告白されて、白石さんは…。
そんな時だった
『プルルルル』
僕のスマホに着信があった、相手は。
電話主との待ち合わせ場所に着いた僕は徐にスマホを開いていた。
「まだメッセージは来てないか」
僕が誰に呼び出されたのか、それは、
「お待たせ!遅くなっちゃった」
そう言う彼女、笹原さんだった。
「お待たせ!山田くん」
そんなふうに話しかけてくる彼女、笹原さんだった。
「ごめんね結構待たせちゃって。私うっかりしててさ、お財布家に置いてきちゃってて取りに戻ったらこんな時間になっちゃった。私から誘っておいてごめんね」
「いいよ、今来たところだし」
僕は彼女を気遣いそんなウソをついたのだった。
そして僕たちのお出かけは、始まった。
「私さ、行きたいところあって!」
「知ってるよ、メールでそこいきたいって来たんだし」
「ついてきてくれるの!嬉しいな」
そう言い微笑む彼女の無邪気な笑顔に僕は少し惹かれていた。
僕が笹原さんに呼ばれた理由、それは、カップル割だ!
笹原さんが言うに、パフェの美味しいお店に行きたいけれどそれがとても高いため手を出しづらかったがカップル割の広告を見つけて僕にメールをしてきた、とのことだった。
そして僕はその誘いを受け今ここにいるというわけだ。
そして今日は笹原さんとカップルという設定でいるわけだけど、
「近すぎませんか笹原さん?」
「笹原じゃなくてももでしょ!」
「あ、そっかごめん」
笹原さん…じゃなかった。ももとメールで話し合い、・誕生日・好きな食べ物などを打ち合わせしていてた。
その中に呼び方もあったけどすっかり忘れてしまっていた。
その後僕たちはお店に向かった。
想像していたものとは違ってすぐにカップル割で頼む事ができ、テラス席へと案内をされた。
「なんか詳しく設定作ったのがバカみたいなんだけど」
そういう笹原さん
「まあ、カップル割になったんだからいいじゃん」
「それはそうなんだけどさー」
そうこう話しているうちに注文したものが届いた。
届いたものは、山のような生クリームに真っ赤なイチゴのムースがこれでもかと乗ったものだった。極め付けはお好みでチョコをたくさんかけれるらしい。見てるこっちが気持ち悪くなってきた。
「食べよ!」
そう言う彼女は満面の笑みを浮かべていた。
そしてその後ろではどんよりと重たい雲が空に寝そべっていた。