通りすがりのヒーロー
あざだらけで動かすだけで痛い体を無理やリ動かしながら私は学校へ向かった。
私は毎日父から家庭内暴力、D Vを受けていた。
父は周りに知られないために服で隠れて見えない部分を殴ったり蹴ったりしてきた。
最初は痛いし怖かったけれども、最近は何も感じなくなっていた。いつもやられていたからもう慣れたのかもしれない。
母は暴力こそ振られないものの父から暴言を毎日のように浴びせられていた。
始め私は父に対して反抗心があった。しかし、母からごめんね、と毎日謝られ幼いながら自分はもう助からないのだとわかってしまった。
そして私は逃げるように学校へと毎日足を運んでいた。
父は、子供が学校に行ってないのは怪しまれるから行ってこいと言っていた。
そのおかげで父から受ける暴力は私はあまり受けずに済むようになった。
学校に行ったのはいいもののちゃんとした服という服を持っていなかったのでクラスの女子からはいつも嫌がらせを受けていた。
担任の先生たちは知ってはいただろうけど見て見ぬふり、誰も私を助けてくれなかった。
そんなときだった山田君と出会ったのは。
忘れもしない6月9日、彼が転校してきた。私が小学4年生の時だった。
いつものようにクラスの女子にいじめられていた時だった。
「やめろよ」
「何あんた、転校してきたからって調子に乗ってんじゃないの」
「こいつはいじめられて当然なのよ」
「見てよこいつの服、こんなダサい格好でよく学校に来れるよね」
「お前らがやってることの方がダサいよ」
初恋だった。こんな私に優しくしてくれるなんて、たったそれだけのことだったとしても私が彼に惚れるには十分すぎる理由だった。
しかし、彼との時間は長くはなかった。
家に帰ると、母が何やら慌てていた。父から逃げるための荷造りをしていた。
そして私たちは姿を消した。父の魔の手から逃れるために。
山田君に会えなくなってしまうのはとても残念だったけれども、それを母に伝えることはできなかった。
中学2年生の時にまた東京に私は戻ってきていた。
それと同時に私は山田君を探した、そしてついに見つけた。
山田君と同じ高校になれるように私は猛勉強した。
幸い山田君は1校しか受けていなかったので同じ高校になるのは容易かった。
これでようやく私は幸せな生活が送れるそう思っていた。しかしそんな私を意図も容易く絶望に陥れる男がいた。
父が私たちに接触してきたのだ、私の親権を譲れと。
私は我慢できなくなり、父を近くの廃ビルへと連れこんだ。そして、そこに落ちていた鉄パイプで…
外を見るとパトカーが何台か止まっていた、玄関からは母と警察官の話し声が聞こえてきた。
「ようやく幸せになれると思ったのにな」
『ドンドンドン』
扉をたたかれた音がして、私は鍵を開けた。
「白石 俊樹さんを殺害した容疑で署まで来てもらう」
その言葉に母は息を呑んだ。
「どうしてそんなことを」
母は私に尋ねてきた
「幸せになりたかったから、あいつがいたら私たちは幸せになれない」
そう言い残し私は警察に連れて行かれた。
「お母さんはいつでもあなたの味方よ」
その言葉が母との別れの言葉だった。
遠くなる家を背にしながら私の目には涙が浮かんでいた。
車の窓からは空の闇と星々の明かりがごちゃ混ぜになった暗く明るい空が私の目の前を照らしていた。