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第7話 冒険者登録

 朝起きて確認したところ、なんと宿泊所では朝食が出ないのだそうだ。どうやらここの人たちはあまり朝食を食べないようで、欲しければ自分で用意するものなのだという。


 仕方ないので今日の朝食は白米――なんと試したら出てきたパックのご飯!――に納豆と鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたしとわかめの味噌汁という純和食にしてみた。


 俺たちはお金を持っていないので、亜空間キッチンがなければ朝食は抜きになっていたところだ。


 さて、そうして朝食を食べた俺たちは連れ立って冒険者ギルドにやってきた。


 入って正面には銀行のようなカウンターがいくつも並んでいて、横を見るとまるでレストランのようにテーブルがずらりと並んでいる。


 ただ、かなり広いというのに閑散としており、開いている窓口は一つしかない。


 とりあえず俺たちはその開いている窓口に向かった。


「すみません」

「いらっしゃい。なんの用だ?」


 ちょっと人相の悪いおじさんがぶっきらぼうに応対してきた。その迫力に怖気(おじけ)づきそうになるが、平然を装って用件を伝える。


「はい。俺たち、神殿で紹介してもらって来ました。身分証が欲しいので冒険者登録をしたいんですけど……」

「はいよ。じゃあ……ん? たち? ってことはもしかしてそっちの女性も?」

「はい。そうです」

「えええっ!? 女性が!? なんでまた?」

「え? ダメなんですか?」


 陽菜が驚いて聞き返す。


「い、いえ。ダメじゃないんですが……よろしいんですか?」

「え? 何がですか?」

「いえ、だって普通、女性は冒険者なんて野蛮なことはやりたくないって言うじゃねーですか」

「そうなんですか? でもあたし、祥ちゃんと一緒がいいなって」


 するとおじさんはギロリと俺のほうを(にら)んできた。


 えっ? なんで?


 それからじっと俺の顔を見て、それから大きくため息をついた。


「ま、いいか。そこの男はちゃんと強いんですよね?」

「はい。祥ちゃんが石を投げたら、こーんな大きな犬の魔物がパーンってなるんですよ」


 陽菜は身振り手振りで大げさにあのときのことを説明する。


「はぁ。そりゃまた、どうも……」


 おじさんは再び俺を睨んできた。


「じゃ、そこのお強いショーチャン。滞在許可証を出してくれ。それと女性のお方も、お願いします」

「はい」


 俺たちは神殿でもらった滞在許可証を手渡した。


「はい。はいはいはい。たしかに。じゃ、ちょっと待っててくれよ」


 おじさんはそう言って奥に行き、しばらくすると金属製のカードを持って戻ってきた。


「こちらがヒーナ・ヨゥツバー様の冒険者カードです。どうぞ」


 おじさんは陽菜に金のカードを手渡した。


「ショータ・アジーサワー、お前のカードはこれだ」


 そうして手渡されたのは銅のカードだ。


「あれ? なんであたしのと祥ちゃんのが違うの?」

「え? そりゃあ、女性にブロンズカードなんて渡せませんよ……」


 おじさんは勘弁してくれといったような表情をしている。


「えっ? どういうこと?」

「えーと、それは、その……」

「あの、すみません」

「なんだ? 今はヒーナ様にお答えしてるんだ! 黙ってろ!」


 横から割り込もうとしたら怒鳴られてしまった。


「ちょっと、怒鳴らないでください」

「あっ、す、すんません」


 陽菜に言われ、おじさんは急に小さくなった。


 ああ、うん。なんとなく分かったぞ。


 俺は陽菜にそっと耳打ちをする。


「陽菜」

「ん? なあに?」

「あのおじさん、多分陽菜のことを最高ランクで登録したんじゃないかな」

「え? なんで?」

「ほら、昨日も思ったんだけどさ。ここって、女の人の地位がものすごいでしょ? だから女の人を他の男の人より下にできなくって、それで最高ランクのカードを出してきた、みたいな感じだと思うんだけど……」

「ええっ!? なんかやだな、そういうの」


 俺もそう思うが、太田さんがこんな変な世界を選んでしまったのだから仕方がない。


「あの、いいですか?」

「なんだ?」

「そのカードって、陽菜の金のカードがランクが高くて、俺のは低いってことで合ってますよね?」

「ああ、そうだ。金が一番上、二番目は銀、一番下が銅だ。カードによって紹介できる依頼が違うが、どれも身分証としては使える」


 やはりそういうことのようだ。


「ありがとうございます」

「じゃ、あとはなくさないようにしてくれよ。で、発行手数料……あ、ヒーナ様は無料で結構です。ショータ、お前は大銅貨一枚だ」

「えっ? お金かかるんですか?」

「当たり前だろうが! 冒険者ギルドをなんだと思ってるんだ!」

「すみません。俺たち、荷物をなくしちゃって……」


 するとおじさんは額に手を当て、険しい表情になった。


「かー、どうしてくれんだ? お前、なんかできるのか?」

「ええと、料理くらいなら」

「料理ぃ!? お前、(つえ)ぇんだろ? なら外に出て……てわけにはいかねぇか。ヒーナ様がいるもんなぁ。じゃあ、分かった。夕方からそこの酒場が開くから、そこで働け。売れるもんがあるならそこで売るんでもいいし、料理長の手伝いをするんでもいい。大銅貨一枚ならすぐに稼げるだろ」

「はい。すみません」


 こうして俺は冒険者ギルドの酒場で料理人をすることになったのだった。

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