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第54話 旅立ち

 それからも客足は途絶えることなく、騎士団の人たちをはじめとする大勢のお客さんが来店してくれ、おかげで夕方前には完売となった。


「祥ちゃん、やったね」

「うん。陽菜が女の人に声を掛けてくれたおかげだよ。ありがとう」

「えへへ。どういたしまして。でもね。祥ちゃんの料理が美味しいから、自信を持って呼べるんだよ」


 陽菜はそう言って胸を張った。そういうポーズをとると陽菜の巨乳がたゆんと揺れて目のやり場に困る。


 ああ、本当に慣れない。毎日見ているはずなのに……。


 美人は三日で飽きると言うが、あれは絶対に嘘だ。その証拠に俺は何度陽菜を見ても可愛いと思うし、ドキドキする。体臭のいい香りだってどんどん好きになっていっている気がするし……。


 いっそ、もう告白してしまおうか?


 あんなにあからさまに胸を押し付けてくるのだ。嫌われてはいないはずだし……いや、でも陽菜の距離感がバグっているのは幼馴染だからな気もする。


 男女間の恥じらいというか、そういったものがあまりに小さいころから知っているせいでなくなっているだけじゃないか?


 陽菜が本当に俺を男として好きかというと、それはちょっと違うような気がする。


 それに俺だってまだ、陽菜の隣に立って彼氏だと胸を張れる自信がない。


 ヘタレと言われるかもしれないが、もし告白に失敗して、この関係性が壊れてしまったらと思うとどうしてもあと一歩が踏み出せないのだ。


 そうだよ。だからこれからもっとお金を稼げるようになって、これからの旅でも俺が頼りになるところをアピールして……告白するのはそれからのほうがいいに違いない。


「祥ちゃん、どうしたの?」

「え? あ、うん。なんでもない。それよりも片付けしなくちゃ」

「うん。手伝うよ」


 こうして陽だまりキッチンの初日は順調な滑り出しとなったのだった。


◆◇◆


 それから一週間、俺たちは毎日広場で陽だまりキッチンの営業を行った。そして今は最終日の営業を終え、ちょうど宿泊所の自室に帰ってきたところだ。


「祥ちゃん、お疲れ様」

「うん。陽菜こそお疲れ様」

「ずっと大人気だったね」

「おかげさまでね」


 俺がそう答えると、陽菜はふわりと笑った。


「ん? どうしたの?」

「え? なんかさ。祥ちゃんって」

「うん」

「やっぱりお店やるの向いてるなって」

「え? 何それ?」

「だって、お客さんが美味しいって食べてくれるの、祥ちゃんずっと嬉しそうに見てたでしょ?」

「そりゃあ、そうでしょ? 美味しいって食べてくれるのを見るのが好きなんだから」

「うん」


 陽菜は嬉しそうに笑った。その可愛い笑顔に、俺はまたしてもドキドキしてしまう。


「あれ? どうしたの? なんか顔、赤いよ?」

「え? なんでもないよ」

「そう? ならいいけど」


 陽菜はそう言うと後ろで手を組み、グッと後ろに腕を伸ばした。


「あれ? どうしたの?」

「うん。なんかちょっと肩、こっちゃって……」


 陽菜はそう言って肩を動かす。


「そっか。揉んであげようか?」

「いいの? じゃあお願いしまーす」

「ああ。じゃ、座って」

「うん」


 俺は陽菜をソファーに座らせ、後ろに回って肩を揉む。


「こんな感じ?」

「うーん、もうちょっと強く」

「こう?」

「あ、そうそう。そんな感じ。あぁ……」


 陽菜は気持ちよさそうに声を漏らした。


 その声に俺はなぜかものすごい満足感を覚え、一生懸命陽菜の肩を揉み続ける。


「あ……いい……祥ちゃん、気持ちいい……」


 俺は無心で陽菜の肩を揉み続けるのだった。


◆◇◆


「祥ちゃん、もう寝よー」

「うん」


 俺はいつもどおり、陽菜と同じベッドに入る。


「ねぇ、明日は出発だね」

「うん」

「どこに行くの?」

「うん。まずは北に行こうと思うんだ」

「どうして?」

「北に行くと海があって、そこにサン=フロランシアっていう結構大きな港町があるんだって」

「そうなんだ」

「そこに行けばみんなに関する情報も何かあるかもしれないし、もしダメでも陽だまりキッチンを有名にすればさ。その噂が誰かに伝わるかもしれないでしょ?」

「なるほど! そうだね!」

「うん。そうしたら向こうから俺たちを見つけてくれるかもしれないし」

「すごいなぁ。あたし、そんなこと思いもつかなかったよ。さすが祥ちゃんだね」


 こんな風に陽菜に褒められると、なんともこそばゆい気分だ。


「それにさ。なんかすごく風光明媚なところらしいんだよね」

「そうなの?」

「うん。レンガ造りの建物がずらっと並んだ港の夜景がすごいらしいんだよね」

「夜景! すごい! この町だと夜景なんてほとんどないのに!」

「うん。なんか五十年くらい前からずっと結界があって、町が発展してるんだって」

「そうなんだ! やっぱり聖女様ってすごいんだね」

「だね。魔物が来ないってだけでやっぱり違うんだと思う。町は壁で守られてるけど、畑とかはどうしようもなさそうだし」

「うん。そうだね」


 陽菜は小さく身じろぎした。


「でもさ。祥ちゃんが頑張って魔窟を攻略したから、きっとサン=アニエシアもそうなるよね?」

「多分ね」

「良かった。聖女様もオリアンヌさんも、他の人たちも、あたしにすごく良くしてくれたから……」

「そっか。そうだね。俺も騎士団の人たちとかにすごく良くしてもらったから……」

「みんなが幸せになるといいよね」

「そうだね」


 俺たちはそこはかとない寂しさを胸に抱きつつも取り留めのない話を続け、やがて眠りに落ちるのだった。


◆◇◆


 翌日、俺たちは結構な時間を過ごした宿泊所を出発した。今は町の北門へと向かっている。


 朝には見送りというわけではないが、オリアンヌさんがフルーツサンドを予約してくれていたのでそれを付き人に手渡し、さらにハンバーグサンドを騎士団に納品してからの出発となった。


 この世界の料理が未発達なことも大きいとは思うが、これだけファンになってくれたということは少し自信になった。


「祥ちゃん、次の町はどんなところだろうね? 楽しみだね」

「うん。できれば何か美味しい郷土料理でもあるといいんだけど」

「あはは、そうだねー。もしかしたらそのサン=フロランシアっていう港町ならあるかもよー?」

「たしかに。大きな町なら食文化も発展しそうだしね」

「うん! 楽しみだねー! あと綺麗な夜景も!」


 そんな会話をしていると、北門が見えてきた。


「すみません。出国です」

「はいよ。身分証を」

「はい」


 俺は二人分の冒険者カードを提示する。


「はい。どうも。どこに行くんだ?」

「とりあえず、サン=フロランシアに行って港を観光しようと思います」

「ああ、サン=フロランシアといえば港の夜景だもんな。道中、魔物も出るから気を付けろよ」

「はい。ありがとうございます」


 こうして俺たちはサン=アニエシアの北門をくぐるのだった。

 一区切りつきましたので、いったんここで本作は更新を停止いたします。

 というのも、実は本作はとあるコンテストに応募するために執筆したものでして、そちらの結果次第でどう着地させるかを変えようと考えております。

 申し訳ございませんが、しばらくお待ちいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様でした 畳み方次第で作品は評価が変わるので楽しみにしています
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