第八話 -地下街-
ドアの先の壁は土レンガでできており、外の商店の白土の壁とは大違いだった。
通路らしきものは100メートルほど続き、突き当たりの梯子を降りると、そこには広大な地下空間が広がっていた。地上とは異なり、人々の声が響いている。
「地下街がこんなに広いとは思わなかった。どうやって掘ったんだ。」
「ワシも見るのは初めてじゃ。」
街の大通りには商店が並んでいる。新鮮な野菜、肉、魚。地上に出ずにこんな新鮮な物を売っていると考えると不思議でたまらない。
「肉屋のおじちゃん。この肉はどこで作ってんだ?保存はどうしてるんだ?」
「あんた、この街の住人じゃねぇな。この肉は地下街の外れにある牧場で育ててんだ。肉の保存は騎士ドルフェンスの水泥の力を使って冷凍保存してるんだ。」
「水の力なのに冷凍できるんだな。」
「ちげぇよ。水泥つぅのはな、水色の泥のことを指すんだよ。つまり氷の力なんだ。あの方のおかげで俺たちはまだここで商売できてんだ。感謝しようにもしきれねぇよ。ハハハッ」
なるほど、確かに冷凍庫とかがなくても氷の力の泥があれば冷凍保存は可能だ。
「この街のことをもっと知りたきゃ酒場へ行けば分かるぞ。」
「おじちゃん、助かった。ありがとう。」
手を振るおじちゃんを背中に俺たちは酒場へ向かった。
酒場は男だらけだった。店内にいる全員が酒癖が悪い様で、店主までが騒いでいた。
「兄ちゃんなんか用かい?ヘヘッ」
うわっ酒臭っ
「騎士ドルフェンスについて教えて欲しいんだ。」
「騎士ドルフェンス様といえば、俺たち騎士の憧れのような方だなァ。酒が強くて俺たちもそれを見習ってるってワケだぜぇ。マスターもう一杯!」
この人たち騎士だったんだ。騎士らしく無いな。
「騎士ドルフェンスはどこにいるか知っているか?」
「騎士ドルフェンス様なら、聖騎士宿舎にいらっしゃるんじゃないのか?」
「聖騎士」、聞いた話に見合う肩書きだな。さぞ慕われるような方なのだろう。
「ジャンクさん、これから聖騎士宿舎に向かいます。先に宿を取っていて貰えますか?」
しかし後ろを歩いているはずのジャンクさんから返事が返ってこない。
後ろを振り向くと、ジャンクの姿はなかった。
あの人道に迷ったかな。あの人は泥の凄腕の使い手だ。滅多なことではやられる様な人では無い。ほっといても大丈夫だろう。
今は聖騎士宿舎に向かい、騎士ドルフェンスに会うことの方が大事だ。
人々に慕われる様な騎士は優しさだけではなく、強さも兼ね備えているはずだ。
そのためにドルーレスのことを報告してドルーレスを討ち取るのを手伝ってもらう。ヤツが城に棲まう限り、この人たちが地上に戻れる日は来ない。
歩きながら、「聖騎士ドルフェンス」のイメージを膨らませた。