第五話 -純粋な恐怖-
ドルーレスは右手を上に振り上げた。
右手の甲には一つの紋様が刻まれている。
紋様の部分には辺りの瘴気が集まっている。
よく見ると右腕は茶色の液体のようなものに覆われている。
「先程の戯れは不興だったようだな。貴様にとって我との戯れは無駄な時間であり、不愉快だったろう。我も貴様の態度を見て大変不愉快な気分になった。もう我にとって貴様は不必要になった。」
ドルーレスの顔はどこか寂しげで悔しそうな笑顔だった。そんな恐ろしい笑顔を見たのは生まれて初めてだ。全身が発汗している。腕が震え、顎が震え、脚が震えている。怖い。それは今まで感じてこなかった純粋な恐怖だった。
逃げたい。逃げ出したい。でも、逃げ出したとしても殺されるだろう。リベンジなんて高望みだったのかな。
ドルーレスの手では、もう泥と解るものと瘴気が混ざって、直視するだけで吐き気を催す様な強力なエネルギーが生成されていた。
右手から放たれたモノは俺を飲み込まんと向かってくる。あぁ、この世界はここで終わるのか。意外と早かったな。
死を覚悟した時、目の前のモノが八方離散した。恐る恐る目を開けると、目の前にはガラが立っていた。
ガラは不敵な笑みを浮かべ、俺を見つめた。
ドルーレスは不満そうに「ガラよ、邪魔をしないで頂きたい。」と文句を言った。
「ドルーレス、私の節目の客は大切だと言っているだろう。君もその1人だから尚更理解しているはずさ。こんなに早く死なれてしまっては面白くないじゃないか。」
ガラはドルーレスの威圧感に少しも気圧されることなく話す。
「私の客は外につまみ出す。ドルーレス、これでいいな?」
ドルーレスは名残惜しそうに見つめてきたが、結局渋々頷いた。
ガラは俺の額にデコピンした。その勢いで俺は壁を突き破り城の外に弾き飛ばされた。何が「つまみ出す」だ。「弾き飛ばす」の間違いじゃないか。デコが痛ぇ。多分地面に落ちた時の衝撃で肋骨もイッた。ガラに今度会えた時は1発殴らないと気が済まなそうだ。
会えればの話だが
「実は今日ここに来たのは彼を助けるだけではないんだよ。君と“話”をしに来たんだ。」
先程よりも不敵に笑った。