第三話 -マドと泥-
老婆は杖を持って俺の前に立ち塞がった。
「オヌシ、何者じゃ?」
老婆は俺にそう言い放ち杖を俺に向けてくる。老婆が持っている杖は老人のそれではなく、異世界モノの魔法使いが持っているそれだった。つまりここは魔法使いがいる世界線か!いやいやそれどころじゃない。今は、怪しい者だけど怪しくないと弁明しなければ。
「えっと、俺の名は健太郎。城の前の広場にいたんだけど、誰かに蹴り飛ばされてこのクローゼットがある部屋の窓を破って入ってきたんだ。お婆さんの部屋だったら悪かった。」
そこまで言うと老婆は感心したようにこちらを見た。どうやら言語は通じるようだ。
「オヌシ、ワシの隠窟を見つけるとは中々の洞察力を持っておるな。さらにワシの隠窟はアンデットの瘴気を纏う者を遠ざける性質がある。ここに辿り着けたということはアンデット奴の仲間ではないということだな。」
「隠窟?なんだそれは。というかアイツらはアンデットなのか。」
この老婆が言っている瘴気とはあのスポナーのことだろうな。
「隠窟とはワシのスキルのことじゃ。この空間が隠窟であり、城とは全くの別空間じゃ。隠窟への入り口は城のどこかにある。今回はたまたまクローゼットが入り口になっていたということじゃろう。とにかくオヌシは幸運じゃな。」
「つまり、ここに留まっていれば安全ってことか。」
しかし、老婆は首を振り、困惑した顔でこう言った。
「スキルにもマドを使うことは知っているじゃろ?」
俺はその前提のマドというものを知らなかった。
「マドって何だ?」
老婆は腰が抜けたように杖を掴んだ。
「マドを知らないのかい!オヌシどこの生まれだい!?」
この世界ではマドは常識のようだ。これ俺が恥ずかしくなるやつじゃん。どうしてガラは教えてくれなかったんだ。
「ワシが教えてやるわい。マドというのは大気中にあるエネルギーのことでな、泥に反応して泥を活性化させるエネルギーじゃ。とはいえ、人間ひとりが蓄えられるマドの量は生まれた時から決まっているのじゃ。つまり個人差があるということじゃ。ところでオヌシ、マドを知らないということは泥も知らないのではないじゃろうか?」
「なんだ泥って?」
この世界、土関係ないじゃないか。まさか、ガラ、俺を転生させる世界、間違えたとか...
「無知すぎて呆れたわい。泥とはのぉ」
そこまで言うと老婆は口を閉ざした。と、同時に隠窟全体に霧がかかり始めた。
「悪いが説明は後でにしてくれ。もうワシのマドが限界じゃ。隠窟をこれ以上顕現させられん。外に出るが、城のどこに出るか分からん。くれぐれも用心しなッ」
隠窟は霞となって消えた。