第十一話 -アールド-
遂に作戦の日を迎える。ドルフェンスの鼓舞によって歯車は回り始めた。
この地下街では時間が曖昧だ。朝だと言われれば朝で、夜だと言われれば夜だ。気づけば夜だと言われていた。
「鍛錬での進捗はあった?」
ドルフェンスにそう聞かれたが、「君の想像通り」だと言ってはぐらかした。なぜなら、俺は作戦の時間が近づいてきて怖くなったのだ。ジャンクさんがもし向こう側の人間だったらどうしよう。もう一度ヤツに対峙しなければならなければならなくなった時どうしよう。頭の中を駆け巡るのは悪いシナリオばかりだ。
俺の追い詰められたような顔を見て心配したのだろうか。ドルフェンスはさっきからずっと俺の側にいる。
「ケンタロー、息抜きは大事だよ。少し肩の力を抜いて。君のマドの動きはずっと不自然なままだ。力んでる証拠だよ。」
生まれて初めて戦いに行くんだ。緊張しないわけがないじゃないか。
「君は戦いが怖いんだろう。僕だって怖いさ。でも、僕たちは勝ち取らなければならない。未来を。」
どんな人でもあんなに強大な敵を前にすれば怖気付く。それが聖騎士と呼ばれるドルフェンスも同じだと知って俺は少し、かなり安心した。自然にマドの動きも正常になっていっている気がする。勝っても負けても勝負はつく。いや、負けることなんて考えるな。とにかく勇ましく戦うんだ。
俺はそんなことを思いながら目を閉じた。
翌る日の明朝。鳥の囀りも白みがかった空も見えないこの地下街から75人の戦士が地上街を目指して進み始めた。
出発前、ドルフェンスはみんなを鼓舞するかのように演説した。
「我々は地上街の安全と、我らの安全の2つを確保する必要がある。我らの中からも負傷者、最悪の場合犠牲者が出るかも知れない。勇猛果敢に戦い、亡くなった者は名誉ある死と言える。しかし、捨て身特攻で死ぬような者はただの馬鹿者だ。名誉ある死を語る資格すらない。お前たちの命はお前たちだけのものではない。誰かと育んできたものだ。自分の命を自分で守れない者、命を失うのが惜しい者は今抜けてもらって構わない。ここで抜けるのは恥ではない。それでも僕とついて来てくれるという者は勇ましく叫べ!」
そして全員が叫んだ。ここにその程度の脅し文句で引き下がるような奴はいない。俺たちは隊列を組むと、地下街と地上街を結ぶある出入り口から地上街へと降り立った。
空の暗雲はさらに濃くなっている。風は吹き荒れ、木箱やら布やらが飛ばされていた。
目の前には巨大な城が建っており、中からは禍々しい邪な気配がした。
「待ち侘びたぞ。勇ましき死に急ぎの愚か者共め。」