修道士リンネ
修道士の朝は早い。
日が昇る頃に起床し、朝6時から始まる礼拝まで各部屋にて聖典を読む。
リンネが修道士となって初の礼拝の時間がやってきた。
この教会の長であるトマスが祭壇の前に立ち、神への祈りを皆へ唱和させる。
ステンドグラスから入る鮮やかな光と、聖堂へ集まった修道士の祈りは神々しく身を清められるような光景だ。
だがリンネは……、そこにはいなかった……
「お~~に~~~い~~ちゃ~~~ん!!」
「ぅおっ!?…ん…セリカか…」
リンネが眠るベッドにセリカがズドンと突撃し、欠伸をするリンネの身体を揺らす。
「おにいちゃん、もう礼拝はじまってるよう~
修道士みならいさんになったんでしょ!おきて~~~!!」
なんとリンネは修道士初日から寝坊である。
リンネの姿が見えないことに気づいたトマスがセリカに起こしてくるよう頼んだのであった。
リンネが腹をポリポリとしながら赤い髪を掻き上げ起きると、ちょうどベッドの上によじ登ってきたセリカの体勢が崩れコロンと足元の方へ転がってしまう。
「ひょわぁっ! きゅ、きゅうに起きないでよ~」
「…お前…パンツ丸出しで何してんだ…? ワ●メちゃんでももう少し隠れてるぞ」
コロンと転がった拍子にセリカの服が乱れ、国民的アニメのあのワ●メちゃん以上にパンツ丸見え状態になってしまっていた。
「~~~~ッ! みないで! へんたい!」
声にならない悲鳴を上げつつ、バンバンと布団を叩きながら赤面するセリカ。
変態と言われながらも寝起きで反応するのが面倒くさかったリンネは、かかっていた布団を丸ごとセリカに被せて身支度を始めたのであった。
布団の中でもぞもぞとしているセリカを尻目に、リンネは気怠そうに白いシャツに腕を通し、紺色の長い布を肩から掛けて修道士服を身につける。
セリカは布団を頭からかまくらのように被りながら、頬をぷくーっと膨らませ小言を言いつづけていた。
慣れた手付きで寝る前に外していたシルバーアクセサリーをつけ、両耳に2つずつ付いているピアスもそのままで部屋を出ようとする。明らかに修道士に似つかわしくない装飾である。
「ねぇ、それつけてくの?
修道士みならいは、しっそけんやく、っていってハデなものとかつけちゃダメだって言われてるよ?」
炎のような装飾がついたペンダントトップを、大事そうに握りしめながらリンネは答えた。
「あぁ、…そうゆうもんか。
…だがこれは俺の大事なモンだ。俺がやるべきことを忘れないように…信念の証ってとこだな」
「ん~…司教さまとかがつけるペンダントとおなじ?」
「…まぁ、そういうことにしておくか」
セリカは初めてみたアクセサリーに目をキラキラさせ、つついたりしながら興味津々な様子であった。あんま触るなよ、などと言ってはいるが、可愛らしい妹分に満更でもないリンネだった。
「―――以上で、朝の礼拝を終わります。」
リンネとセリカが聖堂に到着すると、ちょうど礼拝が終わったところであった。
「あ~、まったく!リンネくん二度寝しましたね?
僕が起こしに行ったときはムクって起き上がって『あぁ、おきる…』とか言ってたのに~」
リンネ達に気づいたトマスが声真似をしながらこちらに向かってきた。
「…あぁ?全然覚えてねぇ…」
初日から寝坊してしまったことを少しは反省しているのか、頭を掻きながらもリンネの大きな図体がシュンとなっているとトマスが肩を優しく叩く。
「まぁ、昨日は色々とありましたからね」
それと…とトマスは小声でリンネだけに聞こえるように耳打ちする。
「リンネくんが違う世界から来たであろうことは、僕以外知りません。
レムナントに襲われて記憶喪失になることは少なくありませんので、そのように皆に伝えてあります」
「あぁ…すまねぇな。助かる」
なになに~?と二人の会話を聞きたがっているセリカがぴょんぴょんと跳ねている。トマスはセリカに微笑みながら話しかける。
「セリカはリンネくんの先輩ですからね。いろいろと教えてもらってくださいねって伝えたんですよ」
「せ、せんぱい…!!」
先輩という初めての言葉の響きにセリカはとても嬉しそうに身体を震わせている。
「ふっ、よろしくなセンパイさんよ」
「えっへん!
わからないことはセリカがおしえてあげる~!」
まずは何を教えようかな~などとやる気満々の セリカに、自然とリンネも笑みが溢れるのであった。
初日こそ先が思いやられる修道士生活の幕開けではあったが、
リンネは持ち前の兄貴肌で、人々の悩みを聞くのが上手いと評判の修道士になっていくのであった。
リンネが修道士の生活にも慣れてきた頃、数年に一度の東方区域一大イベント『桜祭り』の時期がやってきた。
教会のあるナギミカゼ町は、海に面しているため漁業が盛んである。
東方区域各地で開かれる『桜祭り』の中でも、ナギミカゼ町の魚料理は絶品であることが有名なために多くの人で賑わうという。
「ばあさん、コレどこ持ってくんだったか?」
「あぁ~その樽は全部酒入ってるから、酒場の前に持ってってくれぇ」
「あいよ。にしても酒か…
ここ来てから結構経つが…そろそろ飲みてぇモンだな」
「心配せんでも祭りの日なったら、浴びるほど飲めるわい。
ここの町は酒好きが多いからねぇ」
リンネは教会で料理長として働くシェラばあさんと祭りの準備をしていた。
祭りが近くなり、教会の修道士としての仕事よりも、なぜか町内の力仕事を任されているリンネであった。
白いシャツを腕まくりし、頭をタオルで巻いている風貌は誰がどうみても修道士ではなくガテン系の男である…
担いでいた酒樽を一度置いてから、酒場の入口である両開きの木製のドアを開けると奥から声が聞こえてきた。
「あらッ、イイおとこ…」
奥にあるカウンターの後ろには色とりどりの酒瓶がズラッと並ぶ。小さめなテーブルの上にイスが上げられており、営業中ではない薄暗い店の奥から出てきたのは、淡いピンクの長い髪をなびかせ艶めかしい紫色のワンピースを着た…
筋骨隆々の男性?であった。
酒樽を店の中に運びながら、リンネはつい心で思っていた言葉を発してしまった。
(女の声かと思ったが…俺より遥かにガタイがいいな…)
「……男…か?」
その言葉に酒場の店主はヒールをつかつかと鳴らせ、酒樽を運ぼうとしゃがみこんでいたリンネの方へ向かってきて、グイっとリンネの顔を覗き込む。
「…アタシのこと…男って言ったわねェ…
………テメェ…歯ァ食いしばりやがれェッ!!」
リンネの胸ぐらを掴み、ものすごい剣幕で大声を上げた店主だったが、鋭い目つきに変わったリンネがスッと立ち上がり胸ぐらを掴む手を掴み返してきたことで、少しだけ動揺したようだ。
「…気に障ることを言ったのなら謝る。
だが、開口一番掴みかかられて黙ってられるほど、俺は大人しくないんでね。
この手…離してくれねぇか」
リンネがギリっと掴み返した手に力を入れると、
酒場の店主は少し嬉しそうな笑みを浮かべながら手を離した。
「ふん。アンタ気に入ったわ。
アタシはバリー。このヨルナギ酒場の店主よ」
「…そりゃどうも。俺は…」
「あぁ、知ってるわよ。トマスのボウヤが助けた子…リンネちゃんだったかしら?」
「…あ、あぁ。そうだ」
ちゃん付けで呼ばれたことで肯定するかどうか一瞬悩んだリンネだったが、ここは大人しくしたようだ。
「ここはナギミカゼ町で唯一の酒場なの。
だからどうしても、治安が良いとは言えなくてねェ…
アタシも自分を守るためにも荒々しい部分がちょ~~っとだけあるんだけど、さっきはカっとなってごめんなさいねェ…」
(ちょっと…どころじゃなさそうだが、俺でも簡単に振りほどけねぇ力だった。
下手につっかかると面倒なことになりそうだな…)
「…いや、俺も…すまなかったな…」
新たな諍いを生まないよう、改めて謝意を示したリンネだった。
「それにしても…リンネちゃん…アンタ…ほんとイイおとこねェ。
アタシに対等に向かってくる子なんて初めてだわァ。
いつでも、とは言えないけど祭りの時は飲みに来てちょうだいネ。大サービスしちゃうッ」
「あぁ。それは嬉しい誘いだ。
酒樽はそこに運び終わってるから、あとは頼んだ」
そう言ってすぐに帰ろうとし、イイおとこという言葉にも特に動じないリンネの無骨な態度がさらに気に入ったようだったバリーは、教会に戻ろうとするリンネを呼びとめて(力ずくで)、しばらく町の様子などを話してくれたのだった。
やっとの思いでバリーから離れることのできたリンネが教会に戻ってくると、もう夕暮れ時になっていた。
教会開放時間は終わっているはずだが、誰もいない聖堂で少年が膝をかかえて座っていた。
「よう、オウタじゃねぇか。どうした」
面識があった桃色髪の少年にリンネはすぐに声をかけた。
「…ひっく…リンネぇ…」
話しかけた途端泣き出してしまったオウタの隣にリンネは腰を下ろすと、頭をポンポンと優しく叩く。
「おいおい、男が泣くんじゃねぇ。何があった」
「…ひっく、…みんな、お祭りがもうすぐだからって、ぼくの話きいてくれないの…」
「あぁ、桜祭りなぁ。ったく俺も準備だなんだって、ばあさん達に毎日駆り出されてんだよ。
俺はまだ祭りのこと良くわかってねぇけど、なんかピリピリしてる時あんなぁ」
「うん…みんなおウチの手伝いでいそがしいって、遊んでくれないし…
…6歳になるから、今年はぼくの誕生日会やってもいいっておかあさんに言われたんだけど…」
どうやらオウタは初めての誕生日開催について悩んでおり、祭りが近いため友人を誘うことができずにいたようだ。
「…あぁ、そんじゃ、祭りの日にオウタの誕生会を一緒にやりゃいいんじゃねえか?」
「えっ…でも僕の誕生日にはまだ早いし…」
「生まれた日にやらなきゃいけねぇ決まりなんざねぇだろ?
その日はオウタの誕生を祝う日ってことにすりゃいい。
祭りもやっててダチと騒げる、最高の日じゃねぇか」
キョトンとしたオウタはリンネを見上げながら、う~んと唸る。
「ん~、でも…たしかに…
生まれた日とお祝いの日がちがくても…
…リンネが言うなら、そうなのかなぁ…」
リンネに全幅の信頼をおいているようなオウタは、意を決したように顔を上げる。
「…よしっ、きめたよ!
お祭りの日にぼくとあそぼう!ってみんなをさそってみる!
それでおいしいごはんとか食べて、みんなでお祭りをたのしむのを誕生日会にするんだ!」
パッと顔を上げたオウタの顔は、先ほど泣いていたとは思えない明るさになった。
「おお、いいじゃねぇか。
まぁ、祭りの日はガキどもで大人しく仲良くしてろよ?
俺は久々の酒を堪能してぇから邪魔すんなよな」
「え~? リンネも一緒に遊ぼうよ~!
この前おしえてくれた『ケイドロ』って遊びすっごくはやってるんだから!」
「あぁ、また今度他の遊びでも教えてやるよ。
だが…祭りの日はダメだ。俺は、酒を、飲む!」
謎の決意表明をしつつも、すっかりと笑顔になったオウタの悩みを解決したリンネであった。
リンネは修道士の仕事の合間に、教会の敷地内へ遊びに来るオウタのような町民の子供を相手によく遊んでいた。聖典を読むのが面倒くさいからそうしていた…というのは誰にも気づかれていないのだが。
元いた世界の遊びなどを教えたことで打ち解けて、子供達はリンネを兄のように慕っているようだ。
――リーンゴーン
教会の鐘が夕刻を告げ、悩みも解決したオウタはリンネに礼を言うと足早に家に戻っていった。
「お悩み相談室が板につきましたね、リンネくん」
リンネとオウタが話をしているのを見守っていたトマスが、リンネの後ろのベンチに腰を下ろしながら声をかけた。
「おう、トマスか…。おつかれさん」
外で一仕事をしてきたリンネはやっとひといきつけると深い息を吐き、目にかかっていた髪を掻き上げると、シャツのポケットに手をいれ何かを探しているような動きを始める。
「…クソ、この世界はタバコねぇんだった…」
「おや、また始まりましたね、リンネくんの謎行動…。
それにしても…まさかリンネくんが聖典を読んでくれていたとは…」
「あン?聖典?」
(気が向いたら読めとは言われていたが…一切読んでねぇ…)
「えぇ…、あれは10章19節に記されている誕生の祝日のお話で、神がお生まれになった日と誕生の祝う日が別であるという…」
聖典の内容をスラスラと目を閉じながらトマスが唱えはじめたところ、何か勘違いをしていそうなトマスを止めようとリンネが話を逸らす。
「…そういやぁ、酒場のバリーに会ってきた。祭りの日なら酒が飲めるって誘われてよ。あとはタバコさえありゃぁ完璧なんだがなぁ…」
聖典の内容を唱えながら、ついつい意識がどこかにトリップしてしまっていたトマスはリンネの問いかけにコホン、と咳払いをしてから応える。
「…あぁ、お酒ならお祭りの日は飲んでも大丈夫ですよ。その日ばかりは、修道士の身であれ禁酒は強要しませんし。バリーさんの所は一番盛り上がってるでしょうし、ぜひ行きましょうか。
タバコっていうのは…、おそらく葉巻きの一種ですよね? 花街にそのような物を取り扱う店があるというのは聞いたことありますが…」
「…おい、マジかよ、その花街ってとこ連れてってくれ」
タバコが無く項垂れていたリンネだったが、後ろにいたトマスの方にグリンと身体を向け迫る。気迫がすごい。
「やや、リンネくん。花街にご興味がおありで…?
あなたにはジュリさんという心に決めた方がいるんですから女性と遊ぼうだなんて…」
「なッ、…樹李はそんなんじゃ、ねぇ…。っつうか花街ってそうゆうとこかよ」
(葉巻きがあるのは魅力的だが、女と遊ぶのは興味がねぇな…
いや、別に葉巻きだけ吸いに行くならいいのか…?)
この世界に来て数週間が経っているため、元いた世界での習慣が恋しくなってきていたリンネであった。ちなみに花街のことを風俗みたいなものだと勘違いしているリンネだが、この世界では要人が会談を行う際に使われる高級で格式の高い空間としても知られている。もちろん、お金を払うことで女性と一夜を過ごすことのできる、いわゆる遊郭のような場所でもある。
「おやぁ、リンネくんったら赤くなっちゃって~。
まぁ、華嶋組の幹部の方も花街で働いておりますし、ご縁があれば行くこともあるかもしれませんからその時を楽しみにしててくださいね」
ちょっと誤解しているらしいリンネをからかいつつも、トマスはそういえば…と話を続けた。
「先ほど華嶋組から言伝てがありまして、例の新人さんがナギミカゼ町の桜祭りの巡察で来てくださるそうですよ」
リンネが樹李の捜索のための目標にしていた、華嶋組の新人に遂に会えるようになったようだ。
学園へ通う華嶋組の組長と、その護衛役がその少女であったため学園の春休みになるまで会うタイミングが遅れていたのである。
(あれから全然音沙汰ねぇからどうなってるかと思ってたが、やっとか…)
「んじゃあ有り難く挨拶させてもらうか。巡察っていうと、祭りの警備を手伝ってくれんのか?」
「ええ。桜祭り当日は人が密集するため華嶋組の方が各地に配備されるのが慣例です。うちの町は人は多く集まりますが、規模こそ大きくないですけどね。
リンネくんは警備のお手伝いをしてくれるって言ってましたし、当日は一緒に見回りして情報交換をしてみてください。
あ、ちなみにバリーさんがこの町の警備隊長ですよ」
「あぁ…それならあの腕っぷしにも納得だ…」
桜祭りの開催日は教会も閉鎖して修道士の者は町内の活動を手伝うこととなっているが、人が多く集まることを利用して情報を得たい考えもあったためリンネは見回り役を買って出ていた。自由に見て周ることで酒が飲みやすいかもしれないという考えも少しだけ、いや大分あったようであるが。
活気づいた町内の雰囲気はそのまま、祭りの日がやってきた。
港の近くに色とりどりの帆布で出来たテントが張られる。
桟橋から続く町内の大通りには、香ばしい香りの磯焼きや手作りの工芸品などの露天商が並ぶ。
いつもは質素な街並みに感じられていたが、この日ばかりは青い海に鮮やかなテントが映えて活気に満ち溢れている。
大通りから海側に向かって一番端に、桜祭りの運営本部のテントが張られていた。
祭りの開始が近づき、あれが無いこれが無いとバタバタと忙しそうな本部に、怒号が鳴り響く。
「テメェらぁ!!
タラタラしてねェで持ち場確認して荷物持って行きやがれェ!!」
「あぁン!?!?
出店許可が降りてねェヤツが店広げてるだァ? イマスグしょっぴいて来いやァ!!」
まさに総長の如く気迫のある声の主はリンネ…
ではなく酒場の店主バリーである。
他の店の準備を手伝っていたリンネとセリカが運営本部のテントに帰ってくると、その異様なピリピリ感に気づき、リンネはバリーの肩を叩き挨拶をする。
「よぉ、バリー。俺も警備の手伝いをさせてもらう。よろしく頼む」
警備隊の黒い詰襟の制服を着て、木剣の帯刀が許されていたリンネはなかなか様になっていた。
「あ、あらァ…! リンネちゃん…なかなかステキじゃない…」
ポッと顔を赤らめてその姿を見つめるバリーをよそに、リンネは先ほどまで怒号を浴びていた他の運営の人へ今のうちに早く行けと目配せをした。
ウルウルと目を輝かせて感謝を伝えつつも、皆足早に出ていったようだ。
「バリーさん! セリカね、今日はここで『きゅうごがかり』やるの~!」
「まァ! セリカちゃんも立派に運営さんの一員ねェ…
前回の祭りの時はこぉ~んなにちっちゃな女のコだったのにィ~」
セリカの一声でさらに場は和み、先ほどまでの恐ろしい空気感はいつの間にか消えていた。
間もなく一般客が入るゲートの開場準備が整い、祭りの幕が開ける。
リンネを含む警備係が持ち場へ向かおうとしたその瞬間―――
ガッシャーン! バキバキバキッ―――
運営本部のテントが何者かの奇襲を受け、一部が破壊された。
すぐにリンネとバリーは木剣を構え臨戦態勢に入る。セリカや他の運営係を背に守りテントを破壊した者を待ち構える。
警備隊長であるというバリーはさすがの反応だったが、それに劣らない早さでリンネも交戦に備えていた。
(…動きがない…?
…バリーもいるし、こっちから行くか…
バリーは、…あぁ、俺の考えていることがわかっているみたいだな)
誰も現れない様子を見て、リンネとバリーは息を合わせジリジリと少しずつ近づいていく。
もぞもぞ…とテントに下敷きになっていた犯人が出てきた。
「…お、遅くなりましたぁ~…
…華嶋組6番隊隊長代理、蜂須みつばですぅ…」
ふにゃりと照れ笑いのような表情を浮かべた少女が、這いつくばりながらよじよじと出てきた。
なんとテントに奇襲をしかけてきたのは、この祭りの巡察に来る予定であった華嶋組の新入りだったのだ。