新しい生と古びたものの死と 4
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「ごめんね」
と、父が言いました。
「僕一人では寂しくて、寂しくて、どうしようもなかったんだ。だから、僕は君を自分勝手に作り出してしまったんだ。ごめんね」
父は私の頭を優しく撫でながら、悲しそうな声で言いました。
「ここは寂しくて、寂しくて仕方がない場所だよ。僕はどうやっても帰りたい、元いた場所に帰りたい。絶対に君も連れて行くから、その時まで待っていてね」
大きな罪を犯したという父は、時空の亀裂に押し込められて、異界からこの世界へと堕とされてしまったのだそうです。
元の世界へ帰ろうとした父は、多くの竜を生贄とし、多くの人の屍を柱として築いて、再び時空に亀裂を生じさせようと試みたわけです。
多くの家族が殺された、多くの人々の血が無造作に流された。復讐に怒り狂った力あるもの達によって、最後の最後に、父は封じられる事になってしまったのだ。
私は押さえ付けられ、地に伏せられる父の姿をただ見る事しか出来ませんでした。
そうして父を助けるために身動き一つ出来ず、その場から逃げ出す事になったのです。
殺戮者の娘である私に対して、周りは全て敵でした。
誰も彼もが私とは全く別の生き物で、誰も彼もが私に対して殺意を向けてきます。
父と同じ髪色を変え、身なりも貧しいものとして、異界の龍に親を殺された孤児として、世間を欺きながら日々の糧を得る事になりました。
そうしていても、いつでも誰かに見破られる事になって、石を投げつけられながら逃げる日々。先の見えない絶望を抱えながら、孤独の中でただ生きているだけの私に手を差し伸べてくれたのがあの人で、
「親は問題あったけど、その親の問題を子供にまで押し付けるのもどうかと思うよ」
と言って、私を自分の家へと招き入れてくれたのでした。
その人はすでに番と一緒に暮らしていて、何人も子供が居るような人で、私はその子供達の中の一人という扱いで育てられる事になりました。
とても強い人だったから、周りも何も言いません。
また、その人の番もとっても変わった人だったから、私を他の子供達と同じように育ててくれました。
それから私は、それは美しく成長する事になったのですが、私を育てたあの人の事を父親のようには思えませんでした。私を見つけて助けてくれた人は、私にとってただ一人の人、世界で一人だけの存在。もちろん、あの人は私の思いを受け入れてはくれませんでしたが、私はどうしてもあの人が欲しかった。
そこで私の邪魔をしてきたのが、私をここまで育ててくれたあの人の番です。
死闘の末、私はあの人の番を飲み込む事に成功しました。遂に私は勝利を収める事が出来たのです。だけど、激怒したあの人に腹を切り割られ、番は助け出される事になったのです。
お腹を切り割られたとしても私は死にません。それは私が異界の龍、こちらの血など一滴も混じらない父の複製品だから、大概の事では死なないのです。
全ての人に再び憎悪の眼差しを送られながら、私はその場を離れる事になりました。
それからは本当に長い、本当に長くてどうしようもない時間でした。
寂しくて、寂しくて、私も父と同じように複製品を連れて歩くようにもなりました。父のように上手くは作れないから、私の複製品は感情もなく、言葉を発する事も出来ません。ただ、人から生気を吸い取る事はできるので、力を作るための道具として持ち歩くだけ。
「私たちは一度も死ぬ事が出来ないのに、あの人たちは何度も何度も生まれ変わるの。あの人達が生まれ変わった時には、私には何処に生まれ落ちたのかが良くわかるから、毎回、会いに行く事にしたの」
「そうなのかい?」
「ええ、そうなの。いっつもブスとかブタとか言いだすの。あの人の番は本当に口が悪いから、私もあの時に戻ったみたいに文句が吐き出せるから凄くスッキリしていたのよ」
「君の姿はいつも見ていたよ?」
「あの人の番が聖女となって私の前に現れた時には、ようやっと死ねるかと思ったんだけど」
「私がまだ死ぬ時じゃなかったからね」
「ええ、そうね。所詮は私は貴方の複製品だもの、貴方が死なない限り、私も死ぬ事はないのね」
「ごめんね」
暗闇の中の父は、申し訳なさそうな表情を浮かべながら私の両手を握りました。
私たちは本当に多くの人を殺してきました。
多くの人を絶望の淵から突き落とし、多くの人を虐げて嘲笑ってきました。
流した大量の血液で、世界を覆い尽くす事が出来るほど、多くの命を絶って来たのは間違いのない事実です。
「君を助けられなくてごめんね」
誰かに助けられる価値なんて私にはないんです。
だから、そんな顔で泣かないで。
「助けられなくてもいいから一緒に居てね」
「うん」
「私たち、きっと地獄に落ちるんだと思うわ。この先には想像も出来ないような絶望が待ち受けているかもしれないわ」
「うん」
「それでもお父様、一緒に居てくれる?」
私の言葉の中には悲痛な叫びのような物が含まれている、それを感じ取った様子で、父は私を抱きしめてくれました。
「私の娘、ずっと一緒にいるよ」
「うん」
「何処までも、何処までも、ずっと一緒にいるよ」
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