新しい生と古びたものの死と 3
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剣で切り刻みながら燃やしていく、それもかなりの火力じゃないと燃え尽きない。
白い炎で包み込むようにして圧力を加えていくと、それはようやっと力を無くし、最後には心臓の塊だけとなって、その心臓の塊も消し炭となってボロボロとこぼれ落ちながら消失していく。
丁度、異界の龍から流し込まれる力が完全に遮断されたのと同時に、壊れた壁から覗く遥か遠くにある山脈が最後の雄叫びを空に向かって発していた。
巨大な二匹の竜の塊が長龍を押さえ込むようにして大地へと叩きつけている。世界を揺るがすような地震が二度三度続いた後は、ようやっと屍の龍も息絶えた様子で、長大な山脈のままこの世界の中へと溶け込んでいく。
移動した二匹の竜は、辺境伯と侯爵家の息子だ。
異界の雌龍に深く関わったがゆえに、最後は自分たちで始末をつける事にしたのだろう。
騎士団を率いるアバッティーニ侯爵家の夫人もまた亡くなった夫の意思を忘れず、最後の最後にはラディカーティ公爵を裏切り、王都に残った王国軍の第五部隊を僕たちに預けてくれた。
武辺に長けた侯爵家は最後まで誇りを失わなかった、それは、ベルトルト・アバッティーニの姿を見れば良くわかる。
アンジェラに酷い言葉を吐きかけたり、腕を断ち切った事などは絶対に許すことが出来ないけれど、彼がいなければ、僕は番に会う事が出来なかったのだろう。
「僕の番」
氷の塊に守られていたアンジェラは、焼け焦げて無くなった魔法陣の上で蹲るようにして泣いてる。
「泣かないで、僕の番」
腕と膝の下に手を入れて抱き上げると、アンジェラは僕の胸に縋り付くようにして泣いている。
「幽霊なんか見たくない」
「うん」
「幽霊なんか見たくないんです」
「うん、知っているよ」
「母の幽霊は、私の側にはいなくて、それで・・それで・・父の所に居たんです・・」
「うん」
「父は・・番と一緒に私に幸せになってねって言っていて」
「うん」
「今まで親らしい事は何一つしてこなかった癖に、最後の最後には・・」
言葉に出来ないまま泣いている彼女の新緑の髪の毛を、何度も何度も、優しく撫で続けていると、いつの間にか頭上に満天の星が散らばっている事に気がついた。
穴が空いた状態の屋根の上には、埋め尽くすかのように見えるほど星々が輝いていて、この時代にまでもつれ込むほどの異界の龍との戦いが、ここでようやっと終結した事を祝して、先祖の霊が瞬いているかのように見えた。
すると光の塊がこちらの方へと降りてきて、カタンザーロで別れた幽霊のミスト君と、アンジェラに憑依して散々悪口雑言を吐き散らしていたエカテリーナが揃ってこちらに顔を向けると、
『おめでとう!おめでとう!これで世界の平和は約束されましたー〜!』
と、笑顔いっぱいで拍手を始めたのだった。
『異界の龍もその娘も、無事に成仏したみたいだよ!』
『これで心配しながら子孫を見守り続けないで済む!自由だ!』
二人の幽霊は嬉しそうに笑い合うと、エカテリーナがアンジェラの頬にキスをして、嬉しそうに笑みを浮かべた。
『君を育てるのは、久しぶりに小竜を育てるようで本当に楽しかったよ!君のお父さんは君のお母さんと輪廻の輪に乗ったから、今度は違う世界で新しい生を送る事になるだろう』
『もう一匹はこの世界に残ったよ、番に呼び止められて死なずに済んだみたいだね』
『番はこの世に一人だけ、魂の伴侶は世界に一人だけ。見つけた喜びを忘れずに、最後まで人生を全うしてくれよ!』
『それではさようなら子孫たち!良き人生が貴方達に訪れますように!』
星空へと消えていく先祖の霊を見送りながら、思わずため息が溢れだす。
つまりは、カタンザーロで見えていた少年の幽霊が、異界の龍の娘に惚れられた雄竜で、罵詈雑言を吐きまくっていた幽霊が、その雄竜の番なのだろう。
「はーーーーっ」
大きなため息を吐き出すと、アンジェラは僕に抱き抱えられたまま、縋り付くようにして眠り始めた。なんて僕の番は可愛いんだろう!誰にも見せたくない!
「殿下――!街の光が戻っていますよーーー!」
バジリオに声をかけられたのでそちらの方を見ると、漆黒に包み込まれていた世界が元に戻っている事に気がついた。
家々の漏れ出る灯りが街に広がり、度重なる地震による被害が生じたようには見えなかった。
街は何もなかったような様子で、普段通りの営みを続けているように見えた。
「不思議なものだが、被害があったのは王宮だけなのかもしれないな」
真っ黒の消し炭状態となったチェレスティーナ妃を抱えた母が独り言を漏らすと、
「被害が出ないように力は注いでおいたからな」
同じように消し炭状態となったルクレッツィオを抱えた父が、胸を張って言う。
オストラヴァ王国を建国したフェリチャーノ王は、王国の安寧を祈るため、国全体を覆う守護の魔法陣を王宮の地下に作り出していた。この魔法陣に魔力を込めるのが国王の仕事の一つであり、その役目があるからこそ、王位継承は王族の中でも力があるものと約定に定められている。
オストラヴァ王国が何故、女性の王位継承を認めないのかというと、女性には出産が伴うからだ。王位を授けられた人間は、必ず月に一度、魔法陣に力を注ぎ込まなければならない。その一度がお産で出来ないとなれば問題だという事で、女王の即位は認められていないのだった。
「その二人は生きているんですよね?」
アンジェラを抱えながら僕が問いかけると、母は小さく肩をすくめながら、
「生きているが虫の息だ」
と、簡単に答えている。
無事に先祖の牙を使いこなして封印術を行い続けた部下達は、番がどうの、休みがどうのと騒ぎに騒いでいるのだが、確か、安全を図るために王都の外に逃していたんじゃなかっただろうか?
「長期休暇!長期休暇を希望します!」
「俺の番!迎えに行くから待っていてね!」
部下のあまりの騒々しさを聞くにつけ、来年あたり、子供の出生率が高くなっていそうな予感がする。まあ、番は世界で一番大事なものだから別にいいんだけどね。
「生きていればなんとかなるさ」
「そう、生きていればな」
父と母が息子と息子の嫁を見下ろしながら笑みを浮かべるので、そうだな、生きていれば何があってもどうにかなるものだろうと僕も思った。
「番が生きてさえいれば」
僕はアンジェラの額にキスを落とした。
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