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幽霊なんて見たくない  5

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 人の思いは意図しない形で動いていくものだよね。

 ルーチェさんがレオニダ君のお父さんであるマッテオさんの事が好きになったのは8歳の時の事で、その時からマッテオさんのお嫁さんになるのがルーチェさんの夢になった。


 年も近い商会の子供たち同士で遊ぶ機会も多くて、ルーチェさんはマッテオさんや弟のヨハンさんと何度も遊んでいたけれど、マッテオさんがいつも見つめているのはルーチェさんのお友達のフィロミーナさんだった。


 ルーチェさんはお父さんの力を使ってフィロミーナさんの家を潰す事に成功したけれど、王都から姿を消したフィロミーナさんは、アンドリアの街にある食堂でマッテオさんと再会してしまった。


 アンドリアの街はマッテオさんとフィロミーナさんの思い出の地であり、そこで二人だけの家を建てた二人は蜜月を過ごした。

 フィロミーナさんが亡くなったのは下級メイドが彼女に毒を盛ったから、その下級メイドはすでにこの世の人ではない。

 ルーチェさんの遣いの者に殺されたそのメイドさんは、遺体を川に投げ込まれた。


 女傑と言われたブルニルダさんや、マッテオさんの妻だったフィロミーナさんもいないリエンツォ商会に、ようやっと嫁ぐ事になったルーチェさんは、マッテオさんの妻の座を獲得したものの、息子のレオニダ君の面倒をみろと言われるだけで、妻として手を出される事は一度としてなかったみたい。


 ルーチェさんにとって邪魔なレオニダ君を殺すのは簡単だけど、もっと劇的に、自分がヒロインとなって目立つように、そうしてマッテオさんが妻に感謝の言葉と愛の言葉を囁かずにはいられないように、ドラマチックにレオニダ君を殺してやろうと思ったようで、そうして聖地巡礼の旅へレオニダを連れ出すことにしたわけだけど。


「ああ〜―!プライバシーがない!本当にプライバシーがない!」


 ようやっとアンドリアの街に到着して、積荷を降ろしていく商会の人たちの姿を眺めながら呻くように言葉を吐き出すと、隣に立っていた巨乳戦士が心配そうに私の顔を覗き込んできたわけですよ。


 ラルゴ草原で知り合ったこの物凄く美人で、物凄くグラマラスで、物凄く風変わりな戦士は、全く関係ないのにわざわざ私についてアンドリアの街まで引き返して来たのだった。


 炎のように真紅の髪を後一つに高々と結い上げ、太陽の光を浴びると一瞬金色に見える、不思議な琥珀の瞳をした美女は、私が幽霊たちから聞き取ったリエンツォ家にまつわる物語を語って聞かせると、

「幽霊から赤裸々に語られるだなんて!本当にプライバシーゼロだな!」

と、顔を青ざめさせながら頭上を仰ぐ。


「まさか僕にも同様の祖先の霊が憑いているかなんかしていて、僕の人生の物語を君に対して赤裸々に語っているわけじゃないだろうな?」


 この人、女の癖に僕って自分の事を言うんだよなあ。女戦士って男みたいに戦わなくちゃならないから、自分の事を僕とか言い出すものなのだろうか?


 あいにく巨乳戦士の後には鎧でガッチガチに固めたロングソードを携えた厳しい戦士しかいないので、表情は読み取れないし、寡黙に黙り込んでいるのよね。


「ご先祖様は戦士ですね」

「はあ?」

「ゴリゴリのロングソードを携えた戦士様なので、私ごときに語りかけてなんか来ませんから安心してください」

「戦士?ご先祖様戦士なの?」


 巨乳は背後を何度も振り返っているけど、そうだよ、戦士だよ、自分の肩くらいまであるなっがいロングソード持って立っているよ。

 その後ろの方にもなんだかぼんやりと見えるような気がするけど、見たくない、見たくない、私は幽霊なんか見たくない。


「アンジェラ様、エリア様、お待たせいたしました。こちらの方へどうぞ」


 毒を盛られて弱っていたレオニダ君を、ラルゴ草原からアンドリアの街まで移動させるのが大変だったのよ。巨乳戦士が持っていた薬草があったから何とかなったものの、これがなかったら本当に危なかったかもしれない。


 ルーチェを捕まえた時点で王都には緊急連絡を送っていたようで、アンドリアの街までレオニダ君を迎えに来ていたのは、応接室で待ち構えていたリエンツォ商会の会頭であるベニートさんと、レオニダ君の父親であるマッテオさん。私たちを迎え入れると、深々と頭を下げてきたわけです。


 横にいるヨハンさんの顔が腫れているのは殴られたからだろうな。マッテオさんがルーチェさんと再婚したのはヨハンさんが深く関わっているからなぁ。


 美しい花壇に囲まれた白漆喰が塗られた家は、商会の持ち物というより、何処かの若夫婦が手に入れた家といった様相を呈しているものの、中に置かれた家具などは大商会が所有する一級品で揃えられていた。


 胡桃材で作られたテーブルの上にはいくつもの宝石箱が乗せられており、王都から運ばれてきたルーチェの所有物だという事が良くわかります。


「この度は孫を救ってくれて何とお礼を言ったら良いものか、本当にありがとうございました」

「本当に有難うございます!あなた達がいなければ息子はすでに死んでいた事でしょう、まさかヨハンが魅了を受けているとは思いもしなかった」


マッテオに睨まれたヨハンが怯えた様子で硬直すると、ため息を吐き出したマッテオさんが私の方を見た。


「ルーチェが常に身につけていたペンダントには魅了の効果がある古代遺物だったそうですね。だとしたら何故、私は彼女に魅了される事がなかったのでしょうか?」

「竜の血が作用しているからですよ」

「え?」


「竜は生涯、一人の伴侶しか愛さない。マッテオさんにとってのフィロミーナさんは、貴方にとって唯一の番だった。そして、フィロミーナさんにとっての番は貴方一人だった。フィロミーナさんのご先祖は強大な竜を倒す際に、その全身に真っ赤な竜の血と呪いを受けているんです。そのため、竜寄りに体が変化したとも言えるんでしょうね」


 私は並べられた宝石箱の一つを開けて中身をテーブルの上にぶちまけると、底板を外して中に仕舞われていた、ラピスラズリの美しい輝きを持つペンダントを取り出した。


「マッテオさん、フィロミーナさんが息子さんに授けたペンダントを出してください」

あらかじめ、レオニダ君がお母さんから譲り受けたペンダントは用意するように言っていたので、マッテオさんはテーブルの上にエメラルドの輝きを持つペンダントを置いた。


「一見して宝玉のようにも見えるこの二つのペンダントなんですけど、実は竜の鱗で出来ているんです」

 ラピスラズリとエメラルドの二つのペンダントを掲げてみせると、部屋にいる全員の視線が集まった。今は人払いを済ませているので、部屋の中にはリエンツォ商会の三人と私と、巨乳戦士しかいない。


「レオニダ様を捕えるための呪具としてルーチェさんが使ったラピスラズリのペンダントと、レオニダ君が持つエメラルドのペンダント、この二つは竜の番同士となる二匹の竜の鱗から作られたものでした」


 隣に立つ巨乳戦士が、頬を紅潮させながらこちらを見る。興奮して巨乳が上下に揺れているけど大丈夫なのかな?

 いやいや、巨乳ばっかり気にしている場合ではない。私は咳払いを一つすると話を進めた。


「血族に呪いを与えた竜の番の竜の鱗を持つ事で、呪いを軽減させていたんでしょう。このエメラルドのネックレスは代々、血族に譲り渡されてきたものになります」

「つまり、エメラルドの方が雌で、ラピスラズリが雄の竜の鱗って事になるのですか?」


 驚きを隠せない様子でベニートさんがが問いかけてきたので、私は大きく頷きました。


「保有魔力が平民と比べると遥かに高い貴族の髪色が鮮やかな色合いなのは、先祖の竜の鱗の色が反映されていると言われています。竜の鱗の色が鮮やかなのは、膨大な魔力の証、二匹の番の竜の鱗が、時代を経て、ようやく出会ったということになるんです」


 みんなが感心した様子でネックレスを見つめています。

「呪われているという事は竜の力に囚われているという事で、いくら貴重な古代遺物を使ったとしても、レオニダ君を魅了することは出来ない。ですが、それが関わった竜の鱗を使った呪物があれば、話は違ってくるんです。番は生涯相手だけ、相手の心を捉えられるのは番だけと相場は決まっているんです」


 本当に、何百年も前の死んだ竜の鱗を使った呪物を引くだなんて、ルーチェさんは引きが強いと言えるでしょう。


「ここでようやく二頭の竜は出会うことに成功したわけです、私はこれを使って竜の呪いをこの場で解くことが出来るわけですが、そうすると、この二つの鱗はこの場で消失する事になってしまいます。ご先祖様は、さっきから、どうか成仏させてくれと願っていますが、どうしますか?解放するか、そのままで置くか」

「解放してください!」

 マッテオさん必死になって言い出した。


「妻のネックレスは消えても構いません!呪いからの解放を望みます!」

「だが、フィロミーナさんの思い出が残るものだろう?」


 ベニートさんが心配そうに声をかけると、マッテオさんが今にも泣きだしそうな声で言いました。

「思い出は他にもあります、この家には彼女の思い出がいっぱいあるから、どうかお願いです、息子の呪いを解いてやってください」


 横ではヨハンさんが何度も何度も頷いている。

 兄弟仲は悪くないんだよね?

 ヨハンさんが頼りなさすぎるところが問題なだけで、ルーチェさんに嵌められなければ、こんな事にはならなかったんだもんね。


「それじゃあ失礼しますね」


 恥ずかしながら、私は高らかに歌い始めました。

 歌う声に力を込めた。

 歌を歌うことで、二匹の竜を顕現させなければならないから。

 そうして両手に挟み込むようにして鱗を重ね合わせると、鱗は砂となって飛び散り、窓から入り込んだ風に乗って消えていってしまったのだった。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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