新しい生と古びたものの死と 1
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「あちらが竜の角で出来た剣、7本で封印をするのなら、こちらは竜の牙百匹分で封印をする?」
エリアルディオ殿下の右腕を自認する俺、オストラヴァ王国軍第一部隊を率いるバジリオは、意味不明な命令を前に、思わず卒倒しそうになってしまった。
「ちょ・・意味わかんないっす、竜の牙、百匹分って、どの程度の強さのどの程度のレベルのものを言っているんですかね?」
第一部隊は殿下直属の部隊であり、ご先祖様である竜人の特性を持った人間の寄せ集め部隊なんて風に、過去には言われていた事もある。
強いが正義だから、平民だって上官に就く。お貴族様がその身分を嵩にきて好き勝手言うことなんか出来ない場所。その為、お貴族様にとっては目の上のたん瘤のような部隊とも言えるわけだけど、隊員のほとんどが番の伴侶付き、つまりはそれだけ強い奴らで揃えられているという事にもなるわけだ。
王国軍の中では最強を意味する一の数字を冠しているこの部隊は、クシャダス帝国との戦いでも先陣を切る予定でいた訳だけど、竜の討伐で手間取る事になって参加が遅れちまったんだよな。
ご先祖様が竜とか竜人とか言われる訳だけど、今の世の中にも、乱獲によってその数をめちゃくちゃ減らした竜属が存在する。退化が進んで人間でも殺せるほど弱くなってしまったのだが、たまに滅茶苦茶強いやつが生まれ出る事があるわけだ。
先祖返りとか言われるんだけど、村を5つ滅ぼした竜を討伐しなければならないという事で、俺たちは戦争を目前にしながら山に籠ることになってしまったのだ。竜は第一部隊にしか討伐が出来ない。それは何故かというと、竜の討伐には特殊な封印術を使う事になるからだ。
巨大な竜の牙を使用した封印術は特殊なもの、それを殿下は行うつもりなんですかね?
「最強クラスを百匹分」
んなもん、残っている訳がねえやろがい!
「王家の墓所を開けていいと言われている」
「王家の墓所って貴方(あ〜た)!」
ご先祖様クラスの牙を無造作に使おうって事ですかい?
オストラヴァ王国は強いが正義、絶対的強者である殿下がやれっつうのなら、俺たちはやるしかない!百匹分の牙を馬車に積み込んで、王宮の端に位置する竜の間がある宮殿へと向かっていくと、地響きが鳴り響き、竜の咆哮が凄まじいあまり、馬が恐怖で立ち止まってしまった。
「馬を外せ!人力で運ぶぞ!」
精鋭百名を揃えて馬車を押して会場へと向かうと、空が真っ赤な血を落として広げたかのように染まり上がり、地上はタールを落として沈み込んだかのような漆黒に沈む。
遥か先に見える山脈が大地から剥がれだし、竜の巨頭が空に向かって咆哮するのと同時に、地面がグラグラと横揺れに揺れ始めた。
「せ・・世界の終わりか・・・」
誰が言った言葉なのか、慄くような恐怖が広がっていくのを感じながら俺は、
「レアーーーーーーーーーっ!」
と、己の番の名前を空に向かって叫んだわけだ。
「俺が世界を守る!俺が世界を守る!だからお前は安心して待っていてくれー!」
「アリアーーーーーーーーっ!俺はやってやるぞーーーーーーーっ!」
「カナンーーーーーーっ!待っていてくれーーーーーーーーっ!」
「ベラーーーーーーーっ!愛してるーーーーーー――――っ!」
世界が滅んだら番が死ぬ!番が死んだら自分は死ぬ!(ほど後悔する!)
「それぞれ、牙を二本所持!無茶苦茶歴史あるご先祖様の牙だから折れたり落っことしたりしたら首が飛ぶと思え!」
「無茶だ!敵が大物だったら折れる場合もあるんだぞ!」
「牙が重めえええ!こんなの持ってやれるのか?」
「やれる!番の為だったらなんでもやれる!」
「番のためにやろう!」
「やろう!番のために!」
こいつら馬鹿だから、番を引き合いに出せば大概の事はやっちまう。
独身の部隊員には申し訳ないが、番への思い頼みのこの作戦!虚しさを少しでも覚えるのなら、先輩を見習って早いところ番を見つけてもらいたい!
「殿下―!お待たせしましたーーーー!」
完膚なきまでに破壊された、古くても豪華な建物の残骸の中へと突っ込んでいくと、そこには想像も出来ないような状況が広がっていた。
「殿下、あなた、竜の討伐だって言っていましたよね?」
「竜の討伐だが?」
失神した番を王妃様に渡しながら(そこで力持ちの王様に渡さず、王妃様に渡す気持ちはよく分かります。親父といえども、男に触れさせたくないって奴ですよね)殿下は平気な顔で俺の方を振り返った。
「いやいや、赤ちゃんの討伐ですよね?」
目の前に見えるのは、およそ大人の身長二人分の高さに成長した赤子なのだが。
「あれが赤ちゃんに見えるのか?」
心底呆れたみたいな様子で殿下に問われると、途端に自信が無くなってくる。
「・・・・え?」
真っ黒なタールでびしゃびしゃになった豪奢な建物の残骸の中で、苛立たしそうに動いているのは巨大な血まみれの赤ちゃんで、その巨大赤ちゃんの後に現れた銀の鱗の竜が、危機迫る様子で赤ちゃんの喉笛に噛み付いている。
「オギャーーー!オギャーーーーー!」
狂ったように泣く赤ちゃんは、手を振り回しながら銀色の竜を捕まえようとするんだけれど、手が短すぎて届かない。
そうするうちに、どんどん大きくなった赤ちゃんの頭が天井に届くほどの高さになり、銀色の竜が押し潰されていく様が目に入った。
「銀色は辺境の竜だ、お前らは異界の雌竜の封印だけを考えろ!」
殿下はそう言って走り出したけれど、
「ああ、そういえば髪色がピンク色かあ?」
巨大赤ちゃんの髪の毛の色を判じたところで、何かの状況が変わるわけじゃない。
「お前ら、俺が封じている間に、がんじがらめにしろよ!」
親指の腹を噛み切って、自分の血液を撒き散らすと、それが目の前の床に血の紋章を作り出す。その紋章の上に二本の牙を突き刺すと、赤子の動きが鈍くなる。
脈々と力を送り続けるその気脈の道に穴を空け、吹き出した先から燃やし出す。
俺は炎の竜だから、吐き出す呼気すら炎と化す。
力がある竜は大地を覆う気脈や魔素の力を取り込んで力とするが、異界の雌は全く違った力を己のものとしている。それが、山脈の巨龍の力であり、その膨大な力で巨大化をしているのはわかっているから、その送られる力を遮断した上で、炎にして燃やしていく。
俺の炎で周りのタールにまで火がついた。
赤ちゃんの夜泣きは地獄だっていうのは周知の事実だが、これに炎が追加されたら火がついたように泣くって事になるわけだ。
これがまさにおんぎゃあ・炎の地獄って奴だな!
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